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感想をもらってやる気が出ました。
即週一投稿再開とはいきませんがぼちぼち投稿してペースを上げられたらな、と思っております。
青い空、白い雲。
穏やかな波は寄せては返り、白い砂浜はさんさんと照る太陽の光を反射してキラキラきらめく。
モンスターズナイトとその後処理も一段落が付き、幸い野良モンスターも全く発生しなかったことから今日は祝日でお休みという事になった。
ヒューマは「また釣り大会を開きましょうぞ!!」と息巻いていたが、蛇人族は銛突きで牛人族は菜食で釣りをしない。
なので今回は昼間は食材調達も兼ねて遊びつつ皆思い思いに過ごし、夜になったらそれらを持ち寄り、皆でご馳走を作ってお祭り、という流れになった。
ザバァ
「…ふう。」
「…お疲れ。」
素潜りから戻ったマルコを先に上っていたコウが迎える。
マルコは海中ダンジョン攻略のことを見据えて、コウと一緒に素潜りに挑戦していた。
「流石蛇人族、速いな。」
「…それだけ泳げるなら、マルコも十分すごい。」
マルコの泳ぎに少し驚いたようにコウは褒めてくれる。
シィロンと契約した事によりマルコが水魔法の適正とスタミナ増強の効果を得ていたおかげでもあるが、そもそもこの世界では泳げる人間が少ない。きちんと泳げる人間は漁師や船乗りが主だ。
そのため以前にバルドルとを行き来した際は流れの緩やかな浅瀬を狙い、対岸までロープを張って時間をかけて渡河した。
「学園にはプールがあったからな。身体を鍛えるために水練してよく泳いでいたんだよ。」
「…びっくり。」
たしかに水練は身体を鍛えるのに非常に有効だ。しかし清潔な水には限りがあり、当然ながら飲水としてとても貴重である。なのでプールは限られた一部の貴族や金持ちの道楽とされている。
というかそもそも普通に街や村で生活している分には別に泳げなくてもなにも問題が無い。なので水泳は漁師や船乗りなど生活に密着している者の特殊技能という扱いだ。
にしても、さすがに遅すぎだったな。
改めてコウとの差を思い返してマルコは思う。
たしかにマルコは泳げる。それにシィロンとの契約のおかげで半水棲の蛇人族についていくだけの体力はある。
だが長い尻尾をオールのように使える蛇人族は泳ぐスピードが段違いなのだ。
海中ダンジョン攻略のことを考えると…… もっと鍛えないとな。
「マルコ様〜!」
浅瀬まで戻るとミャアたちが迎えてくれた。
猫人族は全く泳げないということはないが、顔を水につけることをとても嫌がり潜ることが出来ない。
リオが子どもたちのお守りをしてくれたこともあり、ミャアには子どもたちと海岸で遊んでいてもらった。
「で、大物は獲れたのか?」
「コウが座布団みたいなヒラメを獲ったぞ。俺は貝やウニが大漁だ。」
「…ふふん。」
期待に尻尾をブンブン振りながら聞いてくるクウガに答える。巨大なヒラメを掲げて見せるコウもこころなしか得意げな様子だ。
モンスターズナイトで根こそぎ持っていかれている事も心配したが、大半を倒せたのか、あるいは倒されたモンスターで満足したのか、ともかく幸いなことに海産資源の被害は軽微であった。
「ふっふ〜んっ!さっすがぼくの眷属。ぐっじょぶだよ!!」
「ふ、ふん。ま、まぁ我の眷属たちも?今頃巨大な鹿かイノシシを狩っておる頃だし??」
実際に獲ったコウよりも明らかに得意げなシィロンにクウガが悔しさを隠しきれない様子で言う。
あいにく船が全く無い現状、岸から釣る猫人族では素潜りの蛇人族に大物勝負で勝ち目が無い。
唯一対抗出来そうなのは長老くらいだが…いかんせんかなりの高齢、体力的にこのサイズを釣り上げるのはかなり厳しい。
「…イノシシ。(じゅるり)」
幸い別に肉が不人気というわけでもない。割と若者には魚より肉のほうが人気だ。
特にコウたち蛇人族は奴隷の頃に犬の餌のような酷い部位しか食べられなかったこともあり、村に着いてまともな肉を食べたときには泣き出す者もいたほどだ。
「はいはい、とりあえず下処理しに行くぞ。」
「あっ、ちょっと待って!」
「ん?」
村の中心へ戻ろうとしたマルコを、リオが呼び止めた。
どうしたのだろうか?
