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そういえば『ほのぼの』タグはつけていますが『シリアス』タグはつけていません。

つけた方がいいですかね??

 …ふぅ


 ベンジャミンが戻ったあと、話し合いの続きを行い、机の上の書類の山は無事なくなった。


 予定外のこともあったが、思ったより早く終わったな。


 コタロとアナが優秀だったおかげた。2人は草案と言ったが内容はほぼ完璧にまとまっており、マルコはいくつか質問をするだけでゴーサインが出せるものだった。


 夕飯まではまだ少し時間がある。ゴロゴロするのもいいが、天気もいい。


「そうだ、ミャア。少しお散歩にでもいかないか?」


「はいっ。」


 マルコはミャアを連れて、少し村を回ることにした。




「本当にすごい桁の額の話ばかりでミャア、少しくらくらしちゃいました。」


「ふふ、そうだね。」


 いきなり現れたベンジャミンの意味不明な請求書、天文学的数字にも見える都市計画の概算、そしてその初期費用となる九尾商会からの融資。

 ベンジャミンの請求書を除き、まっとうなものではある。ただダンジョンという希少な素材の産出地を2つも有し、さらにその素材を国中へ輸出出来る港も造るローグの街は間違いなくギルスール王国でも有数の大都市となる。

 そんな大都市を一から作る今回の計画は並みの貴族ではまずお目にかからない桁の額の話になっていた。


「これからどんな街になっていくのでしょうか?」


「楽しみだね。」


「おっきなお店もできますか?」


「うん。大きな店もきれいな道もこれから造っていくよ。」


「うわぁ…」


 周囲を見回せば今はまだ、テントやあばら家しかない。

 しかしこれが立派な大都市に変貌する計画だ。


「ケーキ屋さんはできますか?」


「できるだろうね。」


「お菓子屋さんは?お洋服屋さんは?」


「きっとできるよ。」


「ううぅ… ミャアお買い物するの初めてです!楽しみです!!」


「ふふ、そうだね。」


 いつかここが大きな街になった時も、こうして手を繋いで散歩をしつつその時は買い物もしたいものだ。


 しかし問題がないわけではない。九尾商会の融資の返済は海中ダンジョン攻略を当てにしている。

 一応、今ある森のダンジョンからの資源だけでも返済可能な額ではあるが、海中ダンジョンが攻略できなかったとなると計画に大幅な遅れと変更が必要になる。


 頑張らないとな。


 マルコは海の方を見つめた。


 …ん?


 蛇人族だろうか、何人もの人がバシャバシャと海で楽しそうに遊んでいるのが見えた。


 ゆっくり休んでもらいたいんだけどな、


 そう思ったマルコだったがすぐに思い直す。

 泳ぐのにものすごく体力を使うのはマルコが人間種であるからだ。半水棲の蛇人族には案外あれくらい散歩と同じかもしれない。


「おーい、そろそろ夕方だぞー!」


 とはいえ、釣り大会でかなりの野良モンスターを間引いたが暗くなると危険だ。

 マルコは彼らに声をかけた。


「す、すみません…」


 マルコに気づいた彼らは急いで海から上がるとそういって頭を下げた。


 勝手なことをして怒られると思っているのか?


「いや、別に怒ってはいないが… すぐ近くに海中ダンジョンがあって野良モンスターもいるからな。」


「…はい。」


 バルドルの連中からひどい目にあわされていたせいだろうか。怒ってはいないと伝えたが彼らはひどく緊張しているように見えた。


「…うーん…… やっぱり蛇人族は水に入れないのは不都合か?」


 失礼かもしれないがマルコは率直に訪ねる。こういった問題は端が想像だけでなんとかしようとするには無理がある。


「えっ!? いえ、その… はい。やはりずっと陸地で生活しているとどうしてもあちこちこりますし身体の調子が…」


「なるほど…」


 ゆっくり休んでもらうつもりがかなり窮屈を強いていたようだ。


「わかった。明日からクウガに海辺の見張りを頼むようにするよ。正直に話してくれてありがとう。」


「っ!? い、いえ、こんなことで聖獣様のお手を煩わすわけには…」


「ゆっくり休むように言ったのはこっち。だから俺には皆がゆっくり過ごせるようにする責務がある。」


「は、はぁ…しかし……」


 領主の責務と言っても彼らにはピンと来ないのだろう。


「うーん、なら海で過ごすついでに魚とか貝とか取ってくれないか? きっとクウガは大喜びするよ。」


「えっと…そんなことでよければ……」


 どうして優しくしてくれるのか、彼らは納得のいかない様子だ。


 …うーん…… どう説得したものか……


「ねぇねぇマルコしゃま、あしたもパパとうみであそんでいーの??」


 …ん?


 彼らの子供だろうか? さっきまでは後ろに隠れて気づかなかった小さな子がマルコの服の裾を引いてそう聞いてきた。


「こ、こらっ!」「す、すみませんっ小さな子なんです、許してください!!」


 慌てる両親をよそにマルコはしゃがんで子供に目線を合わせる。


「そうだぞー。皆にも教えてあげな。」


「うわーい、ありがとーマルコしゃま。」


 嬉しそうに子供はぴょんぴょんと跳ねまわった。


「す、すみません…」


「いえ、お気になさらず。」


 そういってマルコは彼らが帰るのを見送る。


 「パパ、おんぶー。」「仕方ないなぁ。」何気なくも微笑ましい家族の会話。

 危険をおかして奴隷港を襲撃し、手に入れたものだ。


「ああ、そうだ。ミャアはなにか欲しいものはある?」


 思えば監視塔の連中をやり過ごす際、ミャアの機転がなければ切り伏せるしかなかった。

 そうなれば人質となっていた子供たちの心や身体に怪我をおわせていたかもしれない。

 今、子供たちが屈託のない笑顔をうかべられるのはミャアのおかげだ。


 そういった褒美のつもりでマルコは声をかけた。


「欲しいもの、ですか?」


 少し、思案したミャア。しかし楽しげな笑い声に引かれ、幸せそうに家路を行く家族にその視線は吸われた。


「あの、ものじゃないんですけど……」


「ん?」


「…ミャアも、ミャアもおんぶ! ……おんぶ、して欲しい、です……」


 申し訳なさそうな、それでいて勇気を振り絞ったかのようなミャアの声。


 …ああ、そうか……


「はい。」


 マルコはミャアに背を向けしゃがむ。


 ゆっくり首にミャアの腕が回され、背中にその小さな身体の重さがかかった。


「…よっと。」


 マルコはミャアをおんぶして立ち上がる。

 水平線にかかる夕陽がすぅっと明るく輝いたような気がした。


「…うわぁ……」


 それはミャアもだったのだろう。小さく感嘆の声をこぼす。


 そのまま、マルコたちもゆっくりと家路を歩く。


「…あのさ。」


 緊張しているのか、口数少ないミャアにマルコが先に口を開いた。


「おんぶくらい、言ってくれたらいつでもするよ? …その……家族なんだし……」


「っ!? …はい………」


 マルコは、今ミャアがどんな表情をしているのか知ることはできない。

 ただ、しがみつくその腕が、背中にかかるその重さが、きゅっとそっと、強く重くなるのを感じたのだった。

ブクマ、評価、いいね、ありがとうございます

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