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ギィ…
マルコたちは扉を開いて中を伺う。
天井は高くがらんとした広い部屋。その奥に宝箱とそれを守るように1匹のモンスターがいた。
「…あれは、何かしら……?」
「…デーモンだ。おそらくあの宝箱にはアーティファクトが入っていて、あいつはそれを守っている。」
「デーモン!?」
リオは驚きの声をあげた。
上半身は人間、頭と下半身は山羊、背中にコウモリの羽を持ち、蛇の尻尾を生やしたそのモンスターはダンジョンでも特別な存在。時に番人、時にボスとして英雄譚に登場する非常に強力なモンスターだ。
「…スルーしましょ。」
「いや、待って。」
リオの冷静な判断をマルコは遮る。
「なによ? あんたもおにぃみたいにお宝のロマンとか言うわけ?」
「いや、あそこ…」
マルコは宝箱のさらに奥を指差す。
そこには上へと伸びる階段があった。
「どうやらあいつを倒さないとここから出られないようだね。」
「…ちっ、なるほどね。」
さて、どうしたものかな…
「…ねぇ、デーモンってどんなモンスターなの?」
「…魔法が得意で接近戦も強い。見ての通り羽があって空も飛べるし動きも素早い。極端にこれと言った強さがあるわけでなく全体的にまんべんなく、強い。」
「…厄介ね。」
マルコの答えにリオは苦虫を噛み潰したよう顔で返した。
得意があればそうさせないように潰し、苦手があればそこを攻める。だがそれがなくオールラウンドに強い相手はシンプルに厄介でしかない。
「…どうしたらいいの?」
リオはまっすぐマルコに訪ねた。
「…こちらの得意でごり押す。接近戦で戦えるよう俺が最大限フォローするから…リオ、いけるか?」
「…まぁ、そうなるわよね。わかったわ、それよりフォローは任せるわよ!」
マルコたちは部屋の中へ足を進める。するとデーモンは大鎌を構えて臨戦態勢をとった。
「…大鎌、武器としてはどうなのかしら?」
「扱いづらいから使うのはおすすめしないよ。でも使われると薙ぎ払いなら横から振り下ろしなら頭上から突きが飛んでくる。間合いの内側に入っても背後から切りつけられる。普通の武器ならあり得ない角度からあり得ない攻撃が来ると思えばいいよ。」
「そこはトリッキーなのね。ほんと厄介だわっ!!」
あいにくこちらに様子見をしている余裕はない。なのでリオはそうは言いつつも、弾かれたような速度で突撃した。
「ギリィーっ!」
デーモンもまた鳴き声を上げて迎え撃つ。
キンッカキンッ
剣合の音が部屋に響く。
リオの鋭い連撃はデーモンの大鎌にすべて阻まれていた。
「くっ!」
リオは苦々しげな表情を浮かべる。
無理もない。剣と大鎌、圧倒的に取り回しが悪いのは大鎌、にも関わらず攻撃を受けきられているのだ。リオは攻めあぐねていた。
「ディルルルルゥ……」
だがそれはデーモンとて同じ。攻撃を受けきれてはいるが攻勢に転じる隙がない。
デーモンは翼を広げて、上へと距離を取ろうとする。
「ホーリーチェインっ!」
それにあわせてマルコも魔法を放つ。
マルコがわざわざ得手ではない聖属性の魔法を使った理由は2つ。1つは悪魔族であるデーモンに聖属性が特効であること。もう1つは聖属性の魔法であれば壁や床を傷付けてダンジョンの魔力が溢れても、中和して穢れのリスクが低いからだ。
だがその選択には懸念点もあった。
マルコの放った光の鎖がジャラリとデーモンの頭上や背後から迫る。
「ウビィィィ。」
しかしデーモンは易々とそれをかわした。
よしっ…!
元より発生の遅いホーリーチェインがかわされるのは予想できたことだ。マルコの狙いは壁や天井にクモの巣のように張り巡らせてデーモンの動きを妨害することでしかない。
マルコが懸念していたのはそこではない。
得手ではない聖属性魔法、さらにダンジョンの魔力と相殺されて威力も落ちる。
マルコが懸念していたのは無視されて真っ向から受けられる展開だ。
「はぁあああっ!!」
ホーリーチェインで退路を塞いだおかげでリオの連撃はさらに続く。
「ディルルルルゥ…」
鬱陶しそうにデーモンはマルコを睨むが、すぐにリオの対処に専念を余儀なくされた。
…まずいな……
ホーリーチェインで退路は塞ぎ、リオの攻撃で防戦一方、状況は優勢に見える。
しかしデーモンとリオでは自力の差は明白。次第にリオには疲れが見えだし、デーモンもその攻撃パターンに慣れだしている。
「ヴィームスデル…」
っ!詠唱か!?
「ホーリーアローっ!」
デーモンの魔力の魔力の高まりを感じたマルコは光の矢を放つ。
「ディルルルルゥっ!!!」
すんでのところで矢は回避されたが、詠唱を中断させられたデーモンはさらに怒りに任せた表情でマルコを睨み付けた。
「隙ありっ!」
「ウビィィィっ!!」
リオの一撃は隙をついたものに思えたがそれは罠だったのか、リオの剣はデーモンの大鎌に両断された。
まずいっ!!
「リオっ!!!」
マルコは自身の剣をリオに投げ渡す。
「ありがとっ!!」
ガキンッ!!
間一髪。リオはデーモンの一撃を受け止めるのには成功した。
しかしその重い一撃はリオを吹き飛ばすのには十分すぎた。
「ギリィーっ!!!」
鬱陶しいマルコを叩くことを優先したのか、デーモンはリオを無視して突撃してくる。
ちぃっ!!
ホーリーチェインの囲いから抜けられてしまった。なんとしてもここで決めなければいけない。
「エアロバーストっっ!!!!」
家々を吹き飛ばしそうなほどの突風をデーモンに叩き込む。クウガと契約したことで無詠唱で使える、マルコの最大火力の魔法だ。
「ヴィームスデルガルデウムウィルエスタっっ!!!!」
どす黒い闇の魔力の濁流がデーモンから放たれ、マルコの放った突風と激突し、強烈な衝撃波が生まれた。
「あぐっ…」
その衝撃に耐えきれずマルコは倒れる。そして見上げた先には傷だらけのデーモンが立っていた。
…ははっ、やばっ……
あり得ないことに、デーモンは強引に衝撃波の中を突っ切って来たのだ。痛手を負わせることはできたが、状況は最悪。ほぼ詰みとさえ言える。
まぁ、あがくけどなっ!!
「ホーリー…」
マルコが光の矢を放つより速く、デーモンは大鎌を振り下ろ…
「私の仲間に手をだすなっ!!!」
ザシュッ
デーモンが大鎌を振り下ろすより速く、リオが後ろから斬りつけた。
それは致命傷になったのか、デーモンはガシャンと振り上げた大鎌を落とす。
「ヴィームス……」
デーモンは小さく呻き、そして黒い灰の塵に消えていくのだった。
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