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先週は更新出来ずすみません。

 イッシュはかなり信仰心の薄い。ここ聖バルドル教国においては異端な存在だ。


 幼い頃はそうではなかった。ごく一般的な家庭で生むれ、他の者たちと同じくらいには信仰心を持っていた。

 それが変わったのは兄が死んでからだ。兄はイッシュと違い真面目な性格で、両親自慢の息子。特に母は兄を溺愛していた。


 そんな兄だが、多分に漏れず戦争に従軍し、死んだ。


 それから、母は壊れ、家庭は崩壊した。

 母は塞ぎ込み、日中のほぼ全てを教会で祈り過ごすようになる。

 最初はそれで母の心の傷が癒えるならと静観していた父だったが、家事を何もしない日が一月三月半年と続き寄進額もどんどん増えるにつれて、母を怒鳴る日が増えて果ては拳を上げるようになった。


 それでも母は兄のことを祈り続けた。


 貯蓄の全てを寄進し、家財を売り払っては寄進し、父のその日の稼ぎすら寄進し、方々に借金をしてまで寄進した。

 そんな家庭に嫌気が指したのか、父はイッシュと母を捨てて他所に女を作って蒸発した。

 ただその後のことをイッシュは知らない。寄進のため母の手によってイッシュ自身が身売り同然に従軍させられたからだ。


 そんなことがありすっかり信仰心を失ったイッシュは、特攻まがいの命令の中、自身が生き残ることを第一に行動した。そして数々の戦闘を生き延び、今のイッシュと同様の信仰心の薄い、いわゆる軍人上がりに拾われた、というわけだ。




 そんな俺がどこぞのお嬢様の副官とは… 世の中わかんねぇもんだな。


 イッシュはしみじみと思う。

 別に出世コースに乗れたというわけではない。エリスはおそらく良家の出身だろうが、いかんせん聖バルドル教国は男尊女卑が激しい。

 まぁ出身コースではないということは逆にいえば安全というわけだ。出身の種、つまりは争いごとがない。

 おそらく今回のこともエリスの親が家の体裁のためにエリスを大司教にするも、前線から離れた安全な場所に置こうとした結果だろう。欲を言えはどこかの街の大司祭だったろうが…残念ながらそういったところの空きはそうそうできないものだ。

 とはいえこれでイッシュも大司祭付きの助祭。給料もよく安全となれば、多少面倒でも文句はない。


 っと…


 見ればエリスたちに一部の兵士たちが突っかかっているのが見える。

 奴隷港の調査に向かうにあたり、新たな奴隷の移送とその監視役となる兵の指揮も仕事だ。


「なんで女の命令なんかに従わなきゃ行けねぇんだっ!!」


 エリスが大司教ということでほとんどの兵士たちが恭しく従っている中、数人の男たちが怒鳴り声を上げていた。


「口を慎みなさい! エリス様は大司祭にあらせられますよ!!」


「うるせぇ! 女が地位を得て男の上に立とうとするんじゃねぇ!!」


 間に入っていたレイチェルに男は殴りかかる。


 パシッ


 すんでのところでイッシュがその拳を掴み止めた。


「大丈夫か?」


「は、はい…」


 気丈に振る舞ってはいたがやはり怖かったのか、普段強気なレイチェルがか細い声で答えた。


「なんだてめぇ!!」


 イッシュは無視して拳を掴む手に力を入れる。こういった輩は少し痛めつけてやったほうが言うことを聞くものだ。


 ミシッ、ミシミシ…


「いっ!!いでっ!いてててててっ!!」


 拳の骨が軋み、男は悲鳴を上げた。


「イッシュ助祭、そのくらいにしてください。」


 エリスが止めたのでイッシュはあっさり手を離す。今後エリスの命令に従わせるためにあくまで忠犬に徹しておいたほうがいい。


「助祭様!? す、すみません…」


 イッシュが手を離すと男たちはすぐに頭を下げた。

 別に彼らに信仰心がないわけではない。むしろ信仰心に従い男尊女卑の教えを尊んでいるからこそ、女性神官という存在が許せないのだ。


「…エリス様。こいつらの処分はどうします?」


「処分? いえ、彼らはバルドル様の教えに忠実であっただけです。褒められこそすれ、どうして処分などできましょうか?」


「…だ、そうだ。この部隊で一番偉いのはエリス様だから今後はちゃんと従うように。じゃ、行っていいぞ。」


「は、はい。」


 男性神官であるイッシュに言われ、男たちは素直に下がった。


 …ふぅ。馬鹿だなあいつら……


 大司祭であるエリスは当然無礼討ちすることが許されている。エリスが手にしているのは長柄の権杖であり、その先端は華美な装飾が施されているが、人を殺すには十分なくらい重くて硬い。

 女子供と侮ったのかもしれないが、重さと遠心力で人の殺せるメイスは振り下ろせさえすれば女子供でも簡単に人が殺せる。

 むしろ女子供だからこそ、寸止めなんか絶対に無理だし、手加減には期待できない。振るわれれば待っているのは確実な死だけだ。


「すみません、イッシュ助祭。お手間をおかけしてしまいました。」


「いえいえいいんすよ。俺は副官ですから、遠慮なく使ってください。」


 まぁ見せしめを上げれば従うようになるだろうが、奴隷の監視には人手がいる。そうならなくて良かった。


「いえ、敬虔な信者が従わないのは我が身の不徳ゆえ。イッシュ助祭には本当に助けられました。今度お礼させてくださいね。」


 そう言ってエリスは微笑む。

 前の上司のクソジジィならふんぞり返って理不尽な命令をしまくり、ヘイトを稼ぎまくっていたのにこういった事態になるとイッシュは怒鳴られネチネチなじられていた。


 ああ、ほんといい娘だ。



 そんなこともありつつ、イッシュは奴隷港への旅を続けるのだった。

ブクマ、評価、いいね、ありがとうございます。


もしまだの方でしてやってもいいよという方はブクマや評価していただけると励みになります。


すでにしているよという方はいいねをしていただけると楽しんでいただけているんだと安心できます。


もしよろしければお願いします。



イッシュはとりあえず2話でまとめたかったのに…もう一話かかりそうなんじゃ……

やっぱ全体プロットを上手く作れるようにならないとなぁ……

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