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「…こうっすよね?」


「いや、こうでしょ?」


「いやいや、こうじゃな。」


 タイガにリオ、それに猫人族の戦士たちが集まり、身振り手振りを交えつつ話し合っている。

 クウガが見せてくれた『無拍子』。それを人である自分たちに落とし込むにはどうしたらよいのか議論しているのだ。


「どうした? お前は混ざらんでよいのか?」


 その様子を離れて眺めるマルコにクウガが話しかけてきた。


「あいにく俺はさっぱりだ。」


 マルコは答える。別に謙遜でも、自分たちで答えを見つけてもらおうという意図があるわけでもない。本当に見ただけては何もわからなかったのだ。

 マルコは知識を身に付けるのはさんざんやって得意だが、知識を見つけ出すこと、作り出すことは不得手であった。


「ふーん、そうか。」


「ああ、だからこれは戦いのセンスの高い猫人族のみんなに任せるとして、俺は自分に出来ることをやろうと思う。

 イエティたちの素材、貰ってもいいか?」


「ああ、いいぞ。だがどうするのだ? 確かに魔石は大きいが、肉は硬く筋張っていて不味いぞ?」


 マルコの質問にクウガは不思議そうに答えた。


「魔石もそうだが、毛皮が高く売れるんだよ。それにオーガ系の角も観賞用として価値が高い。」


「そうなのか。しまったな、そんなこととは露知らず適当に切り伏せてしまった。」


「気にするな。普通は一撃でなんて倒せないからもっとボロボロだ。」


 そんなことを話しつつ、マルコはミャアとイエティを解体する。


「うわぁ、見てくださいマルコ様っ。魔石がすごく大きくて綺麗です。」


「そうだね。モンスターが上位種になるほど魔石は大きく、高純度のものになるからね。」


「へぇー。でもこの魔石、いつものと色が違っていますよ?」


 ミャアは興味深げに魔石を眺めつつ聞いた。


「それはイエティが氷属性のモンスターだからね。その魔石は氷属性の魔石なんだ。」


「そうなのですか? 氷属性の魔石は何に使えるのですか?」


「氷属性の魔石は貴族の邸宅や大商会にある魔導冷蔵庫や冷凍庫の燃料として使われているよ。」


「あっ、聞いたことあります。食べ物を冷やしておける大きな箱ですよね。」


「そうそう。」


「あーっ!!」


 そんなことを話していると、こちらに気がついたタイガが駆け寄ってくる。


「ミャアちゃんなんすか?その宝石??」


「えっ!?いや、宝石じゃなくて…」


「くーっ…俺も探すっす!!」


 そう言うとタイガはおもむろに雪を掘り出す。


「…なにやってんのよ?バカにぃは??」


「…さぁ?」


 呆れたようにリオもやってくる。


「あっ、あの…タイガさん? これ、宝石じゃなくてませ……」


「ん? んん… うおぉぉぉぉっ!どりゃぁっ!! 何かあったっす!!」


 必死で説明しようとするミャアに気がつかないほど、熱中して雪を掘っていたタイガがなにかを掘り出す。


「…なによ?ただの氷の塊じゃない。」


 リオが呆れて言う。

 確かにそれは大きな氷の塊だった。


 …いや……


「タイガ、それよく見せて。」


「へ? あっはい。どうぞっす。」


 マルコはタイガに渡されたそれをよく観察する。


 …やっぱり。


「これ、アイスクリスタルだよ。」


「「「アイスクリスタル??」」」


 知らない単語に3人の声がハモった。


「氷が長い年月魔力にさらされて水晶化した、別名『溶けない氷』なんて呼ばれるものだよ。

 実際は水晶みたいなだけで水晶ではないし、目に見えづらいだけでゆっくり何年もかけて溶けるんだけど。」


「へぇ。それってなにかに使えるんすか?」


 タイガが訪ねてくる。

 確かに水晶のように宝飾品に使おうとしても、溶けてなくなってしまうのであれば使い道はないだろう。


「今は耐寒ポーションのおかげで気づかないかも知れないけど、アイスクリスタルは冷気を発しているんだ。それを利用して魔導冷蔵庫より安価に倉庫を冷却したり、マジックバックの中身を冷却したりに使われているよ。」


 詳しく説明すると倉庫のような大掛かりなものを魔導冷蔵庫で作ろうとすればコストがかかりすぎる。そもそも魔導冷蔵庫に入れておきたいものは珍味や珍品といった価値の高いもので、倉庫に入れたいのは穀物や野菜といった安価で量のあるものだ。そのためアイスクリスタルと魔導冷蔵庫は住み分けが出来ている。

 マジックバックのほうは単純に魔導冷蔵庫と共存出来ないからだ。小さくて軽いのに大量のものが運べることが売りのマジックバックに魔導冷蔵庫の機能をつけると、大きくて重い取り回しの悪いものしか出来ず、マジックバックの利点を完全に殺してしまうのだ。


「ふーん。てことはこれは安物ってことっすか…」


 タイガは少しがっかりしたように言った。


「いや、そんなことはないよ。」


「どうしてっすか?」


「最初にも言ったけど、これは何年もかけてゆっくり溶ける。つまり減価償却の時間が長いからこれ自体の単価が安いって訳じゃない。それに現状、需要に対して供給が足りていないからね。それなりに高く売れるよ。」


「えっと…げんかしょーきゃく?単価は安くない……??すみません、どういうことっすか?」


 タイガは理解出来ていないようだ。


「買った金額を使える年数で割ってやると何年も使えるものは1年あたりにかかる金額は安くなるから、高くても売れるってことだよ。」


「?? すみません、もう少し分かりやすくして欲しいっす。」


 タイガはまだ理解していないようだ。

 その様子にリオが口を挟む。


「ねぇおにぃ。1個100ゴールドのパンと1個150ゴールドのパン、どっちが安い?」


「そりゃ100ゴールドのパンっすよ。」


「じゃあ、150ゴールドのパンが100ゴールドのパンの倍の大きさ、2食分の量があるとしたら?」


「そりゃ150ゴールドのパンっす……あっ!!」


 気がついたようだ。


「わかった?」


「つまり何年も使えるから高くても安いってことっすね!」


「もう、マルコはずっとそう言っていたじゃない。」


 一同、顔を見合わせて笑うのだった。

ブクマ、いいね、ありがとうございます。


地味に初めてこの世界の貨幣単位が出ました。ゴールドです。

昔江戸時代の貨幣価値を知ったとき、収入を現代基準で考えるとかけそば一杯が2~3,000円位すると知りました。(これは江戸の街が超インフレ社会なことも理由の1つ)

なのでわりと自分は意図的に具体的なお金は触れないようにしています。(どうしても中世的な世界観だと税金とか収入との割合だと善政敷いていても高過ぎ、金額的に見ると悪政やっていても安ってなりますよね?)

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