【プロット】屋根裏部屋の漁師
潮の香りが染み付いた古い木造家屋。
その薄暗い屋根裏部屋で、漁師の男、海藤は一人、過去を振り返っていた。
海藤は若い頃から海と共に生きてきた。
荒波にもまれ、太陽に灼かれ、己の腕一本で魚を獲る。
その生活は厳しくも、彼にとってはかけがえのないものだった。
ある日、彼は嵐の海で美しい娘を助けた。
娘の名は汐里。
透き通るような白い肌と、吸い込まれるような青い瞳を持つ、まるで海の精のような娘だった。
汐里は海藤の荒々しいまでの男らしさに惹かれ、二人は恋に落ちた。
やがて結婚し、二人の間には子供が生まれた。
海藤は汐里と子供たちを何よりも愛し、守ることを誓った。
しかし、幸せな日々は長くは続かなかった。
汐里は病に倒れ、帰らぬ人となったのだ。
海藤は深い悲しみに暮れ、生きる希望を失いかけた。
そんな彼を支えたのは、子供たちの存在だった。
彼は汐里の面影を残す子供たちのために、再び海に出るようになった。
だが、海藤の心には、汐里を失った喪失感と、彼女への強い執着が残っていた。
彼は汐里以外の女性に目を向けることができず、子供たちにも過剰な愛情を注いだ。
特に、汐里にそっくりな娘、海音には、特別な感情を抱いていた。
海音は成長するにつれ、ますます汐里に似ていった。
海藤は海音の中に汐里の姿を重ね、彼女を束縛するようになった。
海音はそんな父の愛情に戸惑い、息苦しさを感じていた。
彼女は自由に外の世界へ飛び出したいと願っていたが、海藤はそれを許さなかった。
ある日、海音は家を出て行こうとする。
海藤はそれを必死に止めようとするが、海音は彼の腕を振り払い、家を飛び出した。
「行かないでくれ!
汐里!」
海藤は泣き崩れた。
彼の心は、汐里を失った時よりも深く傷ついていた。
一人残された屋根裏部屋で、海藤は過去の記憶を辿る。
汐里との出会い、結婚、子供たちの誕生、そして汐里の死。
そして、海音への歪んだ愛情。
彼は初めて、自分の過ちに気づいた。
汐里を愛するあまり、彼は生きている者たちを苦しめていたのだ。
「俺は、俺は ───」
海藤は言葉にならない叫び声を上げた。
後悔と自責の念が、彼の心を締め付ける。
彼は、汐里の幻影に囚われたまま、孤独な日々を送ることになる。
屋根裏部屋の窓から見える海は、かつて彼に希望を与えてくれたものだったが、今はただ、彼の罪深さを映し出す鏡のように思えた。
海藤は、汐里への愛と、生きている者たちへの償いの間で、苦しみ続ける。
彼の心の傷は、癒えることなく、深い闇の中に沈んでいくのだった。