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 聖バルドル教国東部にあるとある大教会。


 イッシュ助祭は足取り軽く歩く。

 法衣を着崩しスキップさえしだしそうなその様は厳粛な空気などまとっておらずとても助祭には見えない。


 それもそのはずだ。イッシュは軍人であって宗教家ではない。

 ただ宗教国家であるバルドルでは、軍人にしろ役人にしろ、国家の組織で人の上に立つ階級は宗教的階級を与えられるというだけなのだ。


「おお、イッシュ。随分とご機嫌だな。」


「おう、異動命令だ。ようやくあのクソジジィの下からおさらばできるぜ。」


「はは、羨ましいなおい。」


 たまたま行き先の方向の被った同僚と軽く雑談する。


 すべてが宗教的階級の弊害か、上司がただの宗教家なんてことはよくある。というか聖バルドル教国において出世できるのは宗教家ばかりだ。

 イッシュの今までの上司は軍事はずぶの素人。なので雑な命令をするだけで何もせず、イッシュが全てをやっていたのに手柄は全部持っていかれていた。


「今度の上司は可愛い子がいいな。」


「おいおい、それよりまともな軍人上がりじゃないか?」


「宗教家以外で出世できる奴なんて相当のお布施を集めた奴だろ? 給料削られるのは嫌だぜ?」


「ははっ、それもそうだな。」


 それでも軍人や役人がクーデターや革命を図らないのは簡単だ。

 バルドル軍は基本練度が低い。例外的に練度の高い精兵は教皇や枢機卿が個人的に保有している軍だけだ。

 それでも国の成立以来ずっとドワーフとエルフと戦争を続けられるくらいにバルドル軍は強い。


 それは何故か?


 信仰心があるからだ。

 別に兵士はサイコパスではない。普通敵を殺すのにも抵抗を感じるし、簡単に敵を殺せるほどの強い恨みを抱いているのならそれが余計な気負いとなる。

 だがバルドルの兵にはそれらが薄い。敵兵は悪の手先であり、それを殺すことは教義により善行とされているからだ。だからバルドルの兵士は物乞いに金をやるのと同じ感覚で敵兵を殺せる。

 それに死ぬことだってそう。敵兵を殺しているあるいは殺そうとしたバルドルの兵士にとって死ぬことは神の国への引っ越しくらいの感覚なのだ。

 そのため練度の低さからバルドルの軍はどんな優れた戦術でも複雑なものはできない反面、信仰心からシンプルな力押しならどんな無茶でも遂行するという特徴がある。


 なのでどんなに頑張っても大司祭止まりな軍人や役人では、より信仰心を高めてくれる司教以上の宗教家たちに勝ち目がないのだ。


「おっと、この部屋だ。」


 たまたま一緒に歩いた同僚に別れを告げ、イッシュは新たな上司の待つ部屋へと入る。


「お待ちしておりました。イッシュ助祭ですね?」


「ああ。」


 よっしゃあたりっ!!


 イッシュは内心歓喜する。

 新たな上司は大司祭と聞いていたが、上座に座るのはまだ幼さは残るがかなりの美少女。先程イッシュを招いた司祭を含めて大司祭の彼女を補佐する司祭たちも美人揃いだったのだ。


「イッシュ助祭です。いやぁ、新しい上司がこんなにも美人揃いとは、最高ですね。」


「こほん。イッシュ助祭、あまりそのような軽口は…」


「くすっ、いいのですよ。」


「しかしエリス様。」


「レイチェル司祭。バルドル様も『美しき者は讃えよ』と仰っておりますよ。」


「…はい。」


 バルドルは元が性に奔放な冒険者上がりの勇者だけあって、そのあたりは緩い。


 まぁそんな生めよ増やせよに繋がる教義が大量の死者を出しやすいバルドル軍を支えているのだが…


「あっ、申し遅れましたね。私はエリス、大司祭の地位にあります。こちらは私を補佐してくれるレイチェル司祭とカーリア司祭です。」


「レイチェルです。」


「か、カーリアです。ど、どうも…」


 長い金髪をふわりと揺らしまるでどこかのお姫様かのように微笑み挨拶するエリス。

 ボブ・ショートに眼鏡、性格のきつそうなツリ目が知性を感じさせる巨乳のレイチェル。

 癖のある長い黒髪に眼が隠れ表情はよく見えないが、レイチェル以上の爆乳が法衣を大きく歪ませている、オドオドした様子のカーリア。


 やったぜ、ここは天国か!?


「イッシュ助祭は今回の任務についてはすでにお聞きですか?」


「あ、いえ。なんも。」


「ある港から救済を待つ者たちが大量に脱走した話はご存知でしょうか? その調査が私達の任務です。」


「…はっ??」


 中、巨、爆。三者三様の胸を目で堪能していたイッシュだが少し焦る。

 救済を待つ者とは聖バルドル教国におけるドワーフやエルフ、獣人の奴隷のことだ。彼らは人間種へ転生するために人間種への奉仕活動に従事している、という扱いだ。


 …絶対めんどくせぇ……


 その話はイッシュも知っている。立地を考えればローグの地、つまり他国へ逃げた可能性が高い。


「どうかなさいましたか?」


 頭を悩ませるイッシュをエリスの澄んだブルーの瞳が見つめていた。


 …あっ!そうか。


 エリスがこの年齢で大司祭ということは、当然親の力が働いている。大司教、あるいはその上の枢機卿… ともあれこの任務の結果がどうなろうと娘の経歴に傷がつかぬよう、親の力で上手く取り繕うに決まっている。


 …なら、あんま気にすることでもねぇか。


「いえ、何でもないです。」


「くすっ。そうですか、良かったです。」


 エリスはこの任務の困難さなど毛程も理解していないように無邪気に笑う。


 …ああ、かわええ。


 どのみちイッシュに拒否権などないのだ。どうにもならないことは気にせずに、イッシュは美女3人との旅を楽しむのだった。

ブクマ、評価、いいね、ありがとうございます。


時系列的に本当はバルドル側の視点をもう少し早く入れたかったのですが…

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