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生食用の魚は十分ということでマルコはようやく解放され、見回りを再開した。
あれは、ミャアとヒューマか。
「どう?釣れてる?」
マルコは2人に近づいて声をかける。
「いやあの、それが…」
そんなマルコにミャアは少し困った顔を見せた。
? どうしたのだろう?
「ん?きたきたきたっ!!これは大物だぞっ!!!」
「あの、ヒューマ様… それ、根掛かりです……」
「なぬっ!? …またか……」
「はい…」
どうやら自信満々だったヒューマは釣りが下手なようだ。
「ぐぬぬぬぅ… おや?なんだ見ていたのか?」
「あっこんにちは。」
ようやくヒューマもマルコに気づく。
「はっはっはっ! 情けないところを見せてしまったな。だが案ずるな!すぐにm超えの大物を釣って見せるぞ!!」
「あっはい。期待してます。」
なぜあの直後にこんなにも自信満々なのか? 不審からかマルコの返事は少しカタコトになってしまう。
「よぉーしっ!そーれっ!!」
しかしそんなマルコの態度に気づかず、ヒューマは再び竿を投げる。
「…それじゃあ俺は見回りに戻るけど、頑張ってねミャア。」
「はい! 大物を期待してください!!」
ミャアの頭をポンポンして見回りに戻るマルコの背に、「きたきたきたっ!!」「あの、根掛かりです……」そんな会話が聞こえるのだった。
ん?
砂浜を歩いていると子供たちと遊ぶリオの姿が見えた。
「やあ!」
「あっマルコさまだ―。」
「みてみてマルコさま、おしろつくったよ!」
楽しそうな子供たちにマルコは招かれる。
「おっすごいじゃないか。」
「えへへぇ、すごいでしょ?」
「そだ、マルコさま。まほーみせて―!」「みせてー!」
子供たちにねだられる。
「そうだなぁ… よしっ!」
マルコは簡単な土魔法で小さなゴーレムを作る。
砂で出来た小さなゴーレム兵士たちはよちよちと子供たちの作ったお城を警備するように動いて見せた。
「うわぁ~!!!」
「すっげぇ!!!」
子供たちは小さなゴーレムに夢中になる。
「ありがとね。」
子供たちが夢中になっている隙にマルコはリオに話しかける。
「…なんのこと?」
「子供たちの面倒をみてくれてることだよ。ごめん、すっかり忘れていた。」
釣り参加者に宴準備班、子供たちの面倒をみれる者がいないことにマルコは気がついていなかったのだ。
「気にしないで、好きでやってるだけだから。」
「そう? あれなら少しの間だけど子供たちはみておくからリオも釣りしてきていいよ。」
「うぐっ…」
マルコがそう言うとリオはなぜかばつが悪そうに顔を反らす。
?どうしたんだ??
「リオおねえちゃんはおさかながニガテなんだよ。」
「ちょっ!」
その様子を見ていたのか1人の子供が教えてくれる。
「そうか、しまったなぁ…魚がダメってなると…ごめん、干し肉くらいしか用意してなかった。」
猫人族は皆魚好きだと思っていたので宴だというのに肉はあまり用意していない。
「?ちがうよ。たべるのはだいすきだよ。」
「いきてるおさかながダメなんだって。」
「おめめがギョロっとしてるのがこわいんだって。」
「ちょっみんな! しー!しー!」
リオはあわてて子供たちを制すが、続々集まってくる子供がみんな喋ってしまう。
「……」
「…なによ?」
「いや、かわいいところもあるんだなと…」
「かわっ!?」
再びリオは顔を背けてしまった。
「どうしたの?リオおねえちゃん。」
「おかおまっかだよ?」
「うっ…うう~……ほらまだ見回りあるんでしょ?行った行った!!」
「え?あっおい!」
リオに追い出されるようにマルコは見回りを再開するのだった。
海岸沿いではクウガが参加者たちを真剣な目で見つめていた。
「よお!」
「む? なんだお前か。」
マルコはクウガに声をかける。
「どんな感じだ?」
「…まぁ、やはりと言うか野良モンスターが多いな。」
「やっぱりか…」
海を利用しようと思うと海中ダンジョンの攻略は必須だろう。
「そういえば、海中にあるダンジョンをよく見つけられたな。」
「ん?…ま、まあ…我にかかればそのくらい余裕だな。」
「…なんか隠していないか?」
「なっ!? 何も隠してなどいないぞ?? 本当だぞ??」
クウガは挙動不審というか、何かを隠しているのを誤魔化そうとしているように見える。
「…じー……」
「な、なんだ?その目は…」
クウガを凝視するが別に喋りそうにない。
「…まあいいか。」
「う、うむ。別にそんな気にすることでもないぞ。」
気にはなるが…この感じ、問い詰めても無意味だろう。
「…しっかし、海中って本当に厄介だな。クウガは水中戦はできるのか?」
「いや、我は風を主としておるからな。水中だとほとんど力が発揮できん。」
「そっか… まあそうだよな。」
「うむ。」
「もう一柱、水中戦能力のある聖獣がいたら良かったんだが…そんなうまくはいかないか…」
ダンジョンに対する人類の守護として聖獣がセットとなっているお伽話は多いが、実際に聖獣がいることは稀だ。
「う、うむ…そ、そうだな…」
なんの気なしにいった言葉だがクウガは妙に動揺する。
…え? まさか本当に…??
