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宴の後

 本当は毎日投稿したいのですが、中々そうもいかずといった所です。今回の修正点として、俊一の独白部分をもう少しシンプルに読みやすくしました。

 「身体能力向上の魔法!!」

 観覧席にいたポールは思わず立ち上がった。

 他の生徒たちも驚きとともに、俊一に対しての称賛の声がところどころで上がった。

 その声は、次第に大きくなり、ポールが戦い終えた時よりも大きくなっていった。

 俊一が魔法を使ったことは偉業だ。

 小さいころからこの世界に呼び出された学院の生徒たちだが、半年ほどで魔法が使えるようになった者はいない。

 何といっても実力主義の学院だ。俊一に対して、日ごろ良い感情が持てなくても、その偉業をなしとけたことは、賞賛せざるを得なかったのだ。


 しかし、俊一はそうした歓声を不可思議な顔をして聞いていた。

 ――グレンは気絶して、そして足から血を流し続けている。それを異常に感じる者はいないのか?競技室での戦いは、実戦形式とはいえ、あくまで模擬戦だ。防護装置が発動しないで戦いが終わることなどない。でも、今回は深く傷ついている者がいるのに、防護装置が発動していないんだぞ

 もしかして、と思って俊一はルイーゼの方を見た。

 その顔は凍り付いたように強張っていた。

 ――この女はみんなの意識を操ってる。そうせざるを得ないんだ。そうだ!この女はやりすぎたんだ!!

 俊一は、学院の目的を見抜いていた。

 それは、生徒たちを強力な、しかも自由に使える駒に仕立て上げることだ。だから、授業中に生徒が死んだり、ケガをするようなことがあったりしてはならない。そうすれば、学院に不信感や恐怖心を持たれてしまう。

 それでも、俊一が死んだ場合は、何かしら言い訳が立つだろう。魔法が使えないから防護装置が使えなかったとか、そんなことを述べれば皆を納得させることができるはずだ。グレンのケガも俊一に魔力がないから発動しなかったとか言えばよいだろう。

 しかし、俊一が魔法を使って勝ってしまうとは、予想すらしなかったに違いない。そして、ルイーゼという女がサディスティックな感情で動き過ぎた結果、こんな事態を引き起こしてしまった。それが俊一の読みだった。

 ――ならば、揺さぶりをかけてやる

 「先生!!」

 俊一は競技室中に響き渡るような大声を出した。

 驚いて、ルイーゼは俊一を見る。

 「グレン君は大ケガをしています!どうして防護装置が発動しなかったんですか?このままだとグレン君の命に危険が生じますよ!」

 競技室はざわめき始めた。

 生徒の数は30名程度だ。多人数の意識を操る魔法を維持するのは、簡単ではない。だから、俊一の大声と質問の内容は、ルイーゼの集中力をかき乱し、なおかつ生徒たちの認識にも影響を与えた。それは、魔法の効果を打ち破るのに十分なものだった。

 「……そ、それはグレン君が防護装置を切ったのよ!だから、発動しなかったのよ!!」

 震えるようなルイーゼの声。

 俊一は、ここがチャンスとばかりに、さらに畳みかけた。

 「ここの生徒でそんなやり方を知っている者がいますか?グレン君だけがそんなこと知ってるはずありませんよね!!」

 その声は、ルイーゼではなく、観覧席に向かって発せられた声だった。

 ざわめきはどんどん大きくなっていく。

 ルイーゼの言い訳は大失態だった。彼女が一番やってはいけないことは、生徒たちに対して学院に疑問を抱かせることだ。


 その時、競技室の扉が開いた。

 初老の男が入ってくる。

 アドルフ・ガーランド。

 この学院のナンバー2、副学長だった。

 ルイーゼはそれを見て蒼白になった。全身が震えている。

 しかし、アドルフはその様子を全く意に返さず、よく通る声でしゃべりだした。

 「生徒諸君、落ち着いてください。ルイーゼ先生は、陶冶君が魔法を使えないことに業を煮やし、防護装置を切って命の危険を感じれば、魔法を使えるようになるのではないかと考えたのです。しかし、それは絶対にやってはいけないことでした。エレアノール魔法学院の理念は、安全かつ適切に、あなた方の魔法の力を磨くことです。ルイーゼ先生の処分はいずれ追って行います。しかし、今は、早急にグレン君の治療をしなければなりません!」

 アドルフの話が終わると、すぐに数名の男たちが競技室に入ってきた。彼らは車輪付きのタンカーを抱えている。

 ――この狸め、治療ならこの場で魔法を使ってできるだろ。どうせグレンに何かするつもりだな。それならこっちにも考えがある

 「アドルフ先生。模擬戦とはいえ、グレン君にケガを負わせてしまったのは私です。だから、グレン君について行ってもいいですか?治療の邪魔はしません」

 「……分かりました。あなたはいい子ですね。陶冶君をグレン君と一緒に治療室に連れて行ってあげてください」

 ――さすが古狸だな。ルイーゼと違って、簡単には揺らがない

 「あ、あの、俺もグレンの友達なんです。一緒に治療室に行っていいですか?」

 声をあげたのは、ハッサンだった。

 彼は心配そうにグレンを見ている。

 ――いいぞ、ハッサン。俺を連れて行って、ハッサンを連れて行かない理由はないからな。そして、治療を見ている人の数が多い方が、下手な真似はできないはずだ。

 「もちろん構わないですよ。我々も全力でグレン君の治療に当たりますから、あなたも見守ってあげてください」

 

 俊一とハッサンは、グレンを乗せたタンカーを運ぶ男たちと共に、治療室のある建物への道を一緒に歩いた。

 2人とも無言だった。

 ハッサンはバツの悪い気まずそうな顔をしていたが、俊一はハッサンのことを気に留めていなかった。それよりもタンカーを運ぶ男たちが何かしないか目を光らせていた。

 俊一は色々な可能性を考えていた。このままハッサンも含めて、3人とも消されるんじゃないかという不安もあったのだ。

 その時、俊一は反対側から歩いてくる者とすれ違った。

 あの人だ!

