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 数日後


 公園建設地には早速多くの大人たちの姿があった。

 皆、日中の作業を終えての集合なので少し疲労は見えるが、子どもたちの喜ぶ姿を想像してどこか楽しげな表情である。


「それじゃあ浄水場やけど、ガンドールのおっちゃん。図面オッケーやでその通りに頼むわ。」


「うむ。」


「で、浄水場の処理能力がこんくらい。そこから飲水用の水くみ場に回すんがこんくらい。そこから少し余裕を持ちつつ池に使える水がこんくらい。せやから池の広さはこんくらいまでオッケーやね。」


 資料を見せつつ、アナが説明する。


「そいじゃすまんけどうちはもう行くから、池の形とか細かい事は皆で話して決めてや。」


「ありがとうアナ。ミャアたちの事はお願い。」


「任せてや。」


 指示を終えたアナにマルコが労いの言葉をかけると、アナは笑顔を1つ見せて小走りで去っていった。


 公園建設の間、マルコはそちらにかかりきりになる。なので勉強会の方はアナとコタロにお願いしていた。

 アナだけではない。今この場にいない大人たちも、公園建設参加者に代わって近所の子どもたちの面倒を見てくれている。


「さて、池なんだけど。…結構水量に余裕があるな…… やっぱり深いほうがいいか?」


「は、はい…そうですね…… 深さは泳げる深さがあれば大丈夫です。それより泳ぎ回れる広さが欲しいですね… あとは……その水遊び出来る程度の浅い場所もあれば……」


「浅い場所?」


 池のことならやはりというわけで蛇人族に聞いてみたが、少し予想外の回答が返ってくる。


 以前見かけたときは波打ち際で遊ぶ蛇人族はいなかった気がするが……??


「それに関すてはオラたちがお願いしただよ。」


 蛇人族と話していたところにシロコロがずいっとくる。


「オラたち泳げはしねが暑いのは苦手だ。水浴びなんかは大好きなんよ。」


「うむ。それは我らもだな。」


 シロコロの言葉にヒューマも頷く。

 たしかに暑い日の水浴びを考えると、別に蛇人族のためだけの場所ではなさそうだ。


「それなら膝下位の浅瀬も広めにとったほうが良さそうだな。流れは穏やかにして、底は怪我をしないように角のとれた小さい丸石かサラサラした砂か…… あ、あと泳げない子が深い場所に間違っていかないようになにか仕切りを用意する必要もあるな。」


「うむ。」


 マルコの言葉を聞きつつ、ガンドールがスラスラと図面を引く。


「こんな感じでどうだろうか? 池はだいたいそこからあの辺りまで、であっち側を深くそっち側を浅くする。飛び石と橋を用いて仕切りにして、中央に東屋を設置。ここからなら池のどこにいても見てられるからな、子どもと遊びに来た保護者はここでゆっくり過ごせるわけだ。」


 図面を読めない者も多いため、ガンドールは実際の土地に手振りを交えて説明する。


「は、はい。すごくいいと思います!」


「オラたちの事も考えてくれるなんて、完璧だ。」


「ふっふっふっ、ドワーフは最高の職人じゃからな。これくらいは当たり前だ。」


 ガンドールは得意げに胸を張ってみせた。


 たしかに予算は少ないが、木材なら植物魔法が得意で2柱の聖獣と契約し魔力も豊富なマルコがいくらでも用意することが出来る。


「よしっ、それじゃあ池チームと浄水場チームに分かれて早速作るぞ!」


「「おーーっ!!!」」




 後日


 池と浄水場づくりは一段落がつき、続いて猫人族とエルフ発案の林とアスレチック場づくりに着手していた。


 マルコが植物魔法で林を作り、猫人族がその木に登ってロープを通したり、ドワーフたちが丸太で遊具を作ったり、エルフたちは林にベリーや山菜を植えたりしている。


「おーい、マルコ殿!」


「ん? ヒューマか。どうしたんだ?」


「なに、ここらに一本大木が欲しくてな。」


 ヒューマに言われた場所は林の奥のひっそりとした場所だった。


「それはいいが…何に使うんだ?」


「木の上にちょっとした小屋でも作りたくて…な?」


「小屋?」


 どうしてそんな不便な場所に??


