【プロット】冬の朝、君に逢いに
吐く息が白い。
目の前の景色が、吐息の白さに滲んでいく。
街灯のオレンジ色の光だけが、ぼんやりと輪郭を保っていた。
ここは、S市の郊外にある小さな駅。
午前5時。始発電車まであと30分。
ホームには私一人だけ。
凍える指でスマホを取り出し、時間を確認する。
まだ返信はない。
「本当に来るのかな」
不安が胸を締め付ける。
こんな時間に、こんな場所で、彼と会う約束をしているなんて。
彼とは、ネットで知り合った。
読書好きが集まるサイトで、たまたま同じ小説の感想を投稿したのがきっかけだった。
彼の名は、冬馬。
冬馬は、私と同じように小説を書くことが好きで、いつも的確なコメントをくれた。
彼の言葉は、いつも私の心を温めてくれた。
ネットでのやり取りを重ねるうちに、私は冬馬に惹かれていった。
そして、冬馬もまた、私に好意を抱いてくれているようだった。
しかし、冬馬は自分のことをほとんど話そうとしなかった。
年齢も、職業も、住んでいる場所も。
唯一分かっているのは、彼がS市に住んでいるということだけ。
そして、昨日。冬馬から突然メッセージが届いた。
「明日、会いたい」
私は驚き、戸惑った。
でも、冬馬に会いたいという気持ちは、私の不安を上回った。
だから私は、彼の指示通り、始発電車の30分前にこの駅に来た。
遠くから、電車の音が聞こえてきた。
ヘッドライトが、暗闇を切り裂くように近づいてくる。
心臓が、高鳴る。
電車がホームに滑り込み、扉が開く。
乗客はまばらだ。
その中に、冬馬の姿を探すが ───
「いない」
肩を落とす。
やっぱり、来ないんだ。
騙されたんだ。そう思った瞬間、背後から声が聞こえた。
「待った?」
振り返ると、そこに冬馬が立っていた。
彼は、想像していたよりもずっと若かった。
まだ20代前半くらいだろうか。
黒いコートに身を包み、白いマフラーを巻いている。
その顔は、どこか儚げで、それでいて美しい。
「冬馬 ……… さん?」
私は、彼の名前を呼ぶのが精一杯だった。
「うん。
ごめん、遅れた」
冬馬は、少し照れたように笑った。
その笑顔を見た瞬間、私は、彼に会えて本当に良かったと思った。
私たちは、駅前の喫茶店に入った。
温かいコーヒーを飲みながら、冬馬は、自分のことを話し始めた。
彼は、大学に通っている学生だった。
小説家になるのが夢で、毎日、小説を書いているという。
そして、彼が自分のことを話そうとしなかったのは、自分に自信がなかったからだと告白した。
「僕は、体が弱くて、ずっと病院に通っていたんだ。
だから、普通の生活を送ることができなかった。
でも、君と出会って、初めて自分のことを話したいと思えた」
冬馬の言葉に、私は胸が詰まった。
彼は私にとって、特別な人だった。
ネットでのやり取りを通して、いつも私に勇気を与えてくれた。
私は、冬馬の手を握りしめた。
「冬馬さんの小説、大好きです。
いつか、本になるといいですね」
冬馬は、私の言葉に、目を潤ませた。
「ありがとう。
君にそう言ってもらえて、本当に嬉しい」
窓の外は、少しずつ明るくなってきた。
冬の朝は、まだ寒かった。
でも、私の心は、温かかった。
冬馬と出会えたこと。それは、私にとって、最高の冬の贈り物だった。