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あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いいたします

「……発表は以上です。ご清聴ありがとうございました。」


 ロレンソが論文の発表を終えると会場からは万雷の拍手が贈られる。

 無事研究をまとめあげたロレンソが王都にある魔法協会本部で論文の発表を行ったのだ。


「さて、議論の熱も冷めやらないことでしょうが夕食会の用意がございます。皆様移動の方、よろしくお願いいたします。」


 司会の言葉に一同移動を始めた。


「ロレンソ君、なかなか楽しい発表であったぞ。」


 移動をするロレンソに2人の老人が話しかけてきた。

 協会の魔法部門の長を勤めるエルフのアルトと魔導具部門の長であるドワーフのドゥームだ。


「お二方も聞きに来てくださったのですね。ありがとうございます。」


 ロレンソは深々と頭を下げる。

 この国で三番目に天才であると自負するロレンソにとって、2人は自分より賢いと認めて尊敬する稀有な人物だ。


「はっはっはっ、頭をあげよ。…それよりどうした?最近あまり良い噂を聞かないぞ?」


 身内の散財についてだろうか?


 尊敬する相手に恥部を身内の知られ、ロレンソは恥ずかしい気分になった。


「お二方の耳にも入っておりましたか… いえ、お気になさらないで下さい。もう何も問題ありません。」


 ロレンソは自信に満ちた声で答える。

 ヘロンというスポンサーが見つかったからではない。寧ろヘロンは最初にお金を渡したきり、追加の研究をなかなか寄越さない。それどころか最近では連絡もつかない有り様だ。


 これで父も、私こそが後継者に相応しいことを認めるでしょう。


 論文の発表をして世界に認められた。そんな自尊心がロレンソには満ちていた。


 あとはアランの騎士団を解体して、父には静かに余生を過ごしていただく。そうすれば予算の問題は解決だ。


「いたぞ!ロレンソ様だっ!!」


 そんなことを考えていたロレンソに、商人たちが群がってきた。


 ヘロンのようにスポンサーになりたいのでしょうか? やれやれ、俗物の相手は疲れますね。


 とはいえ、そのヘロンとは連絡もつかないし、研究資金はいくらあっても足りないものだ。


「はい、私がロレンソですが…なんのご用でしょうか?」


「「金返せ!!!」」


 しかし営業スマイルを浮かべたロレンソに投げつけられたのは、そんな言葉だった。





 その後、商人たちに囲まれたロレンソは収拾がつかなくなり、夕食会も参加出来ず逃げるようにアーニエル領に帰る羽目になった。


 ぐぬぬぬぬっ…ヘロンめ……


 元凶はヘロンだ。ヘロンはロレンソに声をかけるずっと前から魔導具事業に参入しようとしていた。

 だが自身で用意した技術力ではまともな魔導具は作れず大量の不良在庫を抱えることになった。

 そこでロレンソに声をかけ、共同開発したと銘打って不良在庫を高値で売り捌いた。

 そして当のヘロンは事業を畳んでとんずら。ゴミを買わされた商人たちが怒って共同開発のロレンソに押し掛けているという状況だ。


 くそっ!はめられた!!


 結局ロレンソはいいように利用されたというわけだ。


「くっ! …ベンジャミン!!ベンジャミンはどこですか!!」


 憤りを隠せないロレンソは怒鳴るようにベンジャミンを呼ぶ。


「…はぁ。ロレンソ様、いったいなんのようですか?」


「なんのよう!? なんのようですと!! 決まっているでしょう!ヘロンを訴えます!!すぐに準備しなさい!!」


 ため息を隠そうともしないベンジャミンに、ロレンソの怒りはさらに増す。


「裁判ですか? そんな費用、今のうちにはありませんよ。」


「なにを言っているのですか!たかが男爵にアーニエル伯爵家が馬鹿にされたのですよ!すぐに用意しなさい!!」


 ロレンソは怒鳴るが、王家への献上品の捻出にすら苦慮しているのが現状だ。出せないものは出せない。


「いえ、馬鹿にされたのはロレンソとその研究所であってアーニエルは関係ありません。」


「なっ!?」


 ベンジャミンは突き放すように言った。

 伯爵が保身のために後継者を決めていないこともあって、ベンジャミンは元々どちらにも肩入れしない立場にいた。どちらも配下に内政のできる者がいないため、自分の地位は安泰だと考えていたからだ。

 しかしこの経済危機。アランは自費で騎士団員の給料を賄ったり、演習場の一部を畑にしたり、伯爵の説得に乗り出したり、協力する姿勢を見せている。一方ロレンソはヘロンからの資金援助をすべて自分のものとしたのだ。ベンジャミンはロレンソを見限っていた。 


「なにを言っているのですか!? 私は次期領主となる者ですよ!」


「…聞くところによれば商人たちの一部はすでに伯爵様の別邸にも押し掛けているとか。このような事態に伯爵様はどうお思いでしょうかね?」


「くっ…」


 まずい…


 短気で浅慮な父のことだ。誤った選択をしかねないとロレンソは焦る。


「…失礼します。」


 なにか対策を練らねば… ロレンソは踵を返す。


「ああ、そうそう。ロレンソ様、こちらにも商人たちが押し掛けています。何とかしてください。」


「…くっ……」


 払い戻す金などない。

 ロレンソはヘロンが売り付けた大量の魔導具の改修に追われることになるのだった。

ブクマ、評価、いいねありがとうございます。


まだの方はよろしければお願いいたします。

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