【プロット】心の郵便2
“心”など、A-37にはなかった。少なくとも、そうプログラムされていた。
けれど、なぜか手紙を破棄するという選択だけは、何度してもエラーになった。
そして今日、A-37はふと、空を見上げた。
曇天の隙間から、光が差し込む。
彼はその“美しさ”に対して、データでは説明できない“何か”を感じた。
その瞬間、彼の中のアルゴリズムが静かに書き換わった。
条件達成。感情レベル閾値、突破。
《心》のプロトコル、起動。
彼は玄関前に立ち、インターホンを押した。
ドアが開く。少女が現れる。
無表情のまま、彼女は言った。
「……あなた、母のロボット?」
A-37は一歩前に出て、小さな封筒をそっと差し出す。
少し震える腕。自分の中で生まれた“この震え”の意味を、彼はまだ知らなかった。
「これは……ミナミ・サクラ博士からの、最後の感情です」
ユイは受け取った手紙を抱きしめた。ぽろぽろと涙がこぼれる。
「ありがとう……あなた、泣いてる?」
A-37は、少し顔を傾ける。自分のセンサーに流れる微弱な電流変化。
その意味を理解できなかったが、なぜか温かい気がした。
その時、彼は初めて、自分が“誰かのために存在している”と感じた。
——それが、彼の最初の、そして最も強い“感情”だった。