「ほら、ミャアちゃん。」
「は、はいっ!!」
リオに背を押されたミャアが緊張した面持ちで数歩深みへ足を進める。
そして…
ザブン…
1秒、2秒、3秒………
「ぷはっ!」
30秒は潜っていただろうか、ピンと立った耳の先まで海に浸かっていたミャアが再び顔をあらわにした。
「どうですか!?」
「おお、すごいじゃないか。」
「でしょ? ミャアちゃん頑張ったもんね。」
猫人族は本当に顔を水につけることを嫌がる。なんでも空気を肌で感じることで気配なんかを察知できる分、顔に水がつくのはその感覚を奪われる、五感の1つを奪われるため、ひどく不安になるんだとか。
マルコはミャアの頭を優しく撫でた。
「えへへっ、これで私もマルコ様について海中ダンジョン攻略にいけますね。」
あー……
笑顔で言うミャアにマルコは少し言い淀んだ。
「ごめん、ミャア。さすがに海中ダンジョンの攻略には連れていけないよ。」
「…えっ!?」
さっきまで笑顔だったミャアの顔が、さぁっと血の気が引き絶望に染まったように青ざめる。
「ミャ、ミャア、潜れます!頑張ります!役に立ちます!」
「ちょっ!?」
「ミャ、ミャアちゃん!?」
突然の豹変に一同あ然とする。
「大丈夫です!もっともっと練習します!絶対、絶対役に立ちます!足なんて引っ張りません!だから!だから……」
独りにしないで…見捨てないで……
水に濡れていてもわかるほどぐしゃぐしゃになった泣き顔が、必死にすがる振るえる手が、それでも嫌われたくなくてなんとか取り繕おうとした笑顔が… その想いをひしひしと痛いほどに伝えてくる。
「…ミャア……」
なんと声をかけてあげればよいのだろう? マルコは泣きじゃくるミャアをそっと抱き締めてあげることしか出来ない。
「こらこらミャア。あまりそやつを困らすでない。」
「はい…」
脚が濡れるのも構わず近づいたクウガがミャアに優しく声をかける。
「我らは水中戦には適しておらんのだ。代わりに、ほら。こやつらがおるだろ?」
「ふっふぅ〜ん、任せてよ!」
「…(こく)」
「…はい…」
シィロンもコウも、なだめるように近寄ってきた。
「なに、そやつがいない間に我がたっぷり鍛えてやる。」
「そうよ。私と一緒に勉強も頑張りましょう?」
「……はい…」
元奴隷の中でも、ミャアは少し事情が違う。
隠れ里とはいえ仲間たちと共にささやかな幸せを感じながら暮らしていたところを捕まり奴隷施設に送られたではなく、ミャアはバルドルに住む個人に買われた両親の元に生まれた。
奴隷の子供は奴隷。ミャアは生まれながらに奴隷だった。
勉学の機会は与えられたが、別に優しい主人だったというわけではない。単に仕事を増やそうとしたのか、あるいはそれほど多くの奴隷を必要としない個人ゆえ付加価値をつけて売り払おうとしていたのか。実際物心ついたばかりの頃からミャアはすでに鞭で打たれて雑用をさせられていた。
ミャアは自由を知らない。
生まれたときから奴隷だった。
ミャアは希望を知らなかった。
生まれたときから奴隷で死ぬまで奴隷、わずかばかりのゴミのような食事でムチを打たれて働かされ、いずれ衰弱して死ぬのだと思っていた。
逃避行の中、両親はミャアをかばって順番に死に…ミャアは独りぼっちになってしまった。
そんな中知った希望。それがマルコだ。
希望を失ってはいけない。だから人間種のマルコに獣人族のミャアは尽くさなければならない。
マルコはミャアを家族と言ってくれた。でもミャアは家族もいなくなってしまうことを知っている。
それはミャアをかばってのことだった。
でも人間種のマルコは?
もちろんそんなことはない。マルコは優しい。
でも生まれてからずっとバルドルで人間種から虐げられてきた過去が、そんな不安を駆り立てるのだ。
毎日、毎晩、ふとした時… 1人の隙をついて不安がミャアを責め立てる。だから…どうしても、どうしょうもなく、捨てられるのではないかとマルコのことを疑ってしまう。
家族として、領主として、マルコを疑うなどミャアは悪い子だ。悪い子は本当に捨てられてしまう。
いい子にならないと、役に立たないと…
嫌われてはいけない。見捨てられてはいけない。そしたら希望がなくなる。絶望がまたやってくる。
怖い……怖い…怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい………………
ミャアの心に刺さった大きな棘は、未だに深く、刺さったままだった。
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