64
遅くなりました。すみません。
モンスターズナイトの発生。
クウガからその事を聞かされたマルコは、急遽その対策に追われることになった。
当初、海中ダンジョンの存在を知ったときは、水棲モンスターばかりで上陸してくるのは一部の限られたモンスターたちということもあり、防衛はクウガに任せるつもりだった。
別にクウガひとりに押し付けたというわけではない。下手にマルコたちが参加するよりクウガひとりの方が攻撃の巻き込みを気にせず自由に動けるという判断だ。
しかし穢れに堕ちた聖獣がいるかもとなれば話は変わってくる。
一部とはいえ元が膨大な数であるモンスターズナイトにさらにクウガと同格の聖獣が敵側として加わるのだ。当然、クウガひとりに任せていいものではない。
そういった事情から街の開発は一時中断、マルコはシロコロたち牛人族を中心とした力自慢たちを率いて防衛陣地を築いていた。
「マルコ様~。土嚢積むのはこの辺りでいいたがか??」
「いや、もう少し後ろ… 5mくらい後ろで頼む。」
「マルコ様~。この岩も退けた方がいいたがか??」
「ああ、頼む。」
まあ、防衛陣地といっても海岸にある岩や流木といった上陸してくるモンスターが遮蔽として利用してくるものを撤去したり、海岸線に土嚢を積んで味方の遮蔽を確保したりするくらいだが…
あいにく、アナは堅牢な防壁や要塞造りなら完璧な指揮を期待できるが、こういった突貫工事には向いていない。
アナも時間とトレードオフなことは理解しているが、どうしても味方の犠牲を考えると十分ではないと感じてしまい、不安にかられてしまうからだ。
指揮するものが不安にかられてしまえば、それが下にも伝播してしまう。緊張感は持ってもらわなければ困るが、かといって怯えさせるのは違う。
「…なあ、やはり我だけで十分ではないか?」
「またその話か。」
そういったわけでマルコが陣頭指揮をとっているのだが、隣にいるクウガが自分ひとりで十分だと主張してきた。
「言っただろう? モンスター側にも聖獣がいるとなると、さすがにクウガひとりでは危険すぎる。」
「それはわかっておるが…だがな……?」
「それともなんだ? クウガは俺たちが足手まといだと言いたいのか?」
「そうは言わんが…」
珍しくクウガは歯切れが悪い。
別にクウガはマルコたちのことを邪魔に感じているわけではない。むしろその逆、穢れに堕ちた聖獣の相手をしなければならない以上、マルコたちを完全に守りきることは難しくその心配をしてのことだ。
そのくらいマルコたちとクウガの間には隔絶された実力差がある。
とはいえ引いてクウガひとりに任せることはできない。
別に心配をしているのはクウガだけではない。マルコたちだってクウガのことを心配している。
「だがな、やはり我だけの方が……」
「ダメだ。」
「…むぅ……」
「はいはい、しょげない。
おーい、皆!少し休憩にしようか!!」
幸いモンスターズナイトの対策は急務であるが、新月の夜が今日明日ほど切迫した事態でもない。
マルコはすっかりいじけてしまったクウガよそに会話を切り上げ、休憩をとるのだった。
休憩といってもマルコに休んでいる暇はない。
モンスターズナイトの対策は防衛陣地の作成だけではないからだ。例えばドワーフたちや金属加工に心得のある者たちには武具の作成や修繕、大量の矢じりの作成を頼み、エルフたちや手先の器用な者たちには大量の矢の作成を頼んでいる。
当然、マルコのやることは錬金術、各種ポーションや傷薬、大量の聖水の作成だ。
「…見てていい?」
大釜をかき混ぜるマルコにコウがそっと尋ねた。
「ああ、いいよ。」
「……ん。」
……
なんだろう?
てっきり錬金術の作業を見たいのかと思っていたが、コウはじっとマルコの顔を見つめてくる。
「…あの、そんなに見つめられるとやりづらいんだけど……」
「…でも、見ていいって言った。」
不思議そうにコウはこくんと小首をかしげる。
一見口数少なく寡黙でクール系美人のコウだが、実際はかなり天然が入っている。
…う~ん…… どうしたもんかな…?