 「俺の方を向くな。何もしゃべるな」

 それは俊一の頭に直接響いた。

 「よくやったな。あの力……魔法を消す力を使わず、よくぞ窮地を切り抜けた。満点だ。いや、その後の対応も含めると120点だ。もはや学院はお前たちに手出しすることはできない。お前はグレンがケガをしていることを皆に印象付け、そしてグレンと共に治療室に向かった。これでお前たちが消えたらどうなる?生徒たちは学院が何かをしたと怯えるはずだ。だから、もうそんなに緊張しなくても大丈夫だ。お前は見事だよ。自分を誇っていい」

 俊一は、思わず涙が出そうになったが、ぐっとこらえて平静を装った。不安と緊張の連続だった。やっとそれから解放されたのだ。

 俊一は無性に男と話したくなった。

 「俺の方からの言葉も聞こえるんですか?」

 俊一は試しに頭の中でささやいてみる。

 「ああ、お前が俺に話したいという意志を持てば、俺の心の中に、その言葉は直接届く。何か話したいことがあるか?」

 「その……、ずっとそばで見守っていてくれたんですか?」

 「そうしなければならなかったからな。俺は、試合が始まる前、結局お前は、あの力に頼ると思っていたよ。それも命の危険が原因ではなく、自分の見栄や外聞を守るために使うと思っていた。そして、使ったら最後、お前はアンチ魔導士として監禁され実験対象にされるか、命を狙われるかのどちらかだった。だから、その時に備えてお前をここから逃がすために、競技室の近くに潜んでいた。だが、お前は自分の見栄や外聞を守るどころか、自分の命の危険が迫ってもあの力を使わなかった。正直お前のことを見くびっていたようだ。謝らなければならないな」

 「謝るなんて……。あなたは俺のことを鍛えてくれたばかりか、助けようとまでしてくれてた。本当に感謝しています」

 「これからお前は、大変な道のりをこれから歩んでいかなければならない。俺は、ある意思に導かれてその手助けをしているだけだ。話したいことは色々あるだろうが、今日はここまでた。その少年の治療を見届けたら、ゆっくり休むんだ」

 「はい、ありがとうございます」

 俊一と男との頭の中での会話は途切れた。

 それに対して、ハッサンは、俊一がしばらく呆けた様子をしていたので、現実に話しかけてきた。

 「なあ、どうしたんだ?ぼーっとして」

 「いや、なんでもない。ちょっと考え事をしていただけだ」

 その後、俊一とハッサンは無言で治療室に向かった。


 グレンの治療はすぐに終わった。

 それは当たり前だった。

 本来は、競技室ですぐに治療できたはずなのだ。

 俊一とハッサンは、グレンの治療室が終わった後も、病室にまでついて行った。

 グレンは、俊一に気絶させられてからずっと眠っていた。それは病室でも一緒だった。

 「このまま目を覚まさない……なんてことは、ないよな?」

 「それは安心していいよ。学院もいい加減な治療をするわけにはいかないはずだ」

 俊一は、男から話を聞いていたために、ハッサンの不安から出た言葉に対して、落ち着いて返すことができた。

 「……そうか。あのさ、グレンのこと許してやってくれないか?」

 ハッサンは神妙な面持ちで俊一の方を向いた。

 「突然どうしたんだ?もう憎んだりしていないよ」

 「俺はさ、自分のことがクズだってことは分かってるんだ。でも、グレンはそうじゃない。グレンは不器用だけど、俺たちのような弱い奴らを守ってくれる、男気のある奴だったんだ。でもよ、最近になって、成績が振るわなくなって、むしゃくしゃしてたのか、横暴になってきたんだ。本当はさ、お前のような奴にこそ、優しくできる男だったんだよ。……まあ、お前はもう強いことを証明しちまったけどよ……」

 「それはつまり、グレンは本来こんな性格じゃないし、成績もよかったってことか?」

 「ああ、グレンは成績上位とまではいかないけど、そのちょっと下くらいにはつけていたんだ」

 「……分かったよ。ありがとう。その話を聞けて良かった。それと、お前もクズなんかじゃないよ。グレンのことを心配してついてきたのは、ハッサン、お前だけだろ」

 そう言って、俊一は立ち上がった。

 「俺はさすがに疲れたから寮に戻るよ。お前はグレンが目を覚ますまで、ここで見守っててもらえないか?」

 「ああ、俺は元からそのつもりだったよ。むしろお前の方こそ、よく敵だったグレンのためにここまで着いてきてくれたよ。その……、今更俺が言えた義理じゃないかもしれないけど、本当にありがとう」

 「……グレンは敵じゃないよ」

 本当の敵は、恐ろしく、そして強大なのだ。

 俊一は、もっと強くならなければらないと心から思った。

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