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「「おかえりなさーいっ!!」」
ダンジョンを攻略し村へと戻ったマルコたち一行を住民たちが総出で出迎えてくれた。
村に大きな変化はないが、木挽き場などの出発前に手配していた施設は出来次第順次稼働を始めていたようだ。おかげで板材などの資材も備蓄が始まっていた。
「留守の間ありがとうございます。なにか問題はありませんでしたか?」
「いや、コタロ殿を始め九尾商会の者たちが親身になってくれましたからな。」
「いえいえ、私どもは皆様の者の努力を少し後押しさせていただいたまで、そう大したことはしておりません。」
マルコは早速留守を任せていたヒューマとコタロに話を聞く。だが嬉しいことに見ての通り万事順調で問題はなにもなかったようだ。
「お二人ともありがとうございました。」
「いやいや、それよりせっかく無事に戻ってこられたのだ。どうだ?今宵は宴でも?」
「いえ、皆戻ったばかりで疲れていますし、宴は後日しっかり準備してから行いましょう。ミャアも大物を釣り上げると張り切ってますし。」
「はいっ!任せてください!!」
ミャアは張り切ってガッツポーズをして見せる。
「ふむ。そんな軟弱な鍛え方をしてはいない、と言いたいところだが釣りとはな。」
大物を釣るという言葉にヒューマは少しウズウズした感じで答えた。
「どうかしましたか?」
「いやなに、我輩も釣りには少し心得があってだな。」
チラチラとミャアを見て、そわそわした感じだ。
そういえばクウガやミャアもそうだが猫人族は皆魚好きだったな。
「…クウガ、皆で海で釣りをしようと思うが…警備を頼めるか?」
「魚のためだろ?無論だな。」
ドヤッとキメ顔をしているが…全然格好よくないぞ。
…まぁ、クウガが手伝ってくれるのなら何とかなるだろう。
「…それでは日中に釣り大会でも開いて、夜に宴としませんか?」
「おおっ!!」
「釣り大会っ!!」
ミャアとヒューマが歓声をあげた。
「いいですないいですな、やりましょうぞ!!」
「では宴は後日、釣り大会と共に……っと、それよりもお二人に相談したいことがあるのですが…いいですか?」
「ん?」
「それは…先ほど聖獣様と話されていたこととなにか関係でも?」
2人とも不思議そうにしている。
「ええ、まぁ… とりあえずここで話すことではないので家にでも…」
マルコは2人を引き連れて家に帰るのだった。
ほぼ一月ぶりの帰宅にも関わらず、家の中にはホコリもなく、きれいに片付いていた。
食料を取りにきたついでなどで掃除もしてくれていたのか、後で猫人族の皆にはお礼も言っておかないと。
「…ところで、相談とは?」
そんなことを考えていたマルコにヒューマが訪ねる。
なんと言ったものか…? いや、はっきり言うしかないか。
「実はここ、ローグの地にはもう1つダンジョンがあるということがわかりまして…」
「なんとっ!?」
「それではまたすぐにダンジョン攻略へ行ってしまわれるのですか?」
「いや、それが、そうもいかないのでしで…」
マルコは少し言い淀む。
「? と、言いますと??」
「実はその、ダンジョンがあるのが海中でして……」
「海、中…?」
「ええ、海岸からそれほど離れていない沖にあるらしいのですが……」
あまりのことにヒューマもコタロも目を見開いて放心気味に溢す。
かくいうマルコもクウガに教えられた時は同様の顔になったものだ。
「いやいや、海中、海中かぁ… そんなものどうすればいいのだ??」
…ですよねぇ~
狼狽えるヒューマに内心全力で同意するしかない。
どういう理由があるのかはわからないが、ダンジョンは門をくぐり抜けてすぐに環境が大きく変わることはない。
つまり、マルコたちが攻略したダンジョンが森の中にある菌輪を通ると第一層として森林ダンジョンだったように、海中のどこかにある門をくぐれば海中ダンジョンに繋がっていることになる。
「…失礼ながらマルコ様は錬金術も嗜みましたよね? 記憶がたしかならエリクサーのような秘薬に並び、水中でも呼吸出来るようにする秘薬もあったとか?」
「ええ、しかしダンジョン攻略には一月ほどの時間がかかります。そうなると数人分しか……」
「それに呼吸ができたところでダンジョン内は水棲モンスターだらけだろ? 水中戦なんてどうにもならんぞ。」
わかってはいたが大きすぎる問題たちにマルコたちは頭を抱えるしかない。
「…蛇人族たちの力を借りてはどうでしょうか?」
「蛇人族?」
「おいっ!だが彼らは……」
コタロはそう提案する。
マルコは蛇人族をよく知らないがヒューマの反応を見るに、なにやら問題のある種族のようだ。
「マルコ様は蛇人族を知りませんか。蛇と言いますが尻尾が生えているくらいで外見はほとんど人と変わりありません。ああ、あとよく見ないとわからない違いですが、髪と眉以外の体毛はほぼなく肌に鱗がうっすら浮かんでいることもでしょうか?
しかし彼らは半水棲の生活をしており、水中でも呼吸ができ、泳ぎがうまく水中戦も得意としています。」
「この状況にぴったりな味方じゃないですか。なにが問題なんですか?」
コタロの説明を聞いたマルコはヒューマに訪ねる。
「…バルドルの奴隷施設については知っておるか?」
ヒューマは感情を圧し殺したような声でそう言った。
バルドルは現在、ドワーフやエルフの国と戦争をしている。
武器や食料など、戦争には大量の物資が必要だ。バルドルでは大規模な農場や鉱山などの奴隷施設を作って前線を維持している。
「…彼らはそこに囚われていると?」
「…ああ、前線へ物資を運ぶための奴隷港で働かされているという話だ。」
なるほど、それは大問題だ。
「…そこの警備は厳重なのですか?」
「っ!? まさか…」
「いえ、件の奴隷港は前線とは遠いこちら側にあり、奴隷として働かされている者たちも子供を人質にとられ、それ以前に逃げ延びる先がないので反抗を諦めております。警備はかなり緩くなっております。」
ヒューマを制してコタロが答えた。
わざわざこんな話題をふったのだ、予想通りの答えといえる。
そしてローグが逃げ延びた先として受け入れれば、彼らは喜んで協力してくれると言うことか…
マルコは少し思案した。
「…襲撃しましょう。」
思案の後、マルコは言う。
「それは、それは彼らも救ってくれると言うことか……?」
満足げなコタロの横、ヒューマが震える声で訪ねてくる。
「ええ、もちろん入念な準備の後、ですが… 我々は奴隷港を襲撃し、蛇人族をいえ、獣人族を救出します!!」
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