7
ざくっ、ざくっ…
鍬を振り下ろし、土地を耕し、畑を作る。
「…ふぅ。」
マルコはひと息つき、額に浮かんだ汗を拭う。
アーニエルの屋敷にいた頃は田舎で晴耕雨読の生活に憧れていたが、下草を刈って耕して砂利を取り除いて… ミャアも手伝ってくれているのにその下準備だけでも一苦労だ。
「んーでも…」
澄んだ青空に白い雲がゆっくり流れ、初春のまだ少し肌寒い風が火照った身体を優しく撫でる。
あの頃とは違う、心地よい疲労感だ。
「マルコ様~!」
「ん?」
「どうかしましたか?」
作業の手を止めたマルコに不思議がってか、ミャアがパタパタ走って寄ってくる。
「きゃっ!」
しかし、耕してでこぼこをなった地面に足を取られてミャアは転んでしまった。
「いたたたっ…」
「気を付けないとダメだよ。」
寄ってミャアを立たせるとマルコは服についた土を払ってやる。
「ん?…… うぉっ!?」
ミャアが転んだすぐ側にすごく大きなミミズがうねうねしているのを見つけ、マルコは驚く。
「うわぁ、大きなミミズですね。…って、マルコ様はミミズ、苦手ですか?」
「い、いや… さすがにこんなに大きいのは見たことがなくて驚いただけだよ。」
「そうですか…」
ミャアはしゅんと耳を畳む。
「どうしたの?」
「…マルコ様って、何でも出来るじゃないですか? せっかくミャアでも役に立てることが見つかったと思ったのに……」
ミミズ退治というのが、年相応に子供らしいというか… 可愛らしい。
「ミャアがいるから俺はすごく助かってるよ。」
ぽんぽんとミャアの頭を軽く撫でる。
「本当ですか?」
「ああ、本当さ。」
単純に手伝ってくれているという効率だけの話ではない。ミャアがいることで楽隠居ではない責任感がマルコの生活にハリをもたらしていた。
「……」
まあそれは言葉にしても伝わるかもわからないほど目に見えないもので、ミャアは納得できない様子だ。
「よしっ、今日は畑はここまでにして釣りにでも行こうか!」
「えっ?」
ちょうど畑仕事は区切りの良いとこまで済んでいる。
「大物期待しているよ。」
「っ! はいっ!!」
そんなわけでマルコたちは海に釣りにきた。
別にミャアのために釣りに行くわけではない。畑が出来ても収穫できるまで元々持ち込んだ食料だけでは足らないため、森で木の実をとったり野草やキノコを集めたり、今日はエサになりそうなミミズが目にとまったので釣りをしているだけだ。
「…ん~ん……」
あいにく竿は1本しか無いので糸を垂らすミャアを眺めつつ、マルコは海を見る。
あの辺には港が造れそうかな? あっちは… 塩田が造れそうかな?
そんなことを考えつつ海岸を眺める。
他所と繋がる道がアーニエルとの峠しか無いローグにはそれらの施設が必須だ。
とはいえミャアとの2人しかいない現状、妄想だが夢が広がる。
「うわっ! わわわわっ!!」
そんなことをぼーっと考えている間にどうやらミャアが大物を引っかけたようだ。
「大丈…」
いや。
ミャアに駆け寄ろうとしたが何か嫌な予感を感じた。
ざばあっ
「ギョギョっ!!」
ミャアが釣りあげた大きな魚を追ってか半魚人みたいなモンスターのサハギンが飛んでやってきた。
っ!!
一刃一閃
マルコの剣がサハギンを切り裂く。
ふぅ。
「大丈夫?」
シャキンと剣を鞘に納め、マルコはミャアに振り返る。
っと…
ザバン!
しかしワカメに足を取られたマルコは転び、盛大に水しぶきを上げた。
「…ぷっ、あははははっ!」
「マルコ様?」
ミャアに気を付けるよう行ったばかりなのに自分もこれとは… しまらないなぁ。
思わず我慢できないほど、笑ってしまうしかない。
「ははっ、偉そうに注意しといてこれって… 笑っちゃうね。」
「そんなことは…」
「って、本当に大物じゃないか。すごいな。」
「えへへ、頑張りました。」
ミャアを褒めると、彼女は嬉しそうに笑った。
「よしっ、晩御飯は塩焼きにしようか。いや、スープも良いかな?」
「塩焼き! スープ!」
ミャアは献立を聞いて目を輝かせる。
「うん。大きいし、いっそ半身ずつ両方作ろうか?」
「はいっ!」
ずぶ濡れの服を絞りつつ、マルコたちは家へと帰るのだった。
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