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試練

 女教師って言ってましたけど、この人に個性を付けたいんで、ルイーゼって名前を前に戻ってつけます。「魔法が使えない少年」からの女教師が出てくる部分の変更ですね。これから大きな変更があった場合は、こんな感じで残すようにします。

 「自分から相手の攻撃に思いっきり当たりに行け。そうすれば致命傷になって試合終了だ」

 俊一は、男の言葉を思い出す。

 しかし、それは通用しそうになかった。

 グレンは武器を持っていなかったのだ。

 「武器を使ったらあっという間に終わらせちまうかもしれないからよ。素手で戦ってるやるぜ」

 彼はニヤニヤと笑っている。

 それに対して、俊一は、競技室に置いてある武器の中からショートソードを選んでいた。

 これでどこまでグレンに対抗できるかは分からなかったが……。


 戦いの開始の鐘が鳴り響いた。

 その音と同時に、グレンは、俊一との距離をあっという間に詰めてきた。

 ――速い!速過ぎる!!

 恐るべき速さ。俊一には、車が高速で突っ込んできたように感じられた。

 グレンがあまり勝てていない理由は、戦士としてのセンスの無さが原因であって、身体能力向上の魔法に関しては、決してレベルが低いわけではなかったのだ。

 グレンは俊一の目の前まで来ると、蹴りを入れてきた。

 ――どこを狙ってくる?きっと股間だ!

 俊一は、とっさに半身になって膝をあげることで、それをブロックしたが、ものすごい衝撃が足を駆け巡った。

 魔法戦士のキックが太ももの部分にまともに当たったのだ。

 「うぐっ」

 俊一は思わずうずくまる。

 「勘のいい奴だな。でも、もう動けないだろ」

 グレンは、そう言って、うずくまっている俊一の胸ぐらをつかんで持ち上げる。

 「あの時、何て言ったっけ?俺に近づくなだっけ?よくこんなに弱いのに、あんなことをほざけたよなぁ」

 相変わらずグレンは嫌な笑みを浮かべていた。

 しかし、俊一はそれに対して、ニヤリと笑ってやり返した。

 「……俺もあの時、お前の胸ぐらをつかんよだな。狙ってきたのもあの時の俺と同じ股間だしさ。単純で執拗で呆れるよ、お前には」

 俊一の反骨精神は大したものだった。

 しかし、挑発されたグレンは顔を真っ赤にして、胸ぐらをつかんだまま思いっきり俊一の頬を叩いた。

 俊一の唇からは血が流れる。

 何度も何度もグレンは俊一の頬を叩く。

 「雑魚が!粋がってるんじゃねーよ!!」

 ――痛い。痛くてどうにかなりそうだ。だけど、この程度の挑発で我を失ってやがる。チャンスだ!

 グレンがさらにもう一発張り手を食らわせようとした時、俊一は右手に握っているショートソードで、思いっきりグレンの左足を切りつけた。

 俊一から反撃がくることを、グレンは全く予想していなかった。相手を完全に舐め切っていたのだ。意識外からの攻撃。それを避けることなどできない。剣がグレンの足に深々と突き刺さった。

 「うわああああああ、痛い、痛いよおおおおおおおおお!!」

 グレンの足からは血が噴き出した。足を抑えて転げまわる。

 俊一は、グレンの足から剣を抜くと、立ち上がって彼の元から離れた。

 

 「このまま放っておけば失血死しますよ!試合は終了でしょう!」

 俊一はルイーゼの方に向かってそう叫んだ。

 しかし、彼女は気味の悪い笑顔を浮かべている。

 「あら、でもグレン君はまだ頑張りたいみたいよ」

 俊一が前を見ると、痛みで転げまわっていたはずのグレンが、足から血をだらだら流しながら立ち上がっていた。

 その目はまるで狂人ように見えた。

 顔は真っ赤で、あまりにも異様な表情だ。まるで鬼のような。

 「ふぅ、ふぅ、殺してるやる!殺してやるぞ!!陶冶ああああああああああああ!!」

 ――なんだ?様子がおかしいぞ!こんな深手を負って簡単に立ち上がれるような傷じゃないはずだ!それに、足にあれだけの傷を負わせる攻撃をすれば、防護装置が発動して試合終了しないとおかしいぞ!!

