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ついに海中ダンジョン攻略へ出発の日となった。
攻略隊のメンバーはマルコにシィロン、コウ、パイソンという編成である。
「マルコのこと、よろしくね。」
「…任せて。」
リオに言われてコウは小さくガッツポーズを見せる。
「マルコさんの言うこと、ちゃんと聞くっすよ。」
「だーっ!ガキじゃねぇんだ、わかってるよ!!」
対してタイガに言われたパイソンはぷいっとそっぽを向いた。
前回のダンジョン攻略と比べると更に少数精鋭である。当初の計画通り今回は極力戦闘を避けるため、コウたち蛇人族も戦闘要員というよりマルコの護衛役兼牽引役だからだ。
「それではマルコ様、よろしくお願いします。」
「ああ。任せてくれ。」
不在の間のアレコレを話していたマルコだが、逆にコタロから託される形となる。
今回マルコが同行する理由は、もちろんダンジョン攻略を指揮してダンジョンの所有権や利権を手に入れることが絶対目標である。それと同時に海中ダンジョンの資源調査も重要な理由である。
水棲モンスターから取れる水属性の魔石は高値で売れるが… できればそれは金銭ではない別の形での利益を得るために使いたい。
水中かつそこを攻略可能な蛇人族のいるローグだからこそ得られる資源を最大限利用するために、魔石以外の利益となる資源を調査するのがマルコの仕事である。
「それじゃあコタロも頼んだぞ。」
「はい。マルコ様が戻り次第港の建造が始められるよう手筈は整えておきます。しかしローグの地はマルコ様あってのこそ、くれぐれもご用心を。」
「ああ、わかってるよ。」
現状では隘路を通ってアーニエルを抜けるしか公益の道が無く、それではバルドルに対抗できるだけの軍隊を養う経済力が得られない。
海中ダンジョンの攻略ができれば港が造れ、港ができればローグの発展の基盤ができる。発展して成長できればバルドルに対抗するだけの力が得られる。
しかしそれもマルコが領主であるからこそ。アナは准爵と領主を継ぐには地位が低く、後任の領主がマルコの方針を受け継ぐとは限らないからだ。
というか利益だけを考えれば隘路を抜けるより渡河してバルドルと公益するほうがメリットが大きく、獣人たちを差し出せばバルドルとの友好は簡単に稼げるのでその可能性のほうが高いとさえいえる。
「アナも頼んだぞ。」
「うちに任せときっ!バルドルの連中にはびしっと言ってやるわ!!」
現在ローグの地に人間種はマルコの他にアナしかいない。なのでバルドルの使節団への対応はアナにやってもらうしかない。
まぁ、アナが苦手なのはあくまで礼儀作法やマナーといった部分だ。礼儀を気にしなくて良い相手の要求を突っぱねることなら、むしろ脅しに屈せずきっぱりとこなしてくれる。
とはいえかなり乱暴な言い草となり、喧嘩を売っていると捉えられかねない。
しかしバルドル側がどんなに友好的に接してきたとしてもそもそも教義が変えられない以上、交渉は不可能なことを思うと… まぁ問題はない。
問題があるとすればそれはアナの戦闘能力が皆無なことだろう。
「クウガ、皆の安全は任せたぞ。」
「うむ、案ずるな。我に任せておけば何も心配はない。」
クウガがドヤッとした顔で答える。
実際クウガに任せておけば問題はない。
問題があるとすれば大量の船や兵士を使っての複数箇所からの同時侵攻であるが… 以前の奴隷港襲撃の際に何艘もの船を燃やしたので、現在多くの船が修理や建造中。使えるものは全て本来の目的である物資の輸送に掛かりきりである。そのためバルドル側がローグ侵攻に使えるのは簡易的に作った筏船であり、流れが穏やかな日に河川を超えるのみで波のある海を超えることはできない。
兵士に関してもコタロからこちら側への追加の派兵、増員の動きはないと報告を受けている。
「…よし、それじゃあ……」
一通りすべき話は終えた。
マルコは最後に皆を見渡し、出発の宣言をしようとする。
ミャアは来ていない。
やはりまだ思うところがあるのだろうか、部屋から出てこなかった。
「あー、マルコさん。もうちょっといいんじゃないすか?」
「そっ、そうよ! まだ暗いし…」
「う、うむ。夜の海は危ないからな。」
しかしタイガ、リオ、クウガがそれを慌てて止める。
「? いや、海中ダンジョンの門が開くのは明け方の限られた時間だけだし、そろそろ沖に出ておかないと…?」
「いやまあ、そうなんすけど……」
「お願い、あとちょっとだけ…ね?」
「う、うむ。それにいざとなったらシィロンのやつになんとかしてもらえ。」
「?」
なんだろう? 引き止めたいというか、時間を稼ぎたいというか…?
「まっ、待ってくださいっ!!」
「ミャアっ!?」
こちらに向かってミャアが駆けてくる。
「はぁはぁはぁ…」
「どうしたの?」
マルコも駆け寄り、息の切れたミャアの身体をそっと支える。
「あの、えっと…その…… これっ!!」
ミャアはずいっと何かをマルコに差し出す。
それは手作りのミサンガだった。
「これっ、ミャア作りましたっ!マルコ様の無事を祈って作りましたっ!…だから…その……」
徹夜で作ったのだろう、ミャアにはうっすらクマができていた。
「ふぅ、間に合って良かったっす。猫人族には大切な相手に自分の毛で作ったミサンガを御守りとして送る習慣があるんすよ。」
「ふんっ、我の毛も特別に混ぜ込ませてあるからな。効果は折り紙付きだぞ。…まぁ水中で役に立つかは知らんが……」
「クウガ様だけじゃないわ。猫人族皆、マルコの無事を願っているわ。…えっと…もちろん私も何だけど……」
ミャアが突然差し出してくれたミサンガについてタイガたちが説明してくれる。
「…ありがとうミャア。着けてくれるかな。」
マルコはそっと自身の手首を差し出す。
「っ!マルコ様…… どうかご武運をっ……」
他にも言いたいことはあるのだろう。だがミャアはきゅっとマルコを見据えてそれだけ告げる。
だがたしかにミャアの手により、思いの籠もったミサンガはマルコの手首にしっかりと結び付けられたのだった。
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