「いや、な? 我輩がガキの時分は隠れ里もそれほどバルドルの連中に目をつけられていたわけではなかったからな。山へ入っては秘密基地を作って遊んでおったわけだ。その時、木の上に秘密基地があったらとよく妄想していたんだよ。」


「ふっふっふっ、わしもドワーフとして色々建ててきたが木の上の建築など初めてじゃわい。」


 ヒューマとガンドールは子どものように目を輝かせていた。


 …しかし、木の上かぁ……


「あんたっ!!」


「おう、かぁちゃん。」


「木の上だなんて…子どもたちだけで遊ぶこともあるんですよ!危ないじゃない!!」


「いや、でも、大丈夫だって。」


「大丈夫じゃありません! 猫人族以外の子どもたちだっているんですよ!!」


 そこに現れたヒューマの妻によってマルコの言おうとしていたことを全部言われる。


「あのぉ〜……」


 それに対し、たまたま居合わせたエルフの女性がおずおずと手を上げた。


「それならエルフの魔法にちょうどいいものがあるんですが……」


「? どんな魔法だ?」


「芝生や苔をフカフカなマットにする魔法です。それを使っておけばある程度の高さなら怪我はしないと思います。」


 なんとっ!?


「…しかし……ずいぶんと変わった魔法ですね?」


「ええ、まぁ…エルフには日光浴…なんというかガチな日向ぼっこの文化がありまして、その際にこの魔法で下草をマットにしてお昼寝をするんです。

 ……子供の頃はお母さんやお父さんがよくこの魔法を使ってくれて皆で日光浴したなぁ…」


 エルフの女性は昔を懐かしむように言った。


「それはいい! なっ、かぁちゃん、いいだろ??」


「そうねぇ…とりあえずどんなものかみてから……」


「はい。それじゃあマルコ様、呪文をお教えしますね。」



 エルフから教わった魔法で作ったマットは想像以上にフッカフカ、しかも聖獣の力も得ているマルコのおかげでかなり持つので、木の上の秘密基地は無事作られることになった。




 また後日


 林のアスレチックエリアも一段落がつき、今度は牛人族とドワーフの注文の運動場、砂場を作ることになった。


 正直、一番心配していたのがドワーフの子どもたちのための場所である。槌を持って生まれ、鍛冶や建築に触れて育つとされるドワーフたち。だが鍛冶場も木工所も子どもたちだけだと思うと危険すぎて作れない。

 そんな中、ガンドールたちの要求はシンプルに砂場だった。なんでもエルフやドワーフは自然崇拝、精霊信仰だが、ドワーフは土の精霊ノームとの繋がりも深く、砂場も子どもの遊び場として鉄板らしい。

 そんなわけで砂場の方はガンドールたちに一任することにした。


 …まぁシンプルなただの砂場が出来上がるとは思えないが……


 ドワーフにとって子どもたちの想像を超え、憧れであり続けることこそ、親としての矜持らしい。

 とはいえ、元々鍛冶に建築と安全には特に気にする種族。秘密基地に関してはクライアントのヒューマ、猫人族基準で考えていた部分もあったが、改めて他種族のことも考えるようになった。危険なものは作らないだろう。


 そんなわけでマルコは土地を均して芝生を植え、運動場づくりに参加していた。


「あんのぉ〜、マルコ様。」


「ん?」


 芝生を生やす作業の途中、マルコは婦人たちに話しかけられる。


「このあたりに花ば植えてぇですが…?」


 代表して話す牛人族の女性はどこか恥ずかしげである。


「花、ですか? 花壇ならもう少し端の方か、エントランスの方が良くないですか?」


 女性が指した場所は運動場のど真ん中とはいかないまでもそれなりに広い場所である。

 ちょっとした花壇なら端、大きなものならエントランスのほうが見栄えが良い。


「いやいや、花壇だなんてそんな大層なものじゃなくていいだ。タンポポかシロツメグサでいいだよ。」


「??」


 わけがわからない。

 たしかにタンポポもシロツメグサも花ではあるがどちらかといえば、雑草や牧草と呼ばれるものだ。


「それじゃあわかんないわよ。」

「この人、子供の頃に旦那さんから花の冠を作ってもらったことがあるそうなのよ。」

「自分の子どもたちにもそんな経験をしてほしいそうよ。」


 困惑するマルコに婦人たちが集まり補足した。


「…恥ずがしいだ。」


「あらやだ。いい話じゃない。」

「そうよ。うちの旦那なんて花なんて一度もプレゼントしてくれたことないんだから。」

「うちもそう。役に立たなくたって女心というものを少しは理解してほしいわ。」

「「ねぇ〜。」」


 恋バナとは幾つになっても良いものなのだろうか? 婦人たちはとても楽しげである。


「なるほど。」


 運動場としてしか考えていなかったが、芝生の広場として考えれば楽しみ方は人それぞれだ。


「わかりました。種はありますかね?」


「っ! ありがとうだ。すぐ持って来るだよ!!」


「さすがマルコ様。優しいわね。」

「ねぇ〜、うちの旦那も見習って欲しいわ。」



 その後、その会話を聞いていたのか、マルコは何人もの男衆から花束の相談をされたのだが… それはまた別の話。

ブクマ、評価、いいね、ありがとうございます。

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