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実戦へ

 俊一は、特訓の翌朝から早朝に起きてランニングを始めた。

 魔法を教えてもらえないことは不平だったが、男の言う通り体力を付けようと思った。

 それは俊一が素直な性格だったというよりも、焦燥感に駆られていたのかもしれない。

 ――何であっても、今はできることをやりたい。実戦形式の次の授業まではあと5日間だ。それまでやれることをやろう。例え5日間でも少しでも体力はつくはずだ。

 俊一は、一生懸命走った。だが、数分で息切れしてくる。確かに、自分は体力がないなと思った。

 それでも自分で決めた地点までは、途中で歩いたりしつつも、なんとかたどり着いた。


 クラスの中では、授業の間の休み時間はほとんどポールと話していた。

 俊一にとって、ポールと話すのは楽しかった。

 俊一は、友達になる前は、ポールのことを気の弱い、グレンのお先棒を担ぐ少年にしか思っていなかった。だが、話してみると、彼はとても頭のいい少年だと気が付いた。

 ――そういえば、前の世界では、あまりにも見ている世界が違いすぎて、周りの子たちと話が合わなかったな。もちろん俺が傲慢なのもあったんだろうが

 そんなポールだから、俊一が無理をしてるような様子に、すぐ気が付いたようだった。

 「この前のグレンの捨て台詞を気にしているのか?あんなの大丈夫だよ。グレンと戦わせるような真似は、学院もしないはずだよ」

 「ああ、俺もそう思うんだけど……」

 しかし、俊一には妙な確信があった。俺はあいつと戦うことになると。


 放課後は、男の所に行って、訓練することを続けた。

 やることは同じだった。最初の魔法消す訓練は、俊一が自分で言ったように、一瞬で消せるようになった。

 その後は、決まって狭い円の中で棒を当てる、そして避ける訓練をやらされた。

 棒を当てる方はできなかったが、最初と比べてずいぶんと避ける方はマシになった。

 しかし、俊一には、なぜこのような訓練をするのか理解し難かった。男は基礎だといったが、ただ遠回りをしているようにしか思えないのだ。

 俊一の納得してなさそうな様子を見ても、男はそれを無視して訓練を続けた。

 実は、焦っているのは男も同じだった。

 ――きっと、この少年は魔法を消す技術を授業で披露してしまうだろう。まだ、それを抑えられるだけの自制心を持ち合わせていないから仕方がない。この子には恐るべき才能がある。俺よりもすごい才能だ。だが、俺が訓練した時よりもはるかに短い期間しか与えられていない。だったら、その間に最低限、身体操作の基礎を体に覚え込ませる。魔法はいずれ学べる機会が来るのだから

 

 実戦形式の授業の当日が来た。

 その日も俊一は、決まったルーティーン通り、ランニングを続けた。

 ランニングを始めてから1週間も経っていないが、それでも始めたころと比べると、少しは体力がついたようだった。

 途中で歩いたりせずに、自分で決めた地点までは走り続けられるようにはなっていたのだ。

 その日は、午前中の授業は座学が中心だった。

 その授業後、グレンは教師であるルイーゼに何かを話しかけていた。

 俊一の位置からは、グレンとルイーゼが何を話しているのか分からない。だが、話し終わった後で、グレンは、こちらの方を向いてニヤニヤと笑った。

 ――やっぱり俺の予想通りあいつと戦うことになるのか……。どうすればいい?とにかく冷静になろう。そうだ、あの人が言ったように、最後は自分からあいつの所に無理やり飛び込んで、防護装置を作動させればいい

 

 午後になった。これから実戦形式の授業が始まるのだ。

 最初の方は、成績優秀者が出てくる。アークやエレナのような。

 俊一は、エレナが戦ってるいる時、グレンのことは忘れてしまっていた。

 彼女は、変わらず優雅で、そして緻密な戦い方をしていた。

 俊一は、その姿に憧憬を覚えながらも苦い記憶がよみがえった。

 ――なぜ自分はあそこまで彼女に強い口調で言ってしまったのだろうか?確かに、彼女に質問させるべきではなかった。だけど、もっと別のやり方があったはずなんだ

 せっかく構築できそうだったエレナとの関係を自らの手で壊してしまった。

 その事実は、俊一にものすごい喪失感をもたらした。

 元々嫌な気分だった俊一の表情は、さらにどんよりと曇っていく。

 俊一の隣に座っていたポールは、俊一を元気づけるためか、明るく話しかけてきた。

 「エレナさんってすごいよな。本当によく考えて戦っているのがわかる。僕は今までエレナさんが使える魔法が高度なものだから強いと思っていた。でも、それだけじゃない。本当にすごいのは戦術だったんだ!」

 「……今更、それに気付いたのか?」

 「僕のことをバカにしてるでしょ。ひどいなぁ」

 俊一は、軽く笑った。ポールに話しかけられて、少し気持ちが切り替わってきたのだ。

 ――だけど、ポールは頭の回る人だ。それなのに、なぜそんなことにも気付かなかったんだろう?きっと、この学院での生活で気持ちが委縮して、簡単なことも分からなくなってしまっていたんだ。それで、ポールは、自分を過小評価し、グレンごときの下で甘んじてしまった。それがあいつから離れ、俺と話すようになって、きっとのびのびとした気持ちになったんだろう。だから、エレナさんがよく考えて戦っていることに気付いたんだ

 俊一はそこまで考えた時に、それは自分にも当てはまることに気が付いた。

 ――そうだ。俺も魔法が使えないことで、グレンと戦うことに委縮していたんだ。でも、何か方法があるかもしれない。あの人とやってきた訓練、魔法を消す技術の方じゃなくて、棒を当てたり避けたりする訓練の方にも、何か役に立つことがあるはずだ

 俊一は、エレナとの苦い記憶を振り切って、彼女の戦いをよく観察した。彼女がよく考えて戦っていることを、改めて確認することができる。

 ――自分もよく考えて戦うんだ。そうすれば、道が開けるかもしれない。

 思索にふけっていた俊一だったが、ポールは再び彼に話しかけた。

 「陶冶君、もしかしたら僕は今日、何かをつかめるかもしれない。そんな気がするんだ」

 「ポール、君なら賢く戦うことができれば、成績はもっと上がるはずだ。敵を恐れないことだ。そして、相手をよく見て、どう動くか考えるんだ」

 「その……、陶冶君はリングの上に上がったことはないはずなんだけど、妙に説得力があるんだな」

 そう言われると、俊一は急に恥ずかしくなった。

 「ごめん、俺なんかが偉そうなことを言って悪かったよ。俺の悪い癖が出ちゃったな」

 「いや、そうじゃないんだ。僕は陶冶君の言うことを聞いて、さらに勇気が湧いてきたんだ。戦うことが待ち遠しいなんて初めてだよ」

 「期待してるぜ。いや、期待なんかじゃない。今までとは違うものを見せてくれることを、俺は確信しているよ」

 ポールの表情は、それ聞いて明るく輝いた。

 ――ポールは何かをやってくれるはずだ。俺もそれに続くんだ!

 俊一は、弱気だったものが吹き飛んで、闘志に溢れ(あふれ)かえっていた。

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