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20/23

決意

 グレンとの戦いの翌日、俊一が寮で目を覚ましてから最初に思い浮かべたのは、エレナのことだった。

 彼女と話したい。心の底から思った。

 しかし、学院で腹を割って話すのは恐らく危険だ。

 あの人に相談するしかない。


 放課後になって、俊一は真っ先に男がいる場所に向かった。

 男はいつものように、茂みの間にたたずんでいた。

 「よう、ヒーロー、昨日はかっこよかったぞ」

 「俺はヒーローなんかじゃないですよ。あなたともう1人、俺を支えてくれた人がいたんです。だから、窮地を切り抜けられたんです」

 「……成長したな。謙虚で人に感謝できる。俺にはできなかったことだ。だから、お前は優れているんだろうな」

 俊一は、照れくさそうな表情をした。

 「いつものあなたらしくないですよ。そんな風にほめるなんて」

 「お前も敬語なんて使って、らしくないんじゃないか?」

 「尊敬できる人には、丁寧に接しなければいけないって思ったんです。それで、その……、今日は稽古の他に、色々と相談があってあなたと話に来ました」

 「なんだ?言ってみろ」


 俊一は、真っ先にエレナのことを切り出すつもりだったが、その他にも色々と疑問があった。

 昨日の出来事を頭の中で整理し、一呼吸を置いてから男に話しかける。

 「昨日、俺は命を狙われました。それはなぜなんでしょうか?」

 「あそこまでやってしまったのは、あのルイーゼとかいう女教師の独断だよ。だが、お前に対してなんらかの揺さぶりをかけることは、前々から学院が考えていたことだ」

 俊一は不思議な顔をする。

 「……昨日までの俺は魔法も使えなかったんですよ。それなのになぜ……?」

 「なあ、ここの学院の生徒たちが監視・管理されていることは薄々気づいているんだろう?どういう方法だと思う?」

 「それは、魔法を使って生徒たちの映像を盗み見るとかじゃないんですか?」

 「いや、ここには数百名の生徒が在籍している。それを全て見渡すのは不可能だ」

 「それだと……、正直、予想もつかないです」

 男は心臓の部分を指さした。

 「生徒たちのここら辺にな、ある種を埋め込むんだ。それは寄生虫のように小さく、体に触れると、自然と体内に入り込む。そして、体内で種が育つと、魔法を使って、埋め込んだ人物の体調や五感などの情報を感じる取れるようになる。それどころか、種が成長しきると、肉体や感情さえもコントロールまでもできるようになってしまうんだ。もっとも、お前と戦ったグレンのように、種が成長しきるパターンは珍しいんだがな」

 男の話は、俊一の気分を悪くさせるものだった。吐き気がこみあげてくる。

 「……そこまでこの学院は……」

 「そうだ。だが、一旦学院に対する不快な感情は置いて話を聞くんだ。人によっては、種がほとんど育たない者も存在する。そして、お前は特別の例外で、種が育たないどころか、枯れてしまうんだよ。お前を召喚した者たちは、魔法の力でそれを調べさせたが、その原因は分からない。じゃあ、どうするか?他人にお前を監視させるんだ。周囲の人々がお前を見て、感じ取った情報を分析する。それによって、種が枯れる秘密を解き明かそうとした。それがお前を学院に連れてきた目的だったんだよ。でも、最近お前、ポールっていう生徒と仲良くなっただろ。そしたら、いつもお前のそばにいたポールの種も枯れてしまったんだ。だから、学院も困惑してる。それで別のアプローチをかけてみた。結果として、お前の潜在能力を引き出してしまったわけだがな」


 俊一はしばらく黙りこくった。頭がグルグルしてくるというのが、正直な感想だった。俊一はまだ16歳を迎えたばかりの少年に過ぎないのだ。

 「じゃあ、俺はとても危ない状態なんですね。学院は俺を危険人物と判断している……」

 それを聞いて。男はニヤリとした。それは頼もしさを感じさせる表情だった。

 「いや、それがそうでもないんだよ。学院はお前を危険と感じつつも、期待もしている。今までにない優秀な魔導士が育つ可能性があるからだ。意見は分かれているようだが、お前を自分たちの側に取り込んでしまえというのが、学院の大勢だ。お前はしょせん子どもに過ぎない。別に、種など使わなくても、別のやり方で自分たちの言うことを聞かせることができるはず、と考えているみたいだな」

 「俺はそれを断固として拒否します。……それで、俺は考えたんです。自分に必要なのは、同じ志を持つ仲間じゃないかって」

 男は驚いたように俊一を見た。

 「……あの、浅はかな考えですか?」

 「そうじゃないんだ。良い考えたよ。その候補っていうのは、まずは仲の良いポールって少年か?」

 「いえ……、ポールは優秀な魔導士になると思いますが……、恐らく学院と戦うほど心が強いとは思えないんです。もちろんポールとは可能な限り友達でい続けますが。だけど、俺が今考えているのは、エレナさんと、そしてグレンです」

 「ほう、エレナ・シュタインは分かるよ。彼女は種の影響が薄い人間の1人だ。しかも優秀と来ている。だが、グレンはなぜそう思ったんだ?」

 「彼が弱い生徒たちをまとめて守っているという話を聞いて考えました。彼は、多分その優しさに付け込まれたんだ。不当に感情を操作されて、そのせいで自分の能力も発揮できなくなった。でも、その経験は逆に、悪い感情に抵抗する力を与えるような気がするんです」

 「それがお前の予想、いや予言というわけか」

 「そんなたいそれたものじゃないですよ。ただ、なんとなくそんな気がするんです」

 ――それがたいそれたものなんだよ。お前は特別な力に恵まれている。魔法よりも第六感と言った方が適切なのか?状況を的確に読み当て、その先まで見通す力を持っているんだ。ポールという少年を仲間から除いたのがその力を証明している。それに加えて、異常な身体操作魔法。あれは、速さだけじゃなく、自分の集中力までコントロールしていた。こいつは俺などあっという間に超えてしまうかもな……

 男にとって、それは不思議な感覚だった。自分とはなぜここまで差が出たのか。だが、それが分かることはきっとないだろう。その前に俺は……。

 「……その、さっきから考え事が多いみたいですね」

 「ああ、すまない。でも、俺のことは気にしなくていい。それで俺に頼みたいことがあるんだろう」

 「はい。まずは、エレナさんと話し合う機会が欲しいんです。あなたはどうやら学院から気配を消す力を持っている。だから、俺とエレナさんの気配を消して話し合う場を作ることも可能かと思って」

 「いいだろう。だけど、会いたいという言葉は、自分自身で彼女に伝えた方がいい。手紙を書くんだ。それを届けてやる」

 「え……、あ、はい……」

 俊一は、妙に気恥しい気分になってしまった。

 今まで聞いてきた、学院の恐ろしい話も吹き飛んでしまった。

 手紙は恋文じゃなくて仲間をつくるためのものだ。そう思っても、どんな手紙を書けば、彼女に変に思われないか、そればかりが気になってしまった。

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