プロローグとバッドエンド①
この作品は処女作で、そのせいもあって、ちょくちょく直しを入れています。誤字だけじゃなく、文章をつけ足したり、表現を変えたりしているので、途中の章まで読んで、後戻りしてみたら、結構内容変わってるじゃん、ということもしばしばあります。
本当は作品を推敲してから出すべきで、出してから推敲するのはあまり良くないと思っております。ですが、ある程度まで進んでから、あそこはちょっと変えないとおかしいぞとか、もっとこうしたら整合性がとれるじゃんとか、色々と気が付いてしまったりするのです。読者の方には、申し訳ない限りですが、最後までお付き合いいただけると幸いです。
ちなみに、結構な長編になる予定でいます。
「本当にあそこに行くのかい?」
心配そうに船頭は言った。
黒い霧が立ち込めた島。
その島には険しい山があり、その上には禍々しい城が見える。
「大丈夫さ、任せてくれ!俺たちが魔王を倒して、世界に平和を取り戻してやるから!」
勇者と呼ばれている男は威勢よく応えた。
「…………」
船頭はもはや何も言わなかった。黙々と小舟を漕いでいる。
――のんきなものね
女は、船頭が言いたいことを代弁するかのように、心の中でつぶやいた。
女は黒いフードをかぶっていて、顔をはっきりと見ることができない。だが、深刻な表情をしているのがうかがえた。
それも当然だった。
これから戦うことになる魔王について知られていることは、次のようなものだ。
モンスターを従えて大勢の人間を殺し、悪逆非道の限りを尽くした、らしい。
魔法の天才で、あらゆる種類の魔法を使える、らしい。
それは全て噂で、しかもその程度の噂しかなかった。つまりは、何も分からないのと同じなのだ。
しかし、この行く先が尋常な場所じゃない、ということだけは島の外見でよく分かった。
女は、軽々しく明るい未来を想像することはできなかった。
小舟には、船頭を除けば、3人の男と1人の女が乗っていた。
彼らは魔王を倒すための討伐隊だった。
今の世で最も優れた魔法の才を持つ4人。
彼らは今まで多くの亜人やモンスターと戦い、多大な功績をあげ、そのリーダーは勇者と称えられるようになった。
そして、遂に悪の首領である魔王の居場所を突き止め、ようやくそこにたどり着いた。
それがここに至るまでの彼らのストーリーだ。
4人は船から降りた。
あたりは霧のせいで薄暗くてよく見えないが、海岸に降りた時点で腐臭が漂ってきていた。
吐きそうなほどの嫌なにおいだ。
勇者たちは顔をしかめた。女はフードで鼻を覆う。
「じゃあ、あっしはこれで。もしこの霧が本当に晴れたらまた向かえに来ますから」
勇者たちは船頭の話を聞いてうなずくと、その先に向かって歩み出した。
ただ、女だけは残って、船頭に金貨を数枚渡した。
「いやいや、悪いですよ。もう十分お金はもらってますから」
「船長には確かに渡したわ。でも、浅瀬の前で留まっている大船から、ここまで小舟で連れてきてくれたのはあなたよ。お金は船長にほとんど取られちゃうんでしょ。受け取っておきなさい」
「……あんたは本当にいい人みたいだね。その……、本当にあの3人で大丈夫なのかい?それに魔王は……」
「それはどういう意味ですか?」
「……よく周りを見定めるのがよいと思いますよ。あっしが言えるのはこれくらいです……」
「……そう、ありがとう。あなたの話、ちゃんと頭に入れておくわ」
船頭は女に礼をして、小舟の方に戻っていった。女も急ぎ足で3人と合流した。
一行が海岸からしばらく歩いていくと、村が見えた。
彼らは村の様子を窺うため中に入る。
そこには、凄惨な光景が広がっていた。
建物は破壊しつくされ、あたりには死体がたくさん転がっている。
腐臭の原因はどうやらこの死体らしかった。
「なんて惨いんだ……」
4人の中で一番体の大きな男がつぶやいた。
彼はプリーストで、回復魔法を得意としていたが、治療できるような者は1人もいなかった。
村人は殺されつくしていたのだ。
その時、声が聞こえた。
「ああ……、あなた達は外から来た人ですか?こんな恐ろしいところまで来たんですか?」
壊れた建物から、隠れていた老人が足を引きずりながら出てきた。
老人は憔悴しきっているようだった。
「この村で一体何が……?」
勇者は老人に尋ねた。
「私たちは静かにここに住んでおりました。しかし、ある日、突然あそこ……、山の上に城ができたんです。それからモンスターが現れるようになりました……。それでも最初は、村人が数名襲われる程度の被害で済んでいました。しかし、数日前、大量のモンスターが……」
「くそっ!俺たちがもう少し早くここに着いていれば!かたきは必ず取ってみせます!!」
勇者は語気を荒げてそう言った。
しかし、女には違和感しかなかった。
――モンスターに襲われて何とか生き残ったのならば、私たちがやってきても、恐ろしくて隠れたままでいるのが普通じゃないかしら?そもそもこの老人はどうやって生き残ったの?真っ先に殺されそうな人間に見えるけど……
「あなたの他に助かった村人はいるんですか?」
女は老人に尋ねた。
「いえ、私の知る限りでは、皆……」
「……そうですか。霧が晴れたら小舟がやって来ます。そうしたら私たちと一緒にここを出ましょう。それまではこの場所に隠れていてください」
「ありがとうございます。本当に何と言っていいのか」
老人はしきりに感謝していた。
しかし、女の疑問は確信に変わった。
――この老人は噓をついているわ。村人がみな殺されて、この老人だけが生き残れるなんてあり得ないもの
ただ、なぜそんな嘘をつくのか、女には見当もつかなかった。