ポールの戦い
ポールの名前が呼ばれた。彼の出番がやってきたのだ。
相手はよりにもよってハッサンだった。かつてのグレンの手下どうしの戦いというわけだ。
しかし、ポールに全く動揺した様子は見られなかった。
「行ってくるよ。見ててくれよ、絶対勝ってみせるから」
「ポール、君はあいつに勝つのが目的じゃない。あいつを圧倒することが目的だよ。出来るはずだ、見せてくれよ」
ポールは真剣な顔でうなずくと、観覧席からリングに向かっていった。
「ポール、お前も落ちこぼれちゃったなぁ。よりにもよってあんな奴とつるむとは」
リングに降りると、試合前の礼をする時に、ハッサンはそう言って、ポールを挑発した。だが、ポールは不敵な笑みを浮かべるだけだった。
試合開始の鐘が鳴る。
それと同時に、今度はポールが挑発した。
「なあ、ハッサン、お前はあんな落ちこぼれって陶冶君のことを言ったけど、その落ちこぼれにボコられて、気絶したんだぜ。ダサいったらありゃしないよ」
「なっ!」
ハッサンは驚いた。
――ポールはこんなことを言うやつじゃなかった。しかも、今日は妙に落ち着いてやがる。いつもだったら青い顔して戦ってたやつがよ。くそっ、一体どうなってやがる
ハッサンは、ポールの変わり様を見て困惑していた。
逆に、ポールは、ハッサンのことを落ち着いて見ていた。
――ハッサンは本来、気弱なんだ。それでも、弱い奴の中では一番マシなグレンの下について、道化を演じることで、そうした性格をごまかしていたんだ。僕の挑発を聞いて、混乱してる様子がよくわかるぞ!
ポールは駆け出した。彼は、不得意な身体強化の魔法を使っていた。不得意といえども、普通の人間よりは全然素早い動きだ。
ハッサンはさらに困惑した。
――なんだ?なんでこんなことをするんだ?こいつの得意技は地属性の魔法だろ。訳が分かんねーよ。くそっ!向かってくるなら、近づく前に倒してやるだけだ!
「ウィンドミサイル」
錐のような風が相手を打ち抜く魔法。
しかし、ポールはそれを悠々と避けた。
――相手が混乱してると、魔法を打ってくる方向が簡単に読めるんだな。今度はこっちの番だ!
「フロストウェーブ」
これもポールの得意魔法ではない。エレナの冷気魔法と比べると、範囲も狭ければ、威力も桁違いに弱い。
ただし、弱いといっても当たれば相手の足を凍り付かせるくらいの威力はあった。
ポ-ルは、ハッサンを混乱させると同時に、自分では範囲の狭い、この魔法を当てるために、身体強化の魔法を使って近づいたのだ。
しかし、ハッサンはタカをくくった。
――こいつは、あの陶冶にそそのかされて、頭がおかしくなっちまったんだ。不得意な魔法ばかり使ってくる。こんなの避ける意味がない。メイジどうしの戦いは、いかに相手の魔法を制して自分の魔法を当てるかだ。バカじゃねーのか!
ハッサンは避けようともせずに、ウィンドミサイルの魔法を乱打した。だが、それは全て避けられ、逆にハッサンの足は動かせなくなってしまう。
「終わりだな。アースエッジ」
ポールは遂に得意な地属性魔法を使った。地面が隆起して、尖った岩がハッサンの体に突き刺さる。
そこで、防護装置が発動し、試合は終了した。
周囲から拍手が起こった。
ポールがやったことは、とても下位の成績のメイジがやることではなかった。
「すげーぞ、見応えあったぞ!」
各所から歓声があがる。
ポールは得意げな顔で、観覧席に戻っていった。
「どうだった?僕もなかなかやるだろ」
俊一の席の隣に座り、ポールは笑顔で話しかけた。
「ああ、みんなが君を讃えているじゃないか。それだけ素晴らしい戦いを見せたんだ」
「そうじゃないんだよ。僕は陶冶君の感想を聞きたいんだ」
「……そうだなぁ、じゃあ正直に言うか。もちろんとてもよかった。でも、あのフロストウェーブの魔法は、成績上位者には当たらない。相手がハッサンだから当たったんだ。あれを当てるのが戦略なら、もっと罠を仕掛けて、相手に当てられるように誘導しなくちゃいけない。だけど、相手がハッサンだってことを考慮して戦ったんだろ?それに、今までとは違うことをやってのけたんだ。すごいじゃないか」
「そうか、陶冶君はそこまで分かっちゃうんだなぁ。こんなのでうぬぼれちゃだめだな。もっともっと僕は強くなってみせるよ」
「できるさ、絶対に。俺には、なんかそれが分かるんだ」
俊一とポールは楽しそうに語り合っていた。
しかし、名前が呼ばれた。
「陶冶俊一!グレン・マクガフ!」
――やっぱりこうなるか。さあ、どうする?やれるだけやるしかないさ
俊一は立ち上がった。
しかし、慌ててポールが声をあげる。
「先生!それはさすがに――」
俊一はそう言うポールを手で制した。この学院では教師に意見しない方がいい。
「俺は大丈夫だよ。偉そうに、君に講釈垂れたんだ。体を張るところくらいは見せないとな」
「…………」
ポールは心配そうに俊一を見たが、俊一は穏やかな表情でリングに向かっていった。
「やっとテメーに復讐できる。この前の何百倍もの痛みを与えてやるから覚悟しとけよ!」
グレンは嫌な笑みを浮かべていた。
しかし、俊一は、そうしたグレンを無視して、リングの端に立っているルイーゼに大きな声で呼び掛けた。
「先生、グレンと戦う前に1つだけ尋ねてよろしいですか?」
「何かしら?」
「俺はまだ魔法を使えません。先生も魔法の理論を完全に理解すれば、その時に使えるようになるとおっしゃいましたよね?それがなぜ今、魔法を使えない状態でグレンと戦うんですか?そこにどういう意味がありますか?」
俊一の質問は痛いところをついているはずだった。
しかし、ルイーゼは平然と答えた。
「それはね、ショック療法ってあるじゃない?もしかしたら、実戦に身を置けば魔法を使えるきっかけができるかもしれないって思ったのよ。いい機会じゃない。死ぬわけじゃないんだから、思いっきり戦ってみなさいよ」
「そうですか。それは素晴らしいお考えですね」
――ふざけるな!
俊一はニコリとしながら口を開いたが、心の中でそう思った。
俊一が怒りを向けたのは、グレンよりもむしろルイーゼの方だ。やはりこの学院は狂っている。
しかし、今はそうしたことより、目の前のグレンをどうにかする必要があった。




