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ミャアが仲間になって数日、マルコたちは拠点にふさわしい場所を見つけるため、ローグの地の探索をしていた。
聖光木の枝の効果もあるがミャアのおかげで探索はかなり安全に進んでいる。
というもの、ミャアを戦闘に参加させているわけではないが、ミャアは探知系のスキルもあるのか、かなり早くモンスターの接近に気付いてくれる。おかげで余裕を持ってモンスターに対応できているというわけだ。
でまあ、探索の結果ローグの大まかな地理は掴めた。まず北側は森林で南側は平原になっている。周囲は北の森林のさらに先は山脈でアーニエルと行き来出来る峠が北東にあり、東から南にかけて海がある。西側は大河が流れており、その先が聖バルドル教国。非常に大雑把にいえばそんな感じだ。
「おっ、ここなんか良さそうだな。」
「おー… すごくおっきいです。」
目の前には聖光木の大木がある。
拠点を作る上でマルコたちが探したのはモンスターから身を守るための聖光木だった。
聖属性の魔力を持ちモンスターの被害に遭わない聖光木であるが、成長に聖属性の魔力も必要となるのが原因か、他の植物との生存争いには弱い。なのでなかなか良い聖光木を見つけるのに苦労した。
しかし苦労しただけあって立地がかなり良い。この聖光木が生えているのは南側の平原には珍しい小高い丘の上。おかげでこちらからは見晴らしがよく、周囲が見渡せる。
しかも丘を降りるために少し歩く必要はあるが、丘を下れば湧水が湧いておりそれが溜まって池もある。飲用にも農業用にも活用できるだろう。
「さて、それじゃあ拠点となる家を作ろうか。」
「はいっ、ミャアもがんばるです。」
ミャアはそで捲りをしてその小さな拳にぐっと力をいれて見せる。
「いや、ミャアは手伝わなくても大丈夫だよ。」
「えっ?」
「まあ、見てて。」
マルコは聖光木に近付くとその幹にそっと触れる。
「…いと心優しき緑の精よ。我に安住の居を与え給え。……ツリー・ハウス!」
マルコが呪文を唱えると元々大木であったが木はみるみる成長して、幹の直径は10mを優に越えるほどになった。
…予想はしていたが、想像以上に魔力を持ってかれたな。
成長に聖属性の魔力が必要となる聖光木に魔法を使ったため、通常の5倍以上の魔力を消費した。
「マルコ様っ!」
魔力切れで倒れそうになったところをミャアに支えられる。
「ありがとう、でも見てごらん?」
マルコは肩を貸してくれたミャアに聖光木を見るよう促す。
マルコの魔法で聖光木はただ大きくなっただけではない。扉があり窓があり、2階には編まれた枝ので出来たテラスまでもある。
「…うわぁ、すごいです…… ってそれよりマルコ様は大丈夫何ですか!?」
「ただの魔力切れだからね、少し休めば良くなるよ。」
「なら早く休みましょう!」
そんな焦るような事態でもないのだが、マルコはミャアに支えられて家へ中に入る。
家の中も木や枝で出来た綺麗な家具が一式、きちんと揃えられていた。
「うわぁ… っと、マルコ様こちらへ。」
一瞬、家の内装に目を輝かせたミャアであったが、すぐにマルコを編まれた枝で出来た柔らかな長椅子にマルコを寝かせる。
「ふふっ、喜んでくれて嬉しいよ。木属性の植物魔法は評価が低いから。」
一応、一般的な他の属性も一通り使えはするが… それでも本来の適正が木属性なマルコは魔法使いとしてはずっと下に見られていた。
「えっ!? こんなにすごい魔法なのに評価が低いんですか!!?」
「まあ、木属性は攻撃魔法が無いし、使い道の無い魔法ばかりとされているからね。」
「??」
使い道の無いというマルコの言葉にミャアは疑問を感じたようだ。
「例えば今使った樹木を家にするツリー・ハウスって呪文だと、普通の街中で使えば樹冠の枝葉や地中の根っこが横に拡がり過ぎて隣近所の迷惑になる。冒険のテント代わりに使うのは、パーティーの最大火力になる魔法使いにテント設営のためだけに魔力の温存をさせなくてはならない。というか建てた家を元に戻すのに伝説でしか聞いたことがない時間魔法が必要だからそもそも使えない。
だからこんな時くらいしか使い道が無いんだよ。」
「そう、なのですか…」
マルコの説明にミャアはしゅんとした声で答える。
まあ、ツリー・ハウスはいかにもで夢のある魔法だからな。
それが現実的な答えで使い道が無いと言われたら悲しい気分にもなるだろう。
「あっ、そういえばエルフの中には何十人もの魔法使いが集まってツリー・ハウスの魔法を使い、巨大な木の街を作っている種族もいたような…」
「本当ですか!?」
お伽噺のようなロマン溢れる話にミャアは目を輝かせ、尻尾をぴょんぴょんふる。
「確かウッドエルフって種族だったかな? 王都の塔より大きな木の街だったり、根っこや枝で全部の木が繋がった林の街を作っているって話だよ。」
「見てみたいです!!」
ミャアは興奮気味に耳をぴんと立て、目をきらきらに輝かせる。
「いつか行けると良いね。」
「はいっ!!」
マルコはそんなミャアの頭を優しく撫でるのだった。
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