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襲撃

 エレナとアークの試合が終わった後も実技の授業は続いていた。

 実技の授業は成績優秀者どうしの組み合わせから始まり、平均レベル、下位レベルと下がっていく。

 実力が拮抗していない相手と戦っても訓練にならないからだ。

 しかし、それは最後の方に戦う生徒たちに対して、落ちこぼれの烙印を押すことと同じ意味だった。

 そうした生徒たちの試合は誰も注目せず、皆は退屈そうに見ている。

 それどころか、彼らの試合など見もせずに、エレナとアークの話題で盛り上がっている生徒たちもいた。

 

 ――残酷だな

 俊一は思った。

 彼らは完全な晒し者になっている。

 この屈辱を味わうよりは、まだ自分の方が見学だけで済む分、マシかもしれない。

 しかし、俊一は、彼らに対して同情する気にはなれなかった。

 クラスメイトが俊一に接する態度は2つで、白い目で見るか、積極的にバカにするかのどちらかだ。

 そして、後者の態度を取る者は、今戦っている者たちのような、最後の方の試合に出てくる者たちだった。

 落ちこぼれた者たちが、さらに下位のものを見下すことで、なんとかプライドを保とうとしているのだろう。憂さ晴らしもあるかもしれない。

  

 しかし、その日の憂さ晴らしは度を越したものだった。

 俊一が寮の自室に戻ろうとすると、寮の前には数名の生徒たちが待ち構えていた。

 少年が3人に、少女が2人。いつも俊一をバカにしている者たちだ。

 「……通してもらえませんか?自分の部屋に戻りたいんですが」

 俊一は極めて冷静だった。それは自分でも驚くほどだった。

 「通してもらえませんかぁー。だって」

 ハッサンという生徒が変な声を出してそう言うと、他の者たちはゲラゲラと笑った。

 「そんな下品な言い方しない方がいいですよ。自分の品格を下げるだけですから。用があるなら早く言ってもらえませんか?」

 「おい!魔法も使えないテメーが俺たちにそんな口の利き方していいと思ってるのか?」

 5人の少年・少女たちのリーダー的存在だったグレンが俊一を威圧するように言った。

 しかし、俊一は全くひるむ様子を見せなかった。

 「ハア、めんどくさい奴ら。自分たちが落ちこぼれだから、もっと落ちこぼれの俺をからかいにきましたって、はっきり言えばいいじゃん。クラスで嫌味を言うのも飽き足らず、わざわざ寮の前に来て待ち伏せをしてまで、鬱憤(うっぷん)を晴らしたくなりましたってね」

 これが本来の俊一だった。プライドが高く、気が強くて、頭の回転が速い。クラスで弱気の態度を見せている俊一はそこにいなかった。

 そうした態度が彼らを面食らわせた。

 「な、てめー!!」

 彼らは顔を真っ赤にさせた。図星をつかれると人は何も言えなくなってしまう。

 しかし、しばらくしてからグレンは顔を歪めてニヤリと笑った。

 「なあ、こいつやっちまわねえか?」

 「え、いや、それはさすがにまずいんじゃ……。規則にさ、魔法を使った私闘を禁じるってあるじゃないっすか。ここから出て行けとか言われるのはごめんですぜ」

 ハッサンはそう言ったが、グレンは自信たっぷりに返答した。

 「だったら魔法を使わなければいいじゃないか。魔法を使わないケンカを禁じる規則なんてないんだぜ」

 「確かに。へへへ、グレンはやっぱり賢いわ」

 ほかの少年、少女もそれに追随する。

 俊一はそれを呆れた顔で見た。

 ――これじゃあ、三下の悪党じゃないか。だけど、女は除外して、3対1か。これ以上舐められるのはごめんだ!やってるやるさ!

 グレンは、大柄な体格をしていた。他は中肉中背だが、小柄な俊一よりは背が高い。

 しかし、俊一は知っていた。

 グレンは魔法戦士だが、魔法を使った身体能力に頼りすぎて戦闘技術そのものは低い。だから、成績が振るわないのだ。他の2人は体を使うことに関しては論外だ。

 俊一は、目の前に立っている少年たちがニヤニヤしている隙に、スッと動いた。

 元々運動神経は高かったのだ。ケンカをしたことはなかったが、俊一は素早く頭の中で、この3人をやっつけるシュミレーションを作り上げた。

 ――体が大きくても、人は急所に対する攻撃に耐えることはできないんだ

 俊一の動きは敏捷だった。意表を突かれたグレンは動くことができない。

 次の瞬間、俊一は足のつま先を正確にグレンの股間にヒットさせた。

 「アグッ……」

 うめき声をあげて、グレンはお腹を抱えて倒れ込んだ。

 ハッサンはそれを見て、驚きのあまり動きが止まってしまう。すると、今度は、俊一はハッサンの元に飛び込んで、思いっきりフックを顎に叩き込んだ。

 ハッサンの視界がぐらついて、彼は気絶する。

 俊一は最後の1人の少年の方を向く。

 その少年は、ポールという名前で、元々気が弱く、あっという間に2人をのしてしまった俊一に怯えていた。

 「な、なあ、もうやめてくれよ……。もういいだろ。満足しただろ」

 「お前たちが仕掛けてきたんだ。責任はとれよ」

 俊一はポールにゆっくりと近づいてくいくと、いきなりボディーブローを入れた。

 ポールはうずくまって倒れる。

 俊一は残った少女たちを睨みつけた。彼女たちは恐怖で何もしゃべれないでいる。

 「女でよかったな。さすがに女を殴る趣味はないからな」

 そう言って、俊一は倒れているグレンの所に行き、彼の胸ぐらをつかんで持ち上げた。

 「明日からまた教室で俺のことをバカにするがいいさ。勝手にやっててくれ。自分たちの弱さから目を背けたいんだろ?好きにするがいい。でも、その他の場所で俺にかかわるな。俺に近くづくな。今度やったらこれくらいじゃ済まさないぞ」

 俊一の迫力に気圧されて、グレンはコクコクとうなづく。

 「分かったなら、それでいいさ」

 つかんでいた手を離すと、彼らを後にして俊一は寮に入ろうとした。


 しかし、グレンはまだ痛むお腹を抱えて立ち上がった。

 彼の表情は、俊一に胸ぐらをつかまれていた時とは豹変していた。

 自分のプライドが傷つけられたのを思い出したのだ。

 「許せねぇ!絶対許せねぇ!こんな奴に!こんな何にもできない奴にコケにされたんだ!殺してやる!殺してるやるぞ!!」

 グレンは、体に魔法をため始めた。

 「なあ、グレンやめとけよ。いいじゃねえか、こんな奴。もうかかわらないでおこうぜ。お前はここから追放されたいのか?ヤバいぞ、それはさすがに」

 ポールはそう言ってグレンを止めたが、グレンは耳を貸さなかった。

 俊一もさすがに驚いた。

 ――こいつはここまで何も考えられないのか?俺はやりすぎたのか?魔法に対抗する力はない。死ぬのか?こんなところで!?

 俊一は後ずさりする。

 「へへ、こいつビビってるじゃないか!その程度の奴なんだよ!なあ、こいつは魔法も使えないんだぜ。そんな奴を殺してもなんも問題ないはずだ。学院は許してくれるぜ、きっと」

 「…………」

 俊一は頭を振り絞った。

 ――どうすればいい?どうすればこの場を切り抜けることができる?何か手はないのか!?

 しかし、俊一には何も手立ては浮かばなかった。

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