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 …う~ん…… これはどうしたものか?


 マルコたちの家の前には蛇人族から大量の魚や貝が届けられていた。


「…お礼。」


 届けに来てくれたコウが相変わらずとらえどころのない口調で言う。


「ああ、ありがとう。」


「…やった。」


「とはいえこの量は… さすがに食べきれないからいくらか持って帰ってくれないか?」


「…そう。」


 気持ちしょぼーんとしたようなコウの声。


「それなら干物にしたらいいんじゃね?」


 コウについてきていたパイソンが言う。


「干物か…」


 良いアイデアだと思うが、この量は……


「…手伝う。」


「助かるよ。」


「はぁ、仕方ねぇな。姉さんが手伝うんなら俺も手伝うよ。」


 こうしてマルコたちは干物作りを始める。



 そんなわけで早速魚を捌いていく。


「あーこら、内臓を捨てるな!」


「ん?」


 別に卵が入っているわけでも肝が大きいわけでもないが…


「…ひょっとして食えるのか?」


「おう、超新鮮だかんな。」


 そういってパイソンは内臓を仕分けする。


「つっても浮き袋や胃だな。湯がいて味付けすれば良い箸休めになるぜ。」


「…独特の食感。」


 へぇ~、それは楽しみだ。


「それはそうとこっちはどうするんだ?」


 パイソンはそれ以外の内臓も別で分けていた。


「…畑にまく。」


 なるほど、肥料か。


 半水棲で魚食と共に生きてきた蛇人族とあって、魚を無駄なく使う文化が出来ているようだ。


「すぐ食べる分は軽く塩振って一夜干しにしちまおうぜ。」


「ん? そんなんで大丈夫か?」


 もっとがっつり数日塩に漬け込むくらいの事をしないといけないと思っていたが。


「ああ、あくまですぐ食べる分だけだ。こっちの方が塩辛くなくて旨いからな。」


「…身もふっくら。」


 なるほど、これも楽しみだ。


「…あの、」


 そんなことを話ながらやっていると、マルコの元に何人かのエルフたちがやってきた。


「ん? どうした? なにか困ったことでもあったのか?」


「い、いえ、そんなその… マルコ様にはこんな状況の中、大変良くしていただいております。」


 代表している女性のエルフはそう言うが歯切れが悪い。


「ただ、その… 私たち、国へ…故郷へ帰りたいのです。」


 聞けば彼女らはバルドルとの前線近くの村に住んでいたらしい。

 そこをバルドルの略奪部隊に襲われ、奴隷とされたんだとか。


「…そっか、あんたらにはまだ帰る場所があるんだな。」


「…ごめんなさい……」


 話を聞き、パイソンはポツリとこぼす。

 エルフたちの国はまだバルドルと戦争を続けているし、故郷も略奪にあっただけなら荒らされはしたが家族や友人たちが彼女らの帰りを待っているのだろう。

 村ごと略奪され、破壊され尽くした獣人族とは違うのだ。


「っ… なんて顔してんだよ。あんたらには帰る場所も待ってる人たちもいるんだろ?」


 パイソンは努めて明るくそう言う。


「…すまない、……君たちを故郷へは… 帰せない。」


 そんな空気を壊すように、マルコはそう言うしかない。


「っ!?」


「…そう、ですか…… そう、ですよね、…無理を言ってごめんなさい。」


 はじめからわかっていたかのような、諦めた声でエルフの彼女は答えた。


「なんでだよっ!!」


 パイソンが声を荒らげ、叫ぶ。


「帰らせてやればいいじゃないかっ! なんでそんなひどいこと言うんだよっ!!」


「…パイくん。」


「人手かっ? 街を造らせるために人手が必要だからか?? なら俺がその分働いてやるよっ!それで良いだろっ!!!」


 そう言う問題ではない。


「あんたは違うと思ってたのに… 結局あんたもバルドルの連中と同じ人間種なんだなっ!!!」


「パイくんっ!!!」


 パンッと乾いた音が響く。コウがパイソンの頬を叩いたのだ。


「…はなし、聞こ?」


「…姉さん……」


 ピリつく空気の中、マルコは口を開く。


「故郷へ帰らせてやれないのは、俺にはそのための力も立場もないからだ。」


「…何の話だよ。」


「…バルドルからすれば、皆は脱走奴隷、犯罪者という扱いだ。」


「…なんだよそれ……」


 パイソンは納得のいかない声をこぼす。


「納得いかないよな。でも、法的に見れば奴らはその言い分を通すことが出来る。だから故郷へ帰らせることは国際問題。バルドルからギルスール王国への宣戦布告の口実にすらなり得る。」


「なんでそうなるんだよっ!」


「それだけの問題だからだ。」


 奴らの都合の良いように切り取れば、逮捕していたテロ集団をその本拠地に送り返す、テロ支援国家ということになる。


「国同士の戦争になる。ただの地方領主に過ぎない俺にはその権限はない。

 それに権限があったとしても、エルフの国までは他国をいくつも通らないといけない。当然、彼らは巻き込まれる事を嫌うだろうし、それでも通行許可を得るだけの力が俺にはない。

 出来ることはバルドルからなにか言われても知らぬ存ぜぬを貫き通して守り抜くことだけなんだ。」


「…なんだよそれ……」


 パイソンはポツリとこぼす。

 マルコが意地悪で言っているわけではないと伝わったが、その内容は理解出来ていないようだ。


 どうしても教育を受けていない者は長期的な視点や俯瞰的に物事の全体を見る能力に乏しい。

 別にこれはパイソンが獣人族だからというわけではない。リオやタイガは獣人族だが族長の子供として基礎的な教育を受けていたせいか、この説明でも理解できただろう。

 逆に人間種の中にも、その日の稼ぎをすべて酒場で使いきり不安定な生活を送る日雇い労働者だっている。


「…わけわかんねぇよ……」


「すまない。」


 マルコはそう、答えるしかないのだった。

ブクマ、いいね、ありがとうございます


別にパイソンはヘイト役のつもりはないです。ヘイトコントロールが難しいんじゃ…

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