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 一方その頃。


「キナリス伯爵。僕とアリアの結婚を認めていただきありがとうございます。」


「いやいや、ルクト君がこんな青年に成長すると知っていたら… 私も見る目がなかったな。娘に余計なバツをつけてしまったよ。」


「何をおっしゃいますか。まだまだ倅はひよっこじゃ、びしびし鍛えてやってくだされ。アリア嬢もよろしく頼みますぞ。」


「はい。」


 婚約披露宴を前にマール伯爵キナリス伯爵、新郎のルクトと新婦アリアは楽しく談笑していた。


「…すまんなアリア嬢。せっかくの式をこんなことに利用してしまって…」


 マール伯爵はアリアに頭を下げた。


「お気になさらないでください。もとより私は出戻りの身、ルクトとちゃんとした式を上げさせてもらえるだけで幸せです。」


 そう言うがその顔はどこか晴れない。


「…マルコが心配?」


 そんなアリアにルクトが訪ねた。

 2人はマルコの幼馴染みでもあった。


「心配? ううん、幼馴染みが結婚するっていうのに連絡すらつかないのよ? せっかく私たちの幸せな姿を見せつけようと思ったのにがっかりだわ。」


 ルクトの不安を吹き飛ばすようにアリアは答えた。


「失礼します。アーニエル伯爵の名代、ベンジャミン殿がお見えになりました。」


「さて、始めるかの…」



「アーニエル伯爵が名代ベンジャミンです。本日は多忙な主に代わり御二人の門出を…」


 ガシャーン!!


「名代だと!! これはいったいどういうつもりじゃ!!!」


 ベンジャミンが挨拶しようとした時、マール伯爵の怒声が婚約披露宴に響き渡ったのだった。






 後日、


「伯爵様っ! いったいどういうことですか!?」


「ん?ベンジャミンか、どうしたのだ?」


 慌ててアーニエル伯爵の元に訪れたベンジャミンを伯爵はぞさんに招く。


「どうしたもこうしたもないですよ! 結婚の証人を任せていた伯爵が来なかったとマール伯爵もキナリス伯爵も大激怒ですよ!!」


「…へぁ?」


「しかもマール伯爵家からは新郎、キナリス伯爵家からは新婦。さらにアーニエルから証人で後見人の伯爵が出る、三家の流通網強化を図る新事業の発表会だったじゃないですか!!?」


「知らんっ!ワシはそんなこと知らんぞ?」


 2人とも大いに慌てる。

 現状アーニエルとそれなりに深い付き合いをしているのがマール伯とキナリス伯。この2つに切られればアーニエルに資金援助をしてくれるところはいなくなる。


「書状にまとめて送ったとおっしゃっておりましたよ!?」


 そのためベンジャミンの語気も強くなっていた。


「手紙、…いや、無かった。そんなことは一言も…」


 引き出しをあさり、伯爵は手紙を出して見せる。


「ほらみろ!そんなことは一言も…」


 はらはら、ピラッ


 見覚えの無い便箋が数枚、手紙からこぼれた。

 もちろんそれはいつぞやの夜にスパイのメイドが忍び込ませたものであるが、手紙をきちんと管理していなかった2人は知る由もない。


「これは?」


 ベンジャミンはそれを拾う。


「なっ!?」


 そこにはすべてが書いてあった。しかもそこまで重く考えていなかった新事業も予算を見れば一世一代の大事業。さらにはその予算はすべてがマール伯キナリス伯持ちで、アーニエルは護衛のために騎士団を出すことが求められてはいるがそれは有償でありアーニエルへの資金援助を目的としたものだと、知りたくないことまでわかってしまう。


「…伯爵、様……」


「いや、それは…だな……」


 ベンジャミンは恨みがましく伯爵を見る。


「ちゃんと最後までお読みになられなかったのですか!?」


「いや、だからその…ベンジャミン!お前が悪い!!」


「はぁ!?」


 伯爵は無理矢理なすりつけるように言った。


「元はと言えばお前が金がないなどと言う世迷い事で使者との面談を邪魔したせいだろう!」


「何をおっしゃいますか!本当に金がないのです!この危機をどうしてわかってくださらないのですか!?」


 その後しばらく、聞くに耐えない罵りあいが続く。



「…それで、いったいどうなさるおつもりですか?」


「あん?」


「お二方ともたいそうお怒りで、アラン様、ロレンソ様に嫁に出した娘を返せと言っておりますよ。」


「…そこまでか……」


 嫁を返せと言うのは縁切り宣言、実質的同盟破棄である。

 新事業を任せるほどの子供の結婚の証人と言う大役と、その一世一代の大事業の発表の場をドタキャンして、両家に泥を塗ったのだ。


 どうしたものか……


 ベンジャミンは頭を抱える。

 当然ただ謝るだけで許してもらえるラインはとうに越えているし、こいつが悪いんですとベンジャミンを差し出したところで済む話でもない。


 許しを得るには相当の詫び料が必要。さらに新事業は末席で不利な条件を飲まされる… 詫び料、新事業への出資…そんな金、今のアーニエルには……


「そうだっ!!」


「…伯爵様?」


 何か妙案でも思い付いたのか、伯爵は場違いな明るい笑顔を見せた。


「聞け、ベンジャミン。サイモン殿がワシにだけ話してくださったことじゃが… どうやら孫娘ソフィアの婿を探しているらしい。」


「まさかっ!?」


「今より我がアーニエルはあんな田舎貴族たちとは手を切り、公爵家と共に歩く道を選ぶ!!」


「しか…」


 そんなにうまくいくのだろうか? だが伯爵を否定しようとするベンジャミンの言葉は途中で止まる。

 そもそも現状アーニエルの資金力ではマール伯キナリス伯とやり直す力がないのだ。


「伯爵様、どうか…どうかよろしくお願いします。」


「うむ、任せておけ。」


 藁にも縋るベンジャミンの思い、しかし伯爵が送った縁談の申し込みには丁寧なお断りが届いただけだった。

ブクマ、いいね、ありがとうございます。


がんばれベンジャミン、負けるなベンジャミン。君の未来は明るくない!

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