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 コーン… コーン…


 村のあちこちで建物を作る金槌の音が響く。


「おーい、丸太さ持ってきたべよ。」


「ありがとう。ガンドールのおっちゃん、丸太来たで。」


「うむ、そこに置いといてくれ。」


 現場指揮はアナが、大工衆はドワーフたちが、土木や運搬は牛人族たちが中心となり、猫人族や蛇人族、エルフは各々得意な分野に割り振られる形で街の建築が進められていた。


「しっかし、すごいなぁ。力持ち言うんは聞いとったが、こんなやもん。」


 人間種なら10人がかりで引いて運ぶような丸太を2、3人で担いで運ぶ牛人族のシロコロたちにアナは目を丸くする。


「馬鹿力だけがおらたちの取り柄だべ。しっかり活躍させてもらうべよ。」


 シロコロはムキッと得意気に力こぶをつくって見せた。


 これだけパワーがあればさぞかし強い、そう思うかも知れないが、牛人族の多くは戦いを好む性格ではなく、戦闘のセンスはあまりない。


「それよりもガンドールどんたちドワーフの建築技術はやっぱすげぇなぁ。」


 持ってきた丸太がみるみる柱に、しかも寸分の狂いもなく加工されていく様にシロコロは感嘆の言葉を上げた。


「はっはっは! ワシらドワーフは槌を持って産まれると言われておるからな。1人で家を建てられて一人前、プロポーズは自分が建てた家を見せて行うのが古い習わしだからな。このくらいお手のものじゃわい。」


 今では戦争の影響で徴兵され、実際に家を建てるようなことは少ない。それでも建築や金属加工など、槌を振るう技術は親から子へ脈々と受け継がれている。


「おーい、アナさんや。水路なんだがこげんな深さでええべか?」


 土木を担当している牛人族に呼ばれ、アナは現場へ向かう。


「う~ん……」


 そしてキョロキョロ。

 アナの内政面の異常さは何も書類仕事だけではない。現場でも異常な能力は発揮され、彼女はたったこれだけの事で正確な測量が可能だった。


「あと5cmだけ深くしてぇや。」


「ほーい、わかったっべ。」


 それだけのことができるのなら戦争で敵地の視察なんかに役立ちそうな気もするが、残念ながらそれは無理だ。

 道具無しに正確な測量ができるといっても、キョロキョロ辺りを窺う必要があるので不審。だからといって敵地でバレないように活動してこいといわれれば、あがり症なアナではかえって不自然な行動しかできない。


 とはいえ、そんなできないことの話は関係ない。今は各々得意な分野でその力を存分に発揮すれば良いのだ。


 得意分野で力をだし合い協力する。そんな当たり前のことでローグの街は急速に造られていくのだった。






 一方その頃。

 ここ何日もマルコはコウやクウガと共に海岸線でダンジョンを探している。


「だめ、見つからない。」


 コウがザバリと海から上がり、そう告げた。


 泳ぐのに邪魔にならないよう元より薄い服が水に濡れて身体に張り付き、その肢体を艶かしく現している。

 助け出した時はガリガリに痩せこけていたが、最近ではスレンダーながら女性らしい膨らみもちゃんとわかるコウの姿。


「そ、そうか。」


 別にマルコは枯れているわけでもなく、れっきとした男性である。これまで浮いた話が無いのは単にそういったことにかまけている暇がなかっただけ。むしろかまけている暇がなかったから女性経験も免疫もないわけで、マルコはコウから目を背けつつどぎまぎしながらそれだけ言った。


「……??」


 一方のコウも長い奴隷生活とあって男性経験などない。だが半水棲の蛇人族からすれば泳ぐことは日常であり、水に濡れて肢体があらわになっている今の姿でもそれを異性に見られて恥ずかしいと感じる文化にない。

 なので不思議に思いつつもナチュラルにマルコへ接近する。


「えっ!?あっちょっ!!??」


「っ!?……」


 なのでマルコは近寄られただけで慌てふためき、その反応にコウは傷付いたようにしょんぼりする。


「あっ、その…ごめん……」


「…うん。」


「…おい。いちゃついてないでそっちはどうなんだ?」


「「いちゃっ!?」」


 当初は2人の初々しい反応をニヤニヤ見ていたクウガだったが、マルコのヘタレっぷりに呆れたような声で口を挟んだ。


「…こほん。こっちもダメだ。」


「…そうか……」


 マルコも泳げはするが蛇人族ほどの潜水能力があるわけではない。なので海岸線から鷹の目の地図を使いダンジョンを捜索していた。


「本当にこの辺りなのか?」


 クウガを疑うつもりはないが、こうも見つからないとさすがに不安になる。


「うーむ…… いかんせん、我は泳げぬから聞いた話なのでな。」


「聞いた? 誰から?」


「あっ、いや…言い間違えだ。なんとなくあの辺りにある気がするなぁと……」


 どう見ても口を滑らせて焦っているのに、クウガはそれを無理矢理にでも誤魔化そうとする。


「…何を隠しているんだ?」


「な、何も隠してなどおらぬぞ?」


 いや、バレバレなんだが……


 マルコはしばらくクウガをじとりと見る。


「…はぁ。実はこの地にはもう一柱聖獣がおったのだ。」


 なんだって!?


 海中ダンジョンといい、そういった話はもっとちゃんと教えてくれ。


「ところでその聖獣はどんなやつだったんだ?」


「水龍だな。」


「水龍様!?」


 普段とらえどころのないコウが珍しく驚きの感情をあらわにした。

 聞けば蛇人族が信仰している聖獣が水龍らしい。


「…水龍様はどこ?」


「…わからぬ。だがあやつはそう簡単に死ぬタマではない。おそらく我と同じようにダンジョン内で穢れに堕ちて囚われているだけだ。」


「…そう……」


 悲しげなコウの肩をマルコは優しく叩く。


「元よりダンジョンは攻略するんだ。目的が1つ増えただけ、一緒に助け出せばいいよ。」


「…うん。」


 そうしてまた、マルコたちはダンジョンを探した。




 日も沈み、結局今日もダンジョンを見つけることができなかった。


「う~ん…… やっぱり別の場所にあるのか??」


「…でも、痕跡は言われた場所に多い。」


 ダンジョンの近くはモンスターズナイトで大量のモンスターが出てくるのでひどく荒らされることになる。


「となると… 何かしらの条件があるのか……?」


「…条件?」


「ああ……」


 ダンジョンの中には例えば伸びた影の重なった部分が門となるように、特定の条件でのみ門が発生することをマルコは伝える。


「……あっ。」


「何か気づいたのか??」


「…日の出と日の入りだけ、海流がぶつかって渦が出来る。」


 コウが指差した先に、確かに海面に大渦が見えた。


 まさか…


 マルコは慌てて鷹の目の地図を確認する。

 するとそこにははっきりとダンジョンの門が記されていた。


「…一応見てくる。」


「待てっ!!」


 海へと入ろうとするコウをクウガが大声で止めた。


「どうしたんだ?」


「危険だ。…この魔力の高まり……間違いない。次の新月の夜、モンスターズナイトが発生する。」


 いつになく警戒した面持ちで、クウガがそう告げたのだった。

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[気になる点] 45話でもう一柱の聖獣がダンジョンにいる話をクウガとしてたはず
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