【プロット】雪とペン
雪が降っていた。
細かな雪が、音もなくしんしんと降り積もる。
視界のすべてが白に覆われ、自分がどこにいるのかわからなくなるような感覚に陥る。
僕は、スキー場のロッジの窓際で、熱いココアを両手で包み込んでいた。冷え切った体が、内側からじんわりと温まっていく。
「今年は雪が多いな」
誰に言うでもなく呟くと、虚しいほどの静寂が返ってきた。
いつもなら、ここで誰かが相槌を打ってくれる。
くだらない冗談を言い合って、笑い声が響く。
だが、今年は違う。
僕は一人だ。
作家である僕は、孤独を愛していたはずだった。
創作活動に没頭するために、あえて人里離れた山荘にこもることもあった。
孤独は、僕にとって最高の友であり、インスピレーションの源だった。
しかし、ここ数ヶ月、なぜか心がざわついていた。
まるで、心の奥底にぽっかりと穴が開いたような、空虚感に苛まれていた。
原因はわかっている。
友人の死だ。
彼は、僕にとって唯一無二の親友だった。
学生時代からの長い付き合いがあり、喜びも悲しみも分かち合ってきた。
彼がいなくなってから、世界は色を失ったように感じられた。
「─── 書いてみるか」
僕はノートパソコンを開き、物語を書き始めた。
主人公は、僕と同じく孤独な小説家だ。
彼は、スキー場で一人の女性と出会う。
彼女は、明るい笑顔が印象的な女性で、主人公の心を解きほぐしていく。二人は、スキーをしたり、ロッジで語り合ったりするうちに、次第に惹かれ合っていく。
しかし、彼女は突然姿を消してしまう。
主人公は、彼女を探し求めて、スキー場を彷徨う。
そして、雪山の奥深くで、彼女が雪崩に巻き込まれたことを知る。
主人公は、深い悲しみに暮れる。
そして、彼女との思い出を胸に、再び孤独な世界へと戻っていく。
物語を書き終えると、僕は深い溜息をついた。
まるで、自分の心を抉り出すような、苦しい作業だった。
それでも、僕は書き続けた。
友人のことを忘れないために。
そして、彼との思い出を、物語という形で残すために。
雪は、まだ降り続いていた。
白い世界は、どこまでも広がっている。
僕は、一人静かにココアを飲み干した。
温かさが、体だけでなく、心にもじんわりと広がっていくのを感じた。
いつか、この雪が溶けるように、僕の心の傷も癒える日が来るのだろうか。
僕は、窓の外の雪景色を眺めながら、そう思った。