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 実はマルコたちが生活しているツリー・ハウスには大きな欠点があった。それは生木とはいえ家の全てが木で出来ているので、耐熱材が無い現状は家の中で火が扱えないことだった。


 ぐつぐつ


 そんなわけで家の前に石を積み作ったかまどでマルコは湯を沸かしていた。

 普段料理をしている場所だが、今日は錬金術のためである。


「マルコ様~。とってきました~。」


 ミャアが花びら一杯のかごを手にやってくる。

 淡く光る花弁、以前集めた夜光草のものだ。マルコは2階のテラスにプランターを設置して栽培していたのだ。


「これで何を作るんですか?」


「ありがとう、ちょっと照明を作ろうと思ってね。」


「ほへぇ~、ミャア錬金術を見るのは初めてなんで楽しみです!」


 興味深そうにミャアはぴんと立てた耳をぴょこぴょこ揺らす。


「俺も初めてだから緊張するよ。…失敗しても笑わないでね?」


「笑いませんよ! わくわく。」


 期待に満ちた目で見られると… 緊張するな。


 スキルはあれど、実際に行うのは初。マルコは教本片手に錬金術を始める。


「なになに、まずは水で素材をきれいに洗う…」


「はいっ、ざーぶっざーぶっ…」


「次にすりこぎで細かくする…」


「ごーりっごーりっ…」


「最後に煮出す。この際魔力で鍋を包み、スキルを使って成分の抽出を助ける…」


「お願いします!」


 緊張するなぁ。


 マルコは鍋に手をかざして魔力を込める。


「おおっ! …おお……??」


 お湯が一瞬にして乳白色に染まるが… それだけ。ミャアもなんとも反応に困った様子だ。


「…とりあえず出来たから試してみようか?」


 出来た液体を少し小瓶に移してマルコは小さな魔石を一つ沈める。


 ぴかっ


「おーっ、明るいです!!」


 抽出したのは魔力に反応する発光成分。そのため魔力の結晶である魔石を沈めると、小瓶は煌々と光輝いた。


「よしっ、成功だね。」


 照明のオンオフが液体に石の出し入れと少し不便で改良の余地はあるが、とりあえず成功した。


「じゃあ今度は聖水を作ろうか。」


「はいっ。」


 大釜を用意し、ミャアと2人で聖光木の枝葉を集めるのだった。





 大量の聖水を作ったマルコたちは畑に種まきにやってきた。家は聖光木製なのでモンスターの被害を受けないが畑はそうもいかない。なのでモンスター避けの聖水が大量に必要だったのだ。


「ぱーらぱーらっぱーらっ。」


 ミャアが種を撒き、マルコは後ろから聖水を掛ける。


「出来ましたっ!」


 麦に各種野菜、作った畑はかなりの広さだ。


「むふぅ、楽しみですね! 早く芽がでないかなぁ?」


「ふふっ、ちょっと見ててね。」


「ほぇ??」


 愉しげに尻尾を揺らすミャアを余所に、マルコは畑に手をかざす。


「いと心優しき緑の精よ。芽生えの驚きを、育みの嬉しみを、実りの喜びを、我に教え給え。…グリーン・グリーン。」


 途端に新芽が種を割り、にょきにょきと若葉が伸びる。


「わわわわっ!!」


「モンスターのことを考えると早く収穫したいしね。」


「すっすごいです!!」


 適正があったからであるが、それでも学んで得た知識をこうも驚いてもらえると素直に嬉しい。


「……」


「ミャア?」


 だがすぐにミャアは何か考え込む素振りを見せた。


「…こんなにすごいのに、植物魔法は使えないだなんて…… やっぱり信じられません。」


 ああ、なるほど。


「このグリーン・グリーンの魔法は少し特殊で、法律的な意味で使えないんだ。」


「法律?」


 予想外の単語だったのか、ミャアは首を傾げる。


「そう。例えばこの魔法でお金を稼ごうとしたら、作物の供給量増加による価格の低下とか農家が影響を受ける恐れがあるだろ? それで農家が仕事を辞めたら、国の食料生産にも影響が出るし、市民の生活にも影響が出る。だから法律的に制限がかかっているんだ。」


 そのため、今回のような場合か個人で楽しむ為くらいにしか使いどころがない。


「でもでも、お野菜が育たない時とかすごく助かると思うのですよ。」


 なるほど、飢饉の時か。


「うん。だから禁止じゃなくて制限なんだ。

 とはいえ、魔法使い1人だと数百人分しか賄えない。何万人、何十万人が暮らす都市だと何百、下手したら千人以上の魔法使いを確保しておかなきゃいけなくて現実的でない。だから結局、倉庫を作って十分な備蓄をする。周囲と友好な関係を築いて支援を受けられるようにする。そういったことの方が重要とされているんだ。」


「そうなんですね… おかしなことを聞いてごめんなさい。」


 しゅんと耳を畳んだミャアの頭をそっと撫でる。


「そんなこと無いよ。ほとんどの魔法使いは植物魔法は使えないって聞いたからってだけで下に見て学ぼうとはしない。なぜか、をちゃんと知ろうとするミャアは立派だよ。」


「うう、でも……」


 ミャアは納得できていない様子だ。


 まあ、使えない理由がわかったところで役に立たない現実は変わらないしな。


 ミャアの持つ隠密スキルは、詐欺師扱いを受けるマルコの錬金術スキルと同じように世間一般では泥棒扱いを受けている。


「…さてっ、休憩はこのくらいにして次は苗木を植えようか?」


 かなり強引だが話題を変えるようにマルコは言った。

 ちゃんと向き合って欲しい気持ちもあるが、意固地になって視野を狭くするのもまた良くないことだ。


「フルーツとかいろいろあるから全部植えるのは大変だぞー。」


「フルーツ??」


 ミャアの尻尾がぴょこんと揺れた。


「オリーブにレモン、オレンジ、ブドウ、リンゴ、キュウイ、モモにブルーベリー…… あと何買ったっけな?」


 名前をあげる度、ミャアの耳がぴんっ、ぴんっ、と立つ。


「ふふっ、何から植えよっか? ミャアは何が食べたい?」


「ミャアも食べていいですか!!?」


 目を輝かせて、尻尾も耳もピンと立つ。


「もちろん。ってしまった、シャベル家に置きっぱなしだ。取ってこないと…」


「取ってくるですっ!!」


 マルコが歩き出すより早く、ミャアは尻尾をぶんぶん振りながら丘をぱたぱた走って登る。


 …お祖父様もこんな気持ちだったのかな?


 せっかく錬金術の本を買い与えてくれたのに幼い頃のマルコは周囲の目に負けてろくに読みもしなかった。

 それでも祖父はマルコを可愛がってくれたし、優しく見守ってくれた。


「はぁはぁマルコ様~! 取ってきました~!!」


 息を切らせてシャベルを抱えたミャアが丘を駆け下りてくる。


「…マルコ様?」


「…ん?」


「どうかしました??」


 少しぼぉっとしていたせいか、ミャアが不思議そうに覗き込んでいた。


「いや、難しいけど頑張って育てないとなって考えてただけだよ。」


「そうですね。植えただけじゃ美味しい実はつかないって聞きますし、ミャア頑張るですよ!!」


 ミャアは両腕で小さくガッツポーズをし、やる気を見せる。


「くすっ、そうだね。一緒に頑張ろうね。」


「はいっ!!」


 マルコのローグ開拓は少しずつ進んで行くのだった。

ブクマ、評価、いいね、ありがとうございます。

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