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話し合いが終わり、涙ぐむヒューマを送り出す。
「っと、そうだ。コタロ少しいいですか?」
「なんでしょうか?」
マルコはコタロを呼び止める。
「もしよければ、うちに仕えてもらいたいのですが?」
「…それはどういったかたちででしょうか?」
「准爵の地位を授けます。」
その言葉にコタロは驚き、目を見開いた。
「あの、准爵って何ですか?」
その様子にミャアがこそっと訪ねてくる。
「爵位は王家が授けるものなんだけど、准爵っていうのは貴族が見出だした平民に対し、王家へ推薦する前に与える地位かな。」
他にも貴族は王家が設立した学園を卒業すると実家の爵位の1つ下の爵位を賜ることが出来る。マルコの場合アーニエル伯爵家の子息であったため、子爵の地位を賜っている。
そんな学園卒業生で爵位の一番下、男爵家の者や平民で学園に通っていた者にも准爵の爵位が授けられる。
ただあくまでも准爵、爵位に準ずるという意味だ。
そのため正確には貴族ではない。しかし准爵であれば例えば衛兵隊の部隊長や役人など、本来平民ではつけない貴族の役職にもつくことが出来る。
「…ギルスール王国に獣人族の准爵がいたことはないと記憶しておりますが……?」
「しかし法で規制されているわけではありませんからね。コタロには外交官になっていただきたいのです。」
これから王家との交渉が控えている。かといってあまりマルコがこの地を離れるわけにもいかない。
「…少しお時間をいただけませんか?」
「どうぞ、よく考えてください。」
九尾商会となるとそれなりに高給取りだろう、現状マルコはそれほど給料が払えるわけではない。
そう思えば考えてくれるだけでもありがたい。
「いえいえそういうわけではないのですよ?」
「ん?」
そんなことを考えていたマルコにコタロは慌てた風に答えた。
「マルコ様は猫人族を救ってくださった。蛇人族も救おうとしてくださる。獣人族の1人としてあなた様の元で働けたら、そう思っておりました。」
「ではっ!」
「はい。謹んでお受けしようと思います。ただ、これでも九尾商会では少し目をかけていただいていた身、通すべき筋は通したいのですよ。」
「なるほど。」
優秀だからほしいと思ったのだが、たしかに優秀なら九尾商会でも期待されていただろう。
「というわけですので、これからは私には敬語はなしでお願いします。仕える主ですのでどしっと構えてほしいのですよ。」
「わかりました。よろしくお願い…よろしく頼む。」
「くすっ、若輩ですが死力を尽くしてお支えいたします。」
そのままの流れで、コタロと今後のことを話す。
「今後のことを考えて、王家から港の設営許可が欲しい。」
「港… ああ、そういえばマルコ様は子爵位でしたね。」
ここ、ギルスール王国では爵位によって権限が違う。マルコが子爵なのでここローグの地はそのまま承認を得れば子爵領ということになる。しかし子爵が許可なく造れるのは漁港までで商業用の港は伯爵以上でなくては勝手に造ることが出来ないのだ。
「あの、マルコ様。どうして港が必要なんですか?」
「ん? …コタロ、アーニエルは今どうなっている。」
ミャアに聞かれ、一応マルコはコタロに確認を取る。
「はい。ご想像の通りと思いますが、現在アーニエルは散財すさまじくじきに財政が危機的状況を迎えると予想されます。」
やっぱりか…
「?」
なんのことかわからないミャアは不思議そうな顔をする。
「ここローグから輸出をしようとすると絶対にアーニエルを通らないといけないよね? でもアーニエルは財政危機。そうなれば関所の通行料や街への入市税といった直接的なものから、休息のための宿代や補給のための食料代など、様々なものが高騰するんだ。」
「はい。」
「そうなるとアーニエル経由では輸送費がかかりすぎる。こっちがギリギリまで安く売ったとしても、輸送費が乗っかれば他の地域のものと比べて高値になってしまいローグから輸出したものは売れなくなる。」
もちろん伯爵は元からその分多い献上品が義務付けられているし、子爵でも港の設営許可を得ればその分多くの献上品を王家へ納めなくてはならなくなる。
しかしそれは他も普通に払えている現実的な金額であり、アーニエルを経由して法外な輸送費を支払いするよりもずっと安い。
「なるほど、だから港が必要なんですね。」
「うん。そしてその港を造って海運を行うために海中ダンジョンの攻略が必要なんだよ。」
正直なところ、この地で暮らしていくだけなら海中ダンジョンの攻略は必須ではなかったりする。
というのも、野良モンスターもモンスターズナイトもほとんどが水棲モンスター、上陸してくるのはサハギンなど一部の半水棲モンスターに限られる。
そのため海に近づかなければ被害はでないし、モンスターズナイトも一部のモンスターだけなら聖獣であるクウガの力で対処は余裕だ。
しかし港を造り、海運を行おうとすればそうもいかない。
野良モンスターは船を襲い、モンスターズナイトでは海に面している港に被害が出るからだ。
「っと、そうだ。コタロこれが王家へ渡す献上品のダンジョンコアだ。」
「おおっ!」
マルコはダンジョン攻略で取ってきたばかりのダンジョンコアをどんと机に置く。その大きさにコタロも驚きの声をあげた。
「これほどのものとは…私、この大きさのダンジョンコアは初めて見ますよ。」
「これでローグ新領設立並び俺の領主就任、新領が軌道に乗るまでの献上品免除、それに港の設営許可を取り付けてもらいたいが… できるか?」
マルコの見立てではこのダンジョンコアならその対価として十分に見合う、はずだ。
しかし実際問題、1つの献上品で4つの要求では要求が多すぎる。それにそもそもが大きすぎて引き取り手が王家くらいしかないダンジョンコアなのだ。足元を見られてもおかしくない。
「まだ就任前だというのになかなかの難題をお与えになりますね、腕がなります。お任せください、万事つつがなく仕上げて見せますよ。」
「任せた。」
最悪絶対目標は軌道に乗るまでの献上品免除と伝え、港の設営許可は努力目標くらいにしてしまおうか? いや、やる気に満ち、どこか嬉しそうな笑みを見せるコタロにそれは失礼だろう。
マルコはコタロを信じ、その一言で済ます。
「さて、次は…釣り大会だけど賞品が何もないってのは味気ないよな? なにか良いものはないか?」
「それでしたら商会の方に少し高価な釣具のリールがございますよ。挨拶のついでに買ってまいりましょうか?」
「うん、じゃあこれで用立てて。」
マルコはダンジョン攻略で得たイエティの毛皮やらアイスクリスタルやら魔石をコタロに渡す。
「いえいえさすがにこんなにも…」
「まぁついでに村で必要なものも買い出ししてきて欲しいんだけど… ごめんミャア、ヒューマ呼び戻してきて!」
「はいっ!お任せください!!」
数分後、目を真っ赤に腫らしたヒューマが、リールのことをミャアから聞いたのか興奮気味に飛んできたのだった。
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