そんなことを考えていたせいか、思わずマルコもコウを見つめていたのだろう。突然コウがぷいっと視線をうつむかせた。
「…?」
「…そんなに見つめられると…恥ずかしい……」
頬を赤らめうつむいた視線を泳がせるコウ。
ドキッ
普段の様子からは想像できないようなコウの反応。そのギャップに思わずマルコの胸目を奪われた。
…あー、えっとその… なんだ……
「あーっ!なにやってんだよ姉さん。邪魔しちゃダメだろっ!」
「…邪魔してない。」
「はははっ、ライバル出現っすね。リオもアピール頑張らないと…ごふっ!」
「うっさい、おにい。」
パイソンにタイガ、リオもやってきた。三人は共に勉強会に参加していることもあり、なんだかんだ仲が良いように感じている。
「…こほん。で、マルコあんたはなにやってるの?今は休憩中じゃない?」
「…俺は指示を出してただけだからな。そんなに疲れていないし……」
「…ミャアちゃんにチクるわよ。」
「ごめん、それは勘弁して。…今やっとかないと後で徹夜する羽目になりそうなんだ。だから見逃してよ。」
子供同士の交流も大切だろうとミャアには子供たちと一緒に矢作りに参加してもらっている。
マルコも肉体労働をしていないのは確かだが、防衛のためにどう陣地を築いたらいいのか考えることはたくさんあり疲れていないわけではない。
なのでミャアにバレたら無理にでも休ませようとしてくるし、それで徹夜になれば無理をしてでも付き合おうとするだろう。
「…はぁ、まったく。手伝うわ、何をしたらいい?」
少し呆れたようにリオが言った。
正直、すごく助かる。
「ありがとう。もうすぐ聖水が出来るから詰め込む樽を持ってきてくれないか?」
「それなら俺が取ってくるっすよ。」
一瞬、リオを向きウインクしたかと思うとタイガは走り去っていった。
…? なんの合図だ??
「なあマルコぉ…さん。錬金術って俺にも出来るのか?」
パイソンが聞いてきた。
勉強会に参加することになって以降、敬称をつけようとはしているが…どうも慣れないらしい。
別に無理して敬称をつける必要は無いと言ったが…本人曰くけじめだとか。
「まあ、練習してスキルを身につければ出来るが……興味あるのか?」
スキルは別に生まれもって授かったものが全てではない。訓練や信仰次第で誰でも身に付けることは出来る。
「ん? …なんか儲かりそうだし。」
パイソンはポリポリ頭を掻きつつ、照れくさそうに答えた。
「残念だけど錬金術師は詐欺師まがいだから儲からないよ。」
「そうなのか?」
どうやらパイソンたちもバルドル国内にいたせいで教会での治癒魔法を受けられず、薬草に頼った生活をおくっていたらしい。そのため救出直後にポーションを見たのが初めてで未知のものに警戒していただけ、その後は薬草の延長線上に思っていたんだとか。
「…う~ん…… ならなんで治癒魔法は信頼されてんだ?」
「それは……」
マルコは今まで疑問に思ったこともない質問に頭を悩ます。
「俺はなら薬草から出来てるポーションより目に見えない魔法を受ける方がこええんだが?」
…う~ん……
神官が信用されているから?
確かに聖職者は住民の信用を集めて影響力がある。
だが、教会という組織にいる以上異動がない訳ではないし、旅人や行商人も治癒魔法を普通に受けている。つまりあまりよく知らない個人からも人々は信用して治癒魔法を受けていたのだ。
「人間種にとって教会は私たちにとっての聖獣様みたいなものだからじゃないかしら?」
リオがふと答えた。
確かに言われれば簡単なことだが、まず教会が絶大な信頼を得ていて、神官たちはその人個人より教会という組織に属している人として信用がある。
「なるほど! じゃあ教会みたいな信頼される組織を作れば錬金術で儲けられるんじゃね?」
「う~ん…… まずその組織を作るのが難しいが…」
とはいえ面白そうな考えだ。
「…パイくんが難しそうな話してる?」
会話に入れなかったコウがポツリとこぼした。
「ん?ああ、最近勉強会で頑張ってるからな。」
「ちょっ!!マルコぉ…さん……っ!」
「勉強会?」
「ああ、夜にうちでやってるんだが…聞いてないか?」
なんかパイソンが焦ってるが、マルコはコウに答える。
「…聞いてない……」
気持ち少しむすっとしたような様子でコウはパイソンを見た。
「いや、あの……えっとそのぉ~?」
「…ははぁん、さてはミャアちゃんに教わってるとこをお姉さんに見られたくなかったのね?」
「うぐっ!」
めっちゃ目が泳いでいたパイソンだが、リオに指摘されて呻く。どうやら図星だったようだ。
「…で、どうする? コウも参加する?」
そんな2人をよそにマルコはコウに訊ねる。
「…いいの?」
「ああ、やる気があるなら大歓迎だよ。」
「…がんばる。」
そんなこともありつつ、万全の準備を整えたマルコたちはいよいよモンスターズナイトの夜を迎えるのだった。
ブクマ、評価、いいね、ありがとうございます。
嬉しいことに総合評価が1000を突破しました。改めてお礼申し上げます。ありがとうございます。