そのときだ。
マルコたちの視線の先で1人の参加者の釣竿が大きくしなる。
「大物か!? むっ!!」
糸に引かれザバンと大きな魚が水面を跳ねた。
直後、その魚を追うように大きなタコの触腕のようなものが水面を叩く。
「モンスターか!?」
「待てぇい!それは我の魚だぞ!!」
マルコが構えるより速くクウガが飛び出し、タコのモンスターの触腕をはねる。
…やれやれ。
我の魚って…どんだけ食い意地はってんだよ。
話をはぐらかされた気もするがマルコは少し呆れ顔を見せ、見回りを再開するのだった。
海岸をしばらく歩くと周囲には誰もいなくなる。
「…はぁ……」
マルコは1つため息を吐く。
「お悩みですかな?」
「っ!?」
誰もいないと思っていたのに突然声をかけられた。
声の方に目をやると、皆から長老と呼ばれている猫人族の老人がのんびり糸を垂らしていた。
「すみません、気がつきませんでした。」
「いえいえお気になさらず。それよりどうかなさいましたかな?」
「それは…」
「領主様のような高尚な悩みごとなど、この老骨には解決するとこなどできませんが…話せば少しは気が楽になるものですよ。どうですか?ひとつ聞かせてみてはくれませんかな?」
「…」
たしかに1人で抱え込むのは良くない。だがおいそれと話してしまってよいものだろうか?
「…戦争のことですかな?」
「っ!? ……やはりわかってしまいますか。」
現状、ローグはどんどん戦争の方向へと進んでしまっている。
「やるべきことをやっていると思います。最良の手段を選べていると自負しています。…ただどうしてもその先に戦争が繋がってしまう。…短絡的過ぎるのではないかとも思ってしまうのです。」
現状、バルドルが領土侵略目的ではなく人狩り目的で獣人族の皆を襲う場合、ギルスール王国は見てみぬ振りをするだろう。
一刻も早く交易を行い、ギルスール王国での影響力や重要性を高めなくてはならない。
だがそれは王国を、より多くの命を戦争へと巻き込む道なのだ。
「では領主様はバルドルと話し合えると?」
「…いえ、思えません。」
バルドルの行いは洗脳ともいえる教義に基づいている。いまさら教義を変えるなど、天地がひっくり返るようなものだ。
「そうでしょうな。我々もいまさら恨みを捨てるのは困難ですし、バルドルとの和平など信じることができません。それにバルドルも自分たちがなにをやったのかをわかっていれば、我々が恨みを飲み込むなど思えないでしょうから和平など信じられないでしょうな。」
「…そう、ですね。でも、それでも… 味方を死に追いやることは嫌なのです。」
「……仲間を増やしなさい。三人寄れば文殊の知恵とも言いますし、良い策が浮かぶかもしれませんよ。」
「…そうですね。」
遠くから「しゅーりょーっす!!」と叫ぶタイガの声が聞こえたのだった。
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