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すみません、短いですがキリがよかったので。
「いやぁ、錬金術ってすごいっすね!」
タイガが興奮気味に言う。
「さっきまでクソ寒かったのに全然寒くないんすよ? マジすげぇっす!」
「ええ、それにお茶はあんなにぬるかったのにいまだに身体が温かいわ。」
リオもそれにならう。
「違いますよ! マルコ様がすごいんです!!」
「ふふ、そうね。」
躍起になって言うミャアを微笑ましいと感じたのか、リオは柔らかな笑みで撫でた。
「そういやマルコさんの兄弟もすごいんすよね? なんか特別な家柄なんすか?」
「いや、一応アーニエルは建国初期メンバーの貴族ではあるけど、建国戦争で手柄を上げた一兵卒上がりの元農民。歴史はあるけど特別な血筋とかではないかな?」
その歴史が父であるアーニエル伯爵が『映えあるアーニエル』と得意気に語っていた理由だ。
「ふーん… たしか長男が武芸と軍事、次男が魔法と魔導の天才だったかしら?」
「そうだよ。」
「ならどうしてあんたは剣術と魔法を勉強したの?」
「? どういうことっすか??」
リオの疑問の意味をタイガはわかっていないようだ。
「そんな優秀な兄がいるなら、その2つは別にそこまで勉強しなければならない理由はないじゃない? 政治とか経済とか、もっと他の勉強に時間を回していたら、別の結果になっていたかもしれないわ。」
「なるほど、そうっすね。なんでなんすか??」
リオの答えにわかったのかわかっていないのか、とにかく元気にタイガも聞いてきた。
「んー… まぁ隠すことでもないか。実は2人とも領主の座を狙っていて仲がとても悪いからね。どちらが領主になったとしてももう片方はいなくなる。だから穴埋めになれないことはわかっていてもしなきゃいけなかったんだよ。」
長男のアランは当然自分が領主になると考えているし、次男のロレンソも天才であるため領主になって問題ないと考えている。
そして2人とも領主になれば好きなことができると思っているし、互いに相手のやっていることを予算の無駄と感じている。
この事はアーニエルの家臣であっても気付いていない者は気付いていない。
というのも、互いに相手が自身と別の分野の天才であることは認めている。そのためやぶ蛇となるようなことは避けているのだ。
そしてなにより今までは互いの予算を制限するマルコがいた。なのでアラン、ロレンソvsマルコの構図が鮮明であったため、アランとロレンソの対立は隠されていたのだ。
「それならもっと早くに後継者を決めさせるべきだったんじゃない?」
「まぁそうなんだけどね。父としては自分より優秀な後継者を決めたら家臣たちに隠居させられると思っているんだろうね。死ぬまで後継者を決める気はなさそうだよ。」
「「うわぁ……」」
後継者争いで悲惨なことになるのがわかりきっているのに、自身の地位にしがみつこうとしていることに、皆ドン引きした声を出す。
「おいっ、敵だぞ。」
そんなことを話していたらクウガから声がかかる。
身の丈3mはある筋骨隆々の体躯は白い毛皮に覆われ、頭には角が生えたモンスターがそこにいた。
「…あれ、なんすか?」
「…イエティ。寒冷地に適応したオーガの亜種だよ。」
「「オーガ!?」」
皆驚く。
ダンジョンに入らない者には伝説上の存在、ダンジョンに入る冒険者であってもまず太刀打ちできない化け物がオーガなのだ。
「よく見ておけよ。」
そういってクウガはオーガに向かう。
2歩、3歩… クウガは無警戒に近寄ったかと思うと……
ザシュッ!!
突然飛びかかり、一爪のもとイエティを切り伏せた。
「すげぇ!すげぇっすよ!!」
「いや、確かにすごいが…」
「いや、そんなことはないぞ。」
基礎能力が高過ぎるだけで何の参考にもならないと言おうとしたマルコに壮年の猫人族の戦士が話しかけてきた。
「完璧に殺気を抑え、呼吸を読んで隙をつく、そして今のが『無拍子』ですか?」
「ほぅ、知っておったか。」
壮年の戦士の問いにクウガは答える。
「あの、『無拍子』って何だ?」
「『無拍子』とは斬りかかる際の予備動作を無くすことだ。斬ろうとして斬りかかり斬るのではなく、ただ斬る。」
「なるほど…」
クウガの答えにわかったようなわからないような…言ってることは理解できるが、やってることがすごすぎて意味がわからない。
「ふむ… おっ?新手だな。もう一度やって見せるから今度はもっとよく見ておれよ。」
そういってクウガはまた現れたイエティへと向かっていくのだった。
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