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サブタイつけなかったせいで確認しようと読み返すのに苦労する……
公園建設は順調に進みほぼ完成間近、あとは細かな装飾などを残すばかりとなった。
九尾商会から必要な材料が届いたこともあり、マルコは海中ダンジョン攻略のためのポーションづくりに乗り出していた。
「おーい、マルコ、さん。…って、ひっでぇ臭いだな。」
「…これはちょっと……」
マルコが大釜をぐるぐるかき混ぜているところにやってきたパイソンとコウから顔をしかめて苦情を言われる。
マルコが今作っているのは水中呼吸のポーションだ。サハギンのエラにケルピーの肺胞、オオガマガエルの皮、モンスター由来の素材は兎にも角にも灰汁が酷く、腐っていないはずなのにドブ川を煮詰めているような臭いがする。
「すまんな。それで、頼んだものは?」
「時期的に怪しいかと思ったが運良く群生地が見つかってな。こんなんで足りるか?」
パイソンとコウは両手に持っていたバケツをどんと置く。
バケツには何種類かの海藻がそれぞれぎっしり詰まっていた。それらは水中呼吸のポーションを作るのに必須というわけではないが、ポーションの効果を高める成分が含まれていた。
海中ダンジョンの攻略へ向かうのはマルコ以外にシィロンと選抜された数名の蛇人族たちだ。水中呼吸のポーションが必要なのはマルコしかいない。
限りあるマジックバックの容量を思うと、なるだけ皆に必要な物資を積みたいマルコにとって、これらの素材はどうしても欲しいものだった。
「おおっ!ありがとう助かったよ。」
「まぁ、運が良かっただけだからな。」
「パイくん頑張って探したもんね。」
「ちょっ!姉さん!!」
コウによしよしされてパイソンが焦る。
相変わらず仲の良い姉弟だ。
「よし、それじゃあ一旦洗うから、ミャアちょっと……」
あっ、そうだった……
今、ミャアはマルコのそばにいない。少し自分を見つめ直したいと言われたのだ。
一応、マルコも詳しいことはコタロから聞いている。差し出がましいことをしてしまったと謝られたが、きっといい方向へ向かってくれるとミャアを信じ、むしろマルコはコタロに感謝している。
ちなみにクウガから「今はそっとしておく時だぞ。」と釘を刺されたが… 当のクウガは臭いに耐えかねて「一人っきりは良くないよね」といったシィロンともにミャアの元へ行ってしまった。
まぁ、そっとしておくにしても変に思い詰めないよう、誰かがそばにいてあげたほうがいいのはその通りだ。
…偉そうなこと言っておきながら、ずいぶんとミャアに頼りっぱなしだったんだな……
「…はぁ〜、しゃあねぇな。洗うんだろ? 手伝ってやるよ。」
しんみりしたマルコに気を使ってか、パイソンが言う。
「いいのか?」
「まぁ、マルコ、さんにはなんだかんだ世話になってるしな。」
照れくさそうに顎を掻きながらパイソンは答えた。
「ありがとう。あと、別に無理してさん付けで呼ばなくてもいいぞ。」
「いや、これは…その、けじめだから。」
「?」
「照れくさいだけだ。パイくん素直じゃない。」
「姉さんっ!!」
なんのけじめかはわからないが、コウに指摘されたパイソンはバツが悪そうに頭をガシガシと掻く。
「あー…洗うんだろ?先に行くぞっ!」
さっさと先に行ってしまうパイソンをどこか少し楽しそうなコウとともに追うのだった。
海藻を洗い終えて再びポジション作りを再開する。
「しっかし、すごい量だな。」
「まぁ、予備の分もあるしな。」
今回の海中ダンジョン攻略も前回同様、1月ほどかかる見込みだ。なので予備も含めて4〜50日分は用意しておきたい。
「う〜ん… でも今回、海底をずっと進んでいく計画だろ? 目的地までは海上を進んでそこから潜るじゃあ駄目なのか?」
シィロンに聞いた話、海中ダンジョンは大きく3つのエリアに分けられる。
