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「…ん。」
尻餅をついたままのマルコにリオがそっぽを向いて手を差し出す。
「…?」
「ん!」
相変わらずそっぽは向いたままだが、立ち上がるのに手を貸してやるから掴まれ、と言うことだろう。
「ありがとう。」
マルコはその手をとって立ち上がる。
…ふぅ。
「…勝った、ね。」
「そうね。」
魔力をほとんど使い果たしたマルコも、デーモンを攻め続けたリオも正直くたくた。しかもついさっきは絶体絶命の危機だったのだ、勝ったと言う実感がいまいち湧かずそれを口に出す。
っと……
「ありがとね。」
「…なによ?」
マルコは改めて礼を言う。
「リオがいなければ死んでいたところだった。だからそのありがとうだよ。」
「…ふんっ、別にあんたは私を助けるために剣を渡していなかったらピンチになんてならなかったじゃない。だから、その…私の方こそありがと。」
リオはまたそっぽを向き、最後は消え入りそうなくらい小さな声で答えた。照れくさいのか、横向きの頬が赤く染まっているのが見える。
「そっ、そういえばお宝は何かしら?」
「そういえばなんだろう?」
誤魔化すようにリオはそう言って宝箱へと走り、2人して宝箱を開ける。
「…紙?」
煌びやかなアーティファクトを想像していたのだろう。リオはその古びた紙が1枚入っているだけと言う結果に拍子抜けしたような声をだす。
「…これは、鷹の目の地図…かな?」
「鷹の目の地図?」
マルコはそのアーティファクトに聞き覚えがあった。
「うん。一言にアーティファクトと言っても、完全なる一点ものから既にいくつも見つかっているものまでレアリティが分かれているんだよ。
で、この鷹の目の地図は既に10以上の発見がされてあるものなんだ。」
「なーんだ…… それじゃあ見た目もボロいし、これは外れってことね。」
リオは少しがっかりしたように言う。
「いや、そんなことはないよ。珍しくないといってもあくまでアーティファクトの中ではってだけの話だし、10以上の発見があっても現存している数はその半分くらいだし……」
マルコは話をしつつ鷹の目の地図を操作する。
すると今いる周囲の、つまりダンション内の詳細な地図が紙の上に投影された。
「…何より珍しくないってことはこんな感じで使い方も既にはっきりしているからね。」
マルコはさらに描画範囲の縮小、拡大、描画位置の移動など鷹の目の地図の操作をして見せた。
「あれ? これってやっぱりこの階段を進めば元のフロアに戻れるってこと?」
「うん、どうやらそうみたいだね。」
地図を見ていたリオにマルコも同意する。
「へぇ~、便利ねこれ。他にはなにが出来るの?」
「他にはっと……」
ワクワク訪ねるリオに迫られ、マルコはまた鷹の目の地図を操作する。
今度はリオとマルコが上から覗き込まれている映像が投影された。
「えっ!? …えっ??」
リオは驚き、映像を撮っている何かがあるであろう上と地図を何度も交互に見る。
しかし映像を撮っている何かは存在せず、ただキョロキョロするリオだけが映像として写し出されていた。
「ふふっ、こんな感じで地図の描画範囲内であれば、相手に気づかれることなく離れた場所も見ることが出来るよ。」
「…すごい……」
「まあ、妨害魔法や遮断結界なんかを展開しておけば簡単に対策出来るんだけどね。」
当然機密を扱う場所などにはそういった処置が施されている。
「それでも十分すごいわよ。…もしこれをバルドルの連中が持ってたらって思うと…ゾッとするくらい、ね。」
もしこれを持っていたのなら、獣人族の隠れ里はもっとあっさり見つかっていたかもしれない、そう思ったのだろう。
「だとしても、そう簡単には使えなかっただろうね。」
「どうしてよ?」
「さっき言ったけど現存している数は半分くらいなんだ。つまりこの鷹の目の地図は壊れる。昔はその性能を期待して戦争に持ち出されたりもしたけど、今では失われることが怖くて厳重に保管されているものしかないよ。」
敵の城塞の構造が詳細に分かり、敵の伏兵がいそうな場所はリアルタイムで確認が出来る。戦争における情報力として鷹の目の地図は恐ろしく強力な武器だ。
しかし、鷹の目の地図自体はあくまでただの紙だ。一部のレアなアーティファクトにあるような壊れない、あるいは壊れても再生するといった能力はない。
そのため戦争の混乱のなか破れて壊れ、燃えて失われたものがいくつかある。
「なら、気をつけて大切に扱わないとね。」
「そうだね。っと、そろそろ行こうか?」
のんびりおしゃべりをしたおかげでリオの息は整っているし、マルコの魔力も戦闘には参加できないまでもふらついてお荷物になるレベルからは回復した。
「そうね、あっ剣ありがと。」
「いや、それはリオが持っていてよ。」
今後のことを考えると戦闘に参加しないマルコより前線のリオが持っていた方がずっといい。
その後、鷹の目の地図を使い2人は無事に皆と合流したのだった。
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