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 無事ローグの地へと戻ってきたマルコたち。

 とりあえず元奴隷の皆には1週間ほどゆっくり休んで体力を回復してもらい、その後リハビリがてらの軽い作業から働いてもらうつもりだ。


「ほい。都市計画の草案やで。」


 デンっ


「ローグの地での商売に協力的な商人、職人のリストです。」


 デデンっ


「諸々必要になる経費の概算やな。」


 デデデンっ


「九尾商会より融資のお誘いが届いております。」


 デデデデンっ


 あっという間にマルコの前の机に書類が積み上がった。戻ったばかりだがマルコには休んでいる暇はない。


 早速アナが置いた都市計画の草案から取りかかる。

 まず今マルコたちが生活している小高い丘周辺を都市の中心として1つ。それとは別に漁村と農村を作り、その3つを発展にあわせて拡大していき、最終的に合体させて1つの都市にするものだった。


「うーん…なんかこれ、ものすごく面倒じゃないか?」


 確かに仕事場が近い方が便利なのはわかるが、別にここから通えない距離でもない。


「それについては私から……」


 マルコの質問にコタロが答える。

 コタロがいうには獣人族は種族によって生活環境の好みがかなり異なるらしい。

 例えば今回仲間になってくれた蛇人族は半水棲の生態から水辺の環境を好み、牛人族は平原を好んでごみごみとした都市部はかなりのストレスとなる。

 好みとはいうが実際は生態レベルの話なのでこれがバカにならないんだとか。


「なるほど、とは言えかなり大変だな。」


「うん。せやから早いとここっちの人手も増やして欲しいねん。」


 たのんまぁとアナは両手をあわせて拝んできた。


「とは言っても准爵を授けられる人数にも制約があるし、そもそも文官ができる人材もいない。求人を出すにしても領主として正式に認められていない立場だとなぁ…」


 コタロのように九尾商会から引っこ抜くのはその関係性を壊すことになるし、アナのようなマルコの学友は皆真面目だったので今は名家に仕えている。


「とりあえず領主就任で王都に行った時に学園へ行くよ。」


「ほんま頼むで?」


 貴族が求人を求める際、学園に求人を出すのが一般的だ。そのため卒業しても就職の決まっていない者たちはとにかく歩いて各地を巡り自分を売り込むか、卒業後も学園の図書館で勉強を重ねて求人を待つかのことが多い。


「そういうわけで文官の補充は先になりそうだが、2人は大丈夫か?」


「領主就任までは人口の増加も緩やかでしょうし、大丈夫ですよ。」


 コタロが答え、アナも頷く。


「ならこの計画で進めよう。次だが……」

「マルコ様。お客様です。」


 話し合うマルコの元へミャアがやって来た。


 …客?


 いったい誰だろう?


「おっほんっ!!」


 大きな咳払い。

 まだ招いてもいないというのに客は部屋に入り、のしのしとやってくる。


 …ベンジャミンじゃないか。いったい何のようだ?


 予想だにしない人物の登場にマルコは思わず身構える。そんなマルコにベンジャミンは1枚の紙を得意気に突きつけた。


 請求書と題されたその紙には驚くほどの桁の額が記されていた。


「…これはいったい?」


「決まっている。徴税だっ!!」


 …はい??


 ベンジャミンは勝ち誇った顔をしているが、マルコはその想像の斜め下を行く言葉に拍子抜けするしかない。


 確かにベンジャミンが見た、マルコが勘当されて追放されるあの現場、伯爵は「ローグの地をくれてやる」と言ったがそんなものは口約束でしかない。ローグが王家から正式に領として認められていなければ、代官として派遣しただけとごねることができる。

 そしてマルコが領主ではなく代官であるならば、アーニエルはローグから徴税出来るし、ローグはアーニエルへの納税の義務がある。


 マルコはその事を予想出来たし、だからこそ対策もしておいた。


 …まさかベンジャミンほどの重臣にも伝えていないとは……


 一瞬浮かんだ、案外もう忘れているのでは…という考えをマルコは頭の片隅に追いやる。そこまで自分の父親がバカだと思いたくない。


「…少々お待ちを……」


「…なっ!?この額が用意できるだと!?? …もっとつり上げてよかったのか……」


 ぶつぶつ言ってるけど…違うよ?


「こちらを。」


 アーニエル出発時に父にサインさせたローグの地分譲の書類をベンジャミンに見せた。


「…へっ?? なっ…いや、これは……??」


 本当に知らなかったのだろう。ベンジャミンは狼狽えた声を上げる。


「ご覧の通り俺はアーニエル伯爵から代官として派遣されたのではなく、正式にこの地を分譲されてます。

 あと、ここの条項で王家から領として認められるまでの間のローグの地でのアーニエルの徴税権は俺が持つことになっています。」


「あっ、がっ…ぐわっ……」


 ちなみにそれならローグの地の開拓費用としてアーニエルは金を出すことを条項に加えておけばよかったのでは? と思うかも知れないがそんなことはしていない。

 むしろ逆にローグの地の開拓にアーニエルは一切拠出しない。すべてマルコが賄うことと条項に加えておいた。

 金を出す条項を加えたところで出すとは思えないし、アーニエルが破産した後で「ローグの地の開拓に金を使ったからなんです。ローグにも責任があります。」と巻き込まれないようにするためだ。


「と、いうわけですのでお引き取りください。」


「…えっ!? いや、……そうだ。これはローグの地から流れてきた野良モンスターの損害賠償だ!!」


 帰らせようとするマルコにベンジャミンは思い付いたように叫んだ。


「なるほど?」


「そう、これは賠償請求だ。ローグの地は野良モンスターの管理を怠った責任を取る必要がある。」


 無茶苦茶だなおい。


「…はぁ。であるなら、一度王家を交えて話し合いをする必要がありますね。」


「…へっ?何で王家??」


「だってそうでしょう? アーニエルはローグの地の野良モンスター対策として優遇処置を受けております。その賠償をローグが行うのであれば王家も交えて話し合いをしなければなりません。」


「それは困るっ!!!」


 だろうね。


 そんなことになれば優遇処置は当然なくなる。さらに領土も減り資金難に陥っている現状、アーニエルの伯爵から子爵への降格の話が出てもおかしくない。


「こ、この件は私の一存では…」


「おや、そういうつもりでやってこられたと思っていたのですが… それにしても野良モンスター相手にこんなにも被害を出すとは…アラン殿も案外大したことないと噂になってしまいそうですね。」


「っ!!!」


 当然マルコはアーニエルの状況をコタロから聞いている。なのでおそらくベンジャミンがロレンソを見限ったこともマルコは知っていた。

 要するに野良モンスターの賠償で大金を請求したらアランが無能だと喧伝することになるぞ、と脅してやったのだ。


「あ、ああ…うゎぁ……」


 もちろんベンジャミンにとってそれはよくない。そんなことすれば万が一アーニエルが経済危機から脱しても自分の居場所がなくなってしまう。


「あ、あ…ああたいへんだ、ものすごいけいさんみすがあったぞ。」


 驚くほど棒読みで喋り、ベンジャミンは請求書をぐしゃぐしゃに握りつぶす。


「…時にマルコ様? ずいぶんと人手不足のご様子ですが…」


 コロリと態度を変えてベンジャミンは手揉みした。


「はい、そうですね…「ではっ!」」


「ですが、あなたは要りません。」



 ベンジャミンが戻ったあと、アーニエルでは臨時の徴税が行われたのだった。




ブクマ、いいね、ありがとうございます。


ようやく2話の回収です

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