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プロローグとバッドエンド②

 「思ったよりも全然楽な道のりだな」

 勇者は言った。

 それに関しては、女も同じ感想だった。

 モンスターに襲われて壊滅させられた村。そこから魔王がいるとされる城までは、険阻な山道を超え、多くのモンスターと戦わなければならない。

 そうでなければならないはずであった。

 しかし、勇者たちはモンスターと遭遇することもなく、整備された山道を悠々と歩いていた。

 「何かの罠ですかねぇ?」

 キツネ目の男がこの島についてから初めて口を開いた。

 彼は、勇者たちのパーティーの中で、スカウトの役割を担っていた。

 攻撃系の魔法も得意だが、接近戦も苦手でなく、さらには探索系の魔法も使うことができる。

 彼らの中で最も有用な人材といってよかった。

 しかし、女はどうしてもこの男を好きになれなかった。

 いや、好きになれないという意味では、実はパーティの男、全員に対してそう思っていたのだが、キツネ目の男だけには特に気を許していなかった。

 彼女は、この男が腹に一物を抱えているような気がしてならなかったのだ。


 勇者たち一行は、とうとう魔王城がある場所にたどり着いた。

 すると、城は忽然と姿を消し去ってしまった。

 「……幻」

 女はつぶやいた。

 城などなかった。それならば、魔王もこの島にいないのだろうか?

 しかし、そこには城の代わりに洞窟があった。

 「……この洞窟の奥に魔王がいるのか?」

 勇者はキツネ目の男の方を振り向いて尋ねた。

 探索系の魔法の見せどころであるはずだ。

 しかし、キツメ目の男から返ってきたのは、曖昧な答えだった。

 「さあ?どうなんでしょう?何かがいるような気配はしますが、魔王かどうかは分かりかねますね。でも、先に進む以外選択肢はありませんよね?」

 「……そうだな」

 勇者は若干不機嫌そうに答えた。

 そのやり取りを見て、女は船頭の言葉を思い出す。

 「本当にあの3人で大丈夫なのかい?」

 ――それでも私は、この3人と協力して、必ず魔王を倒さなければならない。私には、絶対に帰らなければならない場所があるんだ!

 「行きましょう。たとえ罠だとしても、私たちは進まなければならないわ」

 女がそう言うと、勇者も納得したようだった。

 「そうだな。行こう!」


 4人が洞窟に入ると、その途端、洞窟の入り口は赤色の幕で覆われた。

 「結界ね。それもかなり強力なものみたい。退路は塞がれたようね」

 女がそう言うのに対して、勇者は応えた。

 「いいさ、君が言った通り、俺たちは進まなければならないんだ。この先にいる者を倒せばいい。それだけだろ?」

 「……ええ、そうね。その通りよ。先に進みましょう」

 勇者たちは、注意深く歩みを進めた。

 山中では何も起こらなかった。代わりに、この場所では苦しく険しい道のりが待っているはずだ。勇者たちはそう思っていた。

 しかし、想像していたことは何も起こらなかった。罠が仕掛けてあるわけでもなく、モンスターが出てくるわけでもなかった。ただただ洞窟の道が先に続いているだけだった。

 女は不思議に思う。

 ――この先にいるのが魔王だとしたら、彼は一体何をしたいのかしら?私たちなど鼻から相手にしてない?それなら麓の村を襲った理由は何なの?

 彼女は再び船頭の言葉を思い出す。

 「魔王は……」

 あれは何が言いたかったのか?

 彼女は、魔王という人物に出会いたくなってきた。敵としてではなく、その存在そのものに興味が湧いてきていた。それが危険な発想だということは認識していたが、好奇心が抑えられなかったのだ。彼は噂されているような恐ろしい者なのか?それとも……。

 

 勇者たちが洞窟に入ってから10分くらいだろうか?

 彼らは結局何の障害も出くわさずに、その終着地点と思わしき場所にたどり着いた。

 それは、洞窟の壁をふさぐ扉。

 その扉は、巨大で分厚く、そしてこの場所に相応しくない華麗な装飾が施されていた

 「これを壊して中に入るか?」

 体の大きな男、プリーストは勇者に尋ねた。

 あわてて女が話に割り込む。

 「待って!その前に確認よ。私が船の中で話した戦術、みんな覚えているわね。それだけは絶対に崩さないで戦いましょう」

 「ああ、分かってるよ。君が話したことで間違ったものは、今まで一度もなかった。大丈夫、俺たちは上手くやれるさ」

 「ありがとう。期待してるわ」

 女がそう言うと、勇者は満面の笑みを浮かべた。

 しかし、女は勇者のことを信用していなかった。

 ――この人は自信過剰だから、結局は自分の浅はかな判断で最後は動く。プリーストは勇者の賛美者だから、彼につられてしまう

 女はキツネ目の男の方をちらりと見た。

 ――そして、この男は何を考えているのか全く分からない

 しかし、この3人と協力するしかないのだ。それしか方法はないのだ。

 「話は終わったか?」

 洞窟の奥から突然、声が響いた。 

 それとともに、目の前の巨大な扉がひとりでに開いて行く。

 「魔王様のお呼びらしいぜ」

 キツネ目の男が茶化すような感じでそう言った。

 「気を引き締めろ!これが最後の戦いになるんだ!行くぞ!」

 勇者は、はっきりとそう言って、扉の中に入って行った。

 他の3人もそれに続いた。


 扉の奥は簡素な部屋だった。

 あるのは、机と椅子、そして本棚と本。それだけだった。

 その中で特筆すべきは、本の多さくらいなものだ。高い本棚が数多く並んでいたが、それだけでは収納できず、部屋中の至る場所に本が積み上げてあった。

 そして、部屋の主も椅子に座りながら本を読んでいた。

 主は勇者たちと同じくらいの若者のようだった。

 「ようこそ、どのような御用で?」

 「……お前が本当に魔王なのか?」

 勇者はいぶかしげな様子で尋ねた。

 それも当然で、椅子に腰かけていたのは、魔王とは到底思えない人物だったからだ。

 体は小柄で、やせ細っており、髪の毛はぼさぼさな上に伸びっぱなしで、半分顔が隠れている。服装も、いかにも安っぽい服を身にまとっているだけだった。

 「逆に聞きたいが、魔王とは何なのだ?魔王と呼べば、そいつが魔王になるとかいうふざけた答えはよしてくれよ」

 「そうじゃない。魔王はモンスターを操り、多くの人間を殺した。その悪の元凶のことだ。麓の村だってそうだ。魔王のせいで多くの人間が死んだ。とぼけるのはよせ!」

 「麓の村?ほう、そんなものを見させられたのか。まあいいさ、ところで、俺がとぼけていると言ったが、ここにモンスターとやらはいるのかい?」

 「それは……」

 「モンスターはいます!魔王には、モンスターを自由に召喚したり、元に戻したりする力があるのです!」

 キツネ目の男がはっきりとした口調で断言した。今までのらりくらりとした態度しかとっていなかったこの男が。

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