表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

298/317

【プロット】花霞の頃

春の風が山あいを撫でるように吹き抜けると、桃と桜と梅が咲き誇る谷間に、やわらかな霞が立ち込めた。それは霧とも違い、煙とも違い、まるで花々の吐息が宙をたゆたっているかのようだった。

人はそれを「花霞はながすみ」と呼ぶ。

それを見るたび、里の人々はこう言い伝える。

「花霞が立つ夜、忘れられた想いが戻ってくる ――」

この谷に戻ってきたのは、七年ぶりだった。

風間かざま あずさは、ふと立ち止まり、木々の間から霞のたなびく谷を見下ろした。

かつて、幼き日々を過ごしたこの土地。

だが、記憶はところどころ薄れていて、それを埋めるかのように霞は漂っている。

「……やっぱり、いる気がするな。あの時の ――」

梓のつぶやきは風に攫われ、誰の耳にも届かない。

ただ一つ、谷の底で咲く一本の古木の桜だけが、その言葉を聞いたかのように、わずかに枝を揺らした。

その夜、梓は夢を見た。

それは、花霞の向こうから歩いてくる誰かの夢だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