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50話にて鍵にしていた奴隷小屋を閂にしました。

 カタ……


 夜もふけた頃だというのに、扉の外で閂の外される音がした。


 …なんだ?


 その夜は入り口近くで寝ていたため、音に気付いたパイソンは不審げに扉を見る。


 一応、夜でも警邏のため巡回する看守はいる。しかし脱走などできないと考えているのか、それどころか夜な夜な響くすすり泣きの合唱を不気味がり、彼らはあまり奴隷小屋へ近付くことはしようとしない。


 きぃ……


 建て付けの悪い扉が鳴かないよう最大限注意してか、ゆっくりと開けられる。


「しぃ~……」


 侵入者は人差し指を唇の前に当てるとそう声を制した。


 月明かりに切り取られたシルエットは侵入者の頭部に2つの大きなケモ耳を映していた。


 …猫人、族……?


 そういえば少し前に、猫人族の隠れ里を襲撃するも逃げられたという話を看守たちがしていたことを思い出す。


 だとしても…どうしてこんなところに……?


「助けに来たわ。」


 助、け……?


 一瞬、その言葉の意味が理解できなかった。


「ちょっと待って、すぐに枷を外すから。」


「まっ、待ってくれ!俺たちには人質が、子供たちが人質になっているんだ!」


「しー… 大丈夫。子供たちなら私たちのリーダーがもう助けたわ。」


「…えっ……??」


 その言葉に呆然とするパイソンたちを横に猫人族の女性は工具を手にカチャカチャとパイソンの足枷を外す。


「っ……!!」


 何年ぶりだろうか。足枷が外され、パイソンの足首があらわになる。

 硬い鉄製の足枷はいつも肌と擦れて皮を剥き、傷口を洗い流すことすらできていなかった。

 露出された足首はひどく化膿して悪臭を放ち、紫に変色していた。


「大丈夫。こんな怪我、きっとリーダーが何とかしてくれるわ。」


 枷を外してもなお残る、汚く醜い奴隷の証。

 しかし目の前の彼女は嫌な顔一つせず、むしろ優しく励ますようにそう言うと、仲間の足枷を次々と外していく。


「みんなこんな生活で身体がカチコチでしょ? 少し走ることになるから準備運動をして待っていて。…私は隙を作るために外で騒ぎを起こして来るわ。」


「あ、ああ……」


 彼女はそう言って夜闇の中へ消えていく。


 …逃げ出せる……助かる……本当に……??


 たった今起こっていることが本当に現実なのか信じられない。

 パイソンたちは夢現の働かない頭で言われた通り、準備運動をする。


 それは明らかに隙だらけだった。


 ダッと、突然1人の男が走り出す。

 パイソンは慌ててしがみつくように男を止めた。


「バッ!なにやってんだ!待ってろって言われただろ!!」


「パイくん声大きい。」


「ごめっ…だからパイくんはやめろって…」


 なんだなんだと皆集まってくる。

 男は諦めたように力が抜けた。


 しかし次の瞬間。


「脱走だーーっ!! 奴隷たちが逃げるぞーーーっ!!!」


 男は大声で叫んだ。


 なっ!?


