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なんとかエタらずここまできました。

ありがとうございます。


…構想だと蛇人族解放、20話くらいかなとか考えてました。アレレェ オカシイナ

「エサの時間だ!起きろ!!」


 看守の怒鳴り声で1日が始まる。


 …また、朝が来てしまった……


 蛇人族の青年パイソンは固く冷たい床から起き上がる。

 重い足枷がジャラリと鎖の音を立てた。


 …いかないと……


 しかしダルさを覚える身体は鉛のように重く、脚はまるで根を張っているかのように一歩一歩を拒否してつらい。


 だがそれはパイソンだけの話ではない。皆一様に足取りが重い。


「なにをのんびりしているんだ!!」


 バシッ


 たまたま入り口近くにいた奴隷が看守に木の棒で殴られた。


 っ!!


「やめろっ!!」


 パイソンは思わず間に身体を滑り込ませて盾になる。

 まだ奴隷になる前、村で幸せに暮らしていた頃優しく時に厳しくしてくれた蛇人族の老人が殴られていたのだ。


「なんだその目は!貴様ら悪魔の手先を浄化してやっているんだぞっ!!」


 バシッバシッバシイッ


 看守がパイソンに何度も木の棒を振るう。


 バシッバシッ


 何度も何度も。


「やめて…」


 パイソンをかばうようにさらに蛇人族の女性が割り込んできた。


「ねえさ…」

「貴様もかっ!!」


 バキィッ


 それは姉のコウだった。

 コウは一際強く看守に殴られ、血を流して倒れた。


「姉さんっ!!」


 パイソンは倒れたコウに覆い被さる。


「ええい、浄化っ!浄化っ!浄化っっ!!!」


 バシッバキッバキィッ


「がはぁっ…」


「パイくん…」


 パイくんはやめろって…


 パイソンはコウを安心させようと苦痛に歪めながら笑顔を作る。


 バシッバシッ


「はあはあ… ふんっとにかくエサの時間だ。さっさと来いっ!」


 しばらくすると殴り疲れた看守はそういって出ていくのだった。



「いてててて……」


「パイくん大丈夫?」


「だからパイくんはやめろって。」


 2人して食事を取る。

 食事は雑穀に雑草紛いのクズ野菜、臭い内臓や噛みきれないスジ肉を混ぜて煮た、文字通りエサのようなものだ。


「すまないねぇ。パイくん、コウちゃん。」


 先程パイソンが庇った老人がやって来た。


「ほら、お肉があったよ。若いんだからたくさん食べな。」


 そういってただでさえ少ない自身の器からさらにパイソンたちに分け与えようとする。


「いらねぇって。爺さんも不味いからって押し付けようとするなよ。」

「だめだよパイくん。」


 ぶっきらぼうな言いぐさにコウは非難の声をあげた。


「そう…そうだね、すまないねぇパイくん。」


 …たくっ


「爺さんなんだからちゃんと食わないと死んじまうだろ。好き嫌いせずちゃんと食え!」


 老人の優しさだってことくらいパイソンもわかっている。だが素直になれないパイソンはそういった。


「パイくんは優しいねぇ。でもいいんだよ、お爺はもう十分生きたからねぇ。」


 希望の見えない2人は、そういって自身の器からよそう老人を止めることができなかった。



「船が来たぞーっ!!」


 港に船が着岸する。

 バルドルの兵たちに続いて痩せ細った漕ぎ手の奴隷たちが幽鬼のようにおりてくる。


「なにをやっているんだっ!さっさと運べっ!!」


 看守が怒鳴る。

 各奴隷施設から集まった資材を前線へと運ぶ船だ。


 パイソンたちは重い荷物を船へと運び込む。


 いてててて…


 ちきしょう、思い切りぶん殴りやがって…


 ただでさえ飢餓+オーバーワークな身体は限界だ。


「つらいか? だがそれは貴様らの罪だ。奉仕こそが貴様らが人間種へと生まれ変わる唯一の救いだ。わかったらきびきび働けっ!!」


 意味わかんねぇよ…


 それでもパイソンたち奴隷は荷物を運ぶ。

 バルドルの連中は奴隷のために照明を使ったりはしない。なので積み込みが間に合わないと夕飯の時間を削られるからだ。


 ここには蛇人族の他に本来なら筋骨粒々で荷運びくらい余裕な牛人族や、主に修繕のための船大工としてドワーフやエルフなどが奴隷として数百人も働かされている。

 しかし皆、痩せこけた身体は骨と皮ばかり、心は荒み目に光はない。


 もちろん仕事をサボればどうなるかくらいわかっている。食事を抜かれ、棒で打たれ… 殺される。

 それでも、痩せた身体に力は入らず、折れた心は力を生まない。ただ漫然と、ノロノロとしか動くことができない。


 結局この日も、夕飯を食べることはできなかった。



 日が沈むとまた小屋へと戻され、外から閂がかけられる。

 小屋のなかは寝藁が敷かれまるで家畜小屋だ。いや、家畜小屋ならもう少し頻繁に手入れされるだろう。腐った寝藁がそのままで新しい寝藁すら入れられないここは、家畜小屋以下だろう。


 空腹と寒さで眠れない。

 小屋のなかではすすり泣く声が合唱のように響いていた。


「起きてる?姉さん。」


「ん。」


 パイソンがコウに話しかけると小さく返事が返ってくる。


「俺さ、いつかここを出たら大金持ちになるんだ。

 それで大きな家に住んで、綺麗な服を着て、酒も飯も腹一杯楽しむんだ。」


「…そう。」


 現実から目を背けるために、あり得ない未来の話をする。


「姉さんは?」


 パイソンは訪ねる。

 いや、訪ねずとも答えはわかる。折れた心を繋ぐために何度も繰り返した会話だ。

 何度も何度も…何十回も…何百回も……

 すでにコウが何と答えるかくらい、諳じれるレベルだ。


「…お嫁さん。」


 いつものように、少し恥ずかしげにコウは答えた。


「ははっ、姉さん顔だけは良いからな。余裕だよ。」


「…そんなこと無い。…痩せっぽっちだし、誰も目にくれない。」


「気にすんなよそんなこと。俺がたっぷり食わせてやるから。」


「…太っちゃう。」


「はははっ、そうだな。」


 はははっ……


 笑えねぇよ、無理だよ……


 必死に、必死に幻想見て心を繋げようとしても…もう、無理だよ……


「…パイくん?」


 顔を背けたパイソンにコウが声をかけた。

 パイソンはそのまま寝た振りをする。


「…寝ちゃった。」


 コウはそう言うが、眠れるわけがない。


 身体には疲労が泥のように溜まっているが、寝たら、眠ったら…また、朝が来てしまう……


「…すん……」


 すすり泣きの合唱に、2人の声も混ざるのだった。






「皆、最終確認だ。」


 奴隷港近くに身を潜ませているマルコは鷹の目の地図を猫人族の戦士たちに見せる。



 悪夢が終わり、もうすぐ本当の朝が来る。

ブクマ、評価、いいね、ありがとうございます

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