門を潜ってすぐの珊瑚や海藻の森林エリア。その後深海へと続く岩石に覆われた荒野エリア。そして深海に広がる遺跡エリアだ。
珊瑚や海藻と言っても一つ一つが普通に樹木くらいの大きさがあるらしく文字通り森林となっているらしい。荒野エリアもデカい岩石が深海まで下りながら連なっており、山岳と形容したほうがいいらしい。
「たしかに森林エリアは迷うし、荒野エリアは移動に制限がかかるからまっすぐには進めない。海上を進んだ方がずっと速いんだけど…」
「ならなんでだ?」
パイソンが不思議そうに聞いてくる。
「まず1つは海上、というか海面付近を進めばモンスターたちに丸見えになってしまうからだな。」
遮蔽物のない海面付近は当然、モンスターたちから隠れることができない。
前回はダンジョン攻略前にタイガたちにはダンジョン内のモンスターを間引いてもらい、同時にレベル上げも行った。
しかし今回はモンスターズナイトの撃退で間引きには成功しているものの、突入隊のレベル上げはあまりできていない。
そのため、極力隠れて戦闘を避けつつ、避けられない場合のみ各個撃破で奥へと進む方針だ。
「なるほどな… くっ、ちきしょう。俺達がもっと強かったら……」
パイソンはそう言って悔しそうにぐっと唇を噛む。
蛇人族たちは奴隷生活が長かったせいもあってか、普通に狩猟生活を送っていた猫人族たちよりレベルが低い。
「まぁそう言うなって。海中ダンジョンから得られる資源は、間違いなく今後ここの重要な特産になるからな。ダンジョン攻略が終わって落ち着いたらじっくりレベル上げをしてもらうぞ。」
「ああ、任せとけ!」
パイソンはにかっと笑うとサムズアップした。
「他の理由は?」
マルコが1つ目の理由と前置きしたからだろう、コウが聞いてくる。
「ああ、海上を進めない理由はこっちが本命だな。海面から上はダンジョンの外、黒霧の領域とか黒霧の境界と言われる先になっているんだ。」
「ダンジョンの外?」
2人は不思議そうに首を傾げる。
ダンジョンには明確な端が存在する。端と言ってもそれは壁のようなものではなく、目に見えるほど高濃度な魔力のため霧のように見える通称黒霧の境界だ。ちなみに黒霧というのは水中での境界がどうなっているかが分かる前につけられたもので、そもそもが霧でもない。そのため水中ではモヤのようになっているそうだが、まぁそのまま黒霧と呼ばれている。
「この黒霧が高濃度の魔力なため、俺たちが足を踏み入れれば穢れにより10秒と持たずに発狂する。」
「…マジかよ……」
パイソンが驚きの声をあげた。
「それでいてモンスターは冒険者に追われた際に境界の外へ逃げ込む事は確認されているからな。まぁさすがに生活するには魔力が濃すぎるのか、好き好んで境界の外へ行くということはないらしいが、…報告によるとモンスターも境界の外へ出ると魔力が大きく増幅されて、短時間でも回復、更にはバフがかかるらしいから。あまり境界付近での活動は推奨されないな。」
「うげぇ…」
離れた異なるダンジョンにゴブリンなどの同種のモンスターがいることから、ダンジョンがあるのは黒霧で覆われた1つの世界ではないかとか。魔王が現れた際に地上を征服してダンジョンを手中に収めた際に地上をダンジョン間の移動に利用していたこと、地上を征服しておらず繋がっていないダンジョンから突如侵攻してくることがなかったことから、モンスターと言えども黒霧の領域を自由に行き来できる訳では無いのではないかとか。色々言われてはいるがあくまで仮説ではっきりしたことはわかっていない。
「っと、出来たぞ。瓶詰めは冷めてからにするから…休憩にお茶でも飲んでいくか?」
「おう!」
こうして海中ダンジョン攻略の準備も着実に進むのだった。
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