「こいつ密告者だっ!」

「口を塞げっ!!」


 パイソンたちは慌てて密告者の口に寝藁を積める。


 奴隷の反乱や脱走を防ぐために看守たちは奴隷の中に密告者を作っていた。

 密告者は別作業と称してたまに休暇が与えられ、治療が受けられたり、酒などの娯楽が与えられたり、何より反乱や脱走を防げば奴隷から解放されると約束されていた。


「なんの騒ぎ?」


 戻ってきた猫人族の女性が聞いてきた。


「す、すまねぇ、こいつ密告者だ。」


 狼狽えるパイソンたちから差し出された密告者は、自分は奴隷から解放される余裕だろうか、取り押さえられているというのにニヤニヤと下卑た笑いを浮かべていた。


「…そう……」


 シャンと彼女は剣を抜く。


「っ!? ウーウー……」


「こいつっ!」


 密告者は裏切り者の末路をようやく悟ったのか、その顔は見る見る青ざめじたばたともがく。


 ザシュ


 彼女の剣が密告者の心臓を貫いた。


「…船を火をつけてきたわ、今なら脱走に構っている余裕はないはずよ。今のうちに逃げましょう。」


 確かに小屋の外では看守たちの叫び声が聞こえ、港や倉庫のある方が明るく煙を上げていた。


「待ってくれ、逃げるったっていったいどこへ?」


「…ごめんなさい、今は言えないわ。」


 そう言って彼女は死体をチラリと見る。

 まだいるかもしれない密告者を警戒してだろう。そういえば彼女はいまだに名乗っていなかった。


「…どこへかは言えないけど…安心して。私たちのリーダーはちゃんとあなたたちの居場所を用意してくれるから。」


 彼女の言葉からどこかそのリーダーへの信頼のようなものが感じられた。


「あんたらのリーダーっていったい……?」


「ごめんなさい、それも言えないわ。…あなたたちはきっとリーダーを見れば驚くし信じられないと思う。……でも、お願い。彼を信じてあげて。」


「……?」


 驚くし信じられない? リーダーは蛙人族だろうか? 確かに蛙人族と蛇人族は生活圏が被っていたこともあり、過去に何度も衝突し犬猿の仲だ。

 それに猫人族が蛙人族に従っているなんて聞いたこともない。


「それより…少しゆっくりしすぎたわね。急ぎましょう。」


 彼女の言葉に外を見れば、他の奴隷小屋からも皆続々と脱走し、最後に残っているのは自分たちのようだ。


「さあ、早く。」


 パイソンたちは連れて走り出す。


「はあはあ…」


 ずっと足枷をはめられていたし、走るのなんていつぶりだろう?

 パイソンはもつれる足を必死に動かす。


 途中看守の兵士たちも幾人か見たが、全奴隷の脱走という人数差、倉庫や船の火災という別の問題に自分たちを捕まえる余裕はないようだった。


 とはいえそれは、多くの兵士や指揮官が就寝中ということもあるだろう。彼らが起き出し、混乱も解け、人数が揃えばどうなるかわからない。

 パイソンたちは必死に走る。


 やがて奴隷として連れられて来たとき通った大きな門が見えた。

 パイソンたちが逃げ出すことを不可能にし、一生通り抜けることは出来ないと思っていた門だ。


 今までは大きく硬く見えていた。だが今は不思議と小さく遠くに見える。

 しかしそれは、一歩、また一歩と着実に近くなっていく。

 走り、息が切れたせいじゃない。心臓の鼓動がやたらと早くに感じられた。


 門をくぐる。

 すでに門番が無力化されていたおかげだろう。ずっとパイソンたちの心にラスボスのようにそびえ立っていたその門は、拍子抜けするほどあっさり通り抜けることが出来た。


 門の外、少し離れた場所では先に脱走した者たちが子供たちとの再会を喜び、生きて出れた喜びを分かち合っていた。


 その横で、あれが助けてくれた女性が言っていたリーダーだろうか? ケモ耳の男性が猫人族たちから報告を受けているのが見える。


 いや、そんなことより…


 自分も早く、みんなと生きて出れた喜びを、再会出来た喜びを分かち合いたい。


 自然と心が身体が軽くなり、走る足に力が生まれた。


 若さもあったのだろう。パイソンは同じ小屋の者たちを追い抜き、先に脱出していた者たちに追い付き、抱き合って涙を流す。


 そうだ、姉さんっ!


 この喜びを分かち合いたい。


 辺りを見回せど姉のコウはいない。

 慌てて後ろを振り替えれば、コウは爺の手を引き、集団から遅れて離れていた。そしてそんな集団から離れた者たちに兵士の手が迫っている。


 っ!!!


 慌てて引き換えそうとするももつれる足はなかなか言うことを聞かない。

 そんなパイソンをリーダーらしき男があっさり抜き…


「エアロ・ブラスト!!」


 男の放つ風魔法がコウたちに迫っていた兵士たちを門の内へと押し戻す。

 そして男は門に瓶を投げつける。瓶が割れて生まれた炎の壁が自分たちとバルドルの兵士とを分断した。


 男は爺を背負い、コウの手を引き戻ってきた。


「ありが……っ!!!!?」


 パイソンは男に近づきお礼を言おうとしたが… 気づいてしまった。


「しー… とりあえず連中の目がある。ここから離れよう。」


「あ、ああ……」


 信じられない。

 遠くで見えたケモ耳は近づけばフードであるとわかる。



 自分たちを、姉を助けてくれたのは…人間種だった。

ブクマ、いいね、ありがとうございます


一応、パイソン目線ですし、密告者を警戒して名乗って無いですが猫人族の女性、彼女はリオです。わかりづらかったらごめんなさい。

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