【プロット】涙のシューズ
古びたアパートの一室、窓際で一人、私は古いオルゴールを眺めていた。淡いピンク色の塗装は剥げ落ち、ゼンマイを巻くネジは錆びついている。それでも、このオルゴールは私にとって、かけがえのない宝物だった。
かつて、私はバレリーナを目指していた。
小さな頃から踊ることが大好きで、舞台に立つことを夢見ていた。
厳しいレッスンにも耐え、コンクールで賞を取ることもあった。
しかし、17歳の冬、私は交通事故に遭い、左足を負傷した。
医師からは、「もう、以前のように踊ることは難しい」と告げられた。
夢を絶たれた私は、絶望の淵に突き落とされた。
生きる希望を失い、自暴自棄になった。
そんな私を支えてくれたのは、このオルゴールだった。
事故に遭った日、病院のベッドで意識が朦朧とする中、オルゴールの優しい音色が聞こえてきた。
見舞いに来てくれた祖母が、私のために持ってきてくれたのだ。
「これはね、あなたが生まれた時に、おばあちゃんがプレゼントしたオルゴールよ。
覚えてる?」
祖母の言葉に、私は幼い頃の記憶を思い出した。
オルゴールの音色を聞きながら、祖母に抱かれて眠ったこと。
バレリーナになりたいと、初めて祖母に打ち明けたこと。
オルゴールの音色に、私は心が安らぎ、生きる希望を取り戻した。
そして、リハビリに励み、再び舞台に立つことを決意した。
しかし、現実は厳しかった。
以前のように踊ることはできず、思うように体が動かない。
それでも、私は諦めなかった。
血のにじむような努力を続け、少しずつ、少しずつ、回復していった。
そして3年後、私は再び舞台に立つことができた。
スポットライトを浴び、観客の視線を感じながら、私は心から踊りを楽しんだ。
舞台袖に戻ると、祖母が待っていた。
「よく頑張ったわね」
祖母の言葉に、私は涙が溢れてきた。
「ありがとう、おばあちゃん」
私は祖母を抱きしめ、感謝の気持ちを伝えた。
それから数年が経ち、祖母は他界した。オルゴールは、祖母の形見として、私の手元に残った。
私は今、バレエ教室を開いている。
怪我で夢を諦めかけた経験から、子供たちに夢を持つことの大切さ、そして、諦めないことの大切さを伝えている。
オルゴールの音色を聞くと、私はいつも祖母を思い出す。
そして、あの時、諦めずに頑張り抜いた自分を思い出す。
このオルゴールは、私にとって、かけがえのない宝物であり、そして、私の心の支えなのだ。