 俊一はルイーゼの方をちらりと見た。相も変わらず、彼女は笑みを浮かべている。

 ――なんて気持ち悪い笑顔なんだ!そうか、こいつ、グレンに何かしたな!それに加えて、防護装置を効かなくしてるんだ!状況は最悪じゃないか!どうすればいい!?

 「うわあああああああああああああああああああああああ!」

 グレンは奇声を上げて突っ込んできた。

 魔法戦士のタックル。まともに当たったらダンプカーに轢かれるのと似たような結果を引き起こすだろう。

 ただ、動きそのものは、我を失ってる分、読みやすかった。

 俊一は慌てて横に飛びのくと、その真横をグレンは通り過ぎて行く。

 しかし、俊一の体には、それだけで体にびりびりとした衝撃が響いた。

 ――自分を失ってるせいか、自己防衛本能が働いてないのか?その分、最初に俺の所に駆けて来た時よりずっと速い!!

 この攻撃をずっとかわし続けることできるのだろうか?

 そして、いつまでかわし続ければいいのだろうか?

 俊一の心を恐怖が支配する。

 ――もうあの魔法を消す技を使うしかないじゃないか!あの人も言っていた。『お前に命の危険が迫るまでは使ってはならない』って。今こそ命の危機だ!俺はこんなところで死ぬわけにはいかない!!

 俊一は、グレンを見た。

 再びタックルする姿勢に入っている。

 ――イメージしろ!あいつの力が体から抜けていくイメージだ!!

 しかし次の瞬間、俊一はなぜかエレナの悲しい顔が頭に浮かんだ。俊一が彼女に突き放す言葉を投げた、あの時の顔だ。

 どうして今、彼女のことが思い浮かんだのか分からない。

 ふと俊一は、観覧席に座っているエレナの姿が目に入った。

 彼女の顔は蒼白で、でも目だけは赤かった。

 涙を流した後の顔だ。そして、祈るように俊一のことをじっと見ている。

 ――あんなひどいことを言ったのに、まだ俺のことを心配してくれているのか?もう一度、エレナと話したい!まだ死ねない!そして、まだここを出ていくわけにはいかないんだ!!

 グレンのタックルが再び来る。

 俊一には、もはや飛びのいてかわす暇はない。

 しかし、体が動いた。最小限の動き。ほんの半歩動くことで、グレンは横を通り過ぎていく。

 ――棒をかわす訓練、意味があったな。でも、これからどうする?どうやってこれを終わらせる?あの技は使えない。それならば、魔法を使う以外ないんだ!イメージしろ!魔法とは想像を現実に変える力だ!!

 俊一がこの世界に来る直前、彼はトラックに轢かれた。あの時、俊一はトラックがスロモーションに見えたのだ。だけど、体が動かなかった。

 ――でも、今は違う動かせる!今度は絶対動かせるはずだ!

 グレンのタックルがまた来ようとしていた。

 俊一は持っていたショートソードを捨てた。

 グレンのことを絶対に殺さない。最低限の動きでグレンを気絶させてみせる。

 グレンはジェット機のように近づいてきた。その動きは今までで最速だった。文字通りジェット機の速さだ!

 しかし、俊一の目にはそれがゆっくりと映った。

 ――動け!この時間の世界でお前の体は動く!!

 心がそう叫んだ。

 俊一は、深い海の中でもがくように体を動かした。ゆっくりとした時間の中で、ゆっくりと彼の体は動いていく。

 グレンはというと、俊一にはもはや静止したように感じられた。

 ――顎だ。顎を狙えばいい

 俊一はコツンと拳を軽くグレンの顎に当てた。

 すると、グレンは崩れるように倒れていった。

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