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「ってててて…」


 落とし穴を転げ落ちたマルコは服についた土を払う。


「大丈夫? リオ?」


「ええ。」


 巻き込んでしまった自覚はあるのだろうか? リオは少しバツの悪そうな声で返事をした。


 しかし、ここは……?


 マルコは周囲を見回す。

 ここまで進んできた洞窟は少し傾斜がついており、ゆっくりと登っていた。そのためマルコは落とし穴に落とされても下のフロアに戻されるくらいに考えていたのだが…


 明らかに切り出し加工された石によって作られたきれいな石壁に石畳。壁には魔導具だろうか?明かりのついた燭台までもが掛けられている。

 先程までの洞窟とは違う。何者かに作られた場所であった。


「…ここは?」


 一目で分かる異質な雰囲気にリオがどこか不安げな声をあげた。


「えっと……」

『おいっ!!聞こえるかっ!!』


 突然、頭の中にクウガの声が響く。


『念話だ。聞こえているなら返事をしろっ!!』


 念話とは思念を繋ぎ、遠く離れた者と意志疎通を図れるスキルだ。


 そういえば聖獣と契約者の間には繋がりが出来ると言っていたな。


『マルコだ。聞こえた。ありがとう。』


『まったく、心配させおって… それで、怪我などはしておらんな?』


『ああ、大丈夫だ。だが……』


 マルコは明らかに構造物な場所に落とされたことを説明した。


『なるほど、だが安心しろ。距離自体はそこまで離されておらん。迎えに行くから大人しく待って…』


『いや、こちらも合流を目指して移動する。』


 念のため各自わずかな水や食料を持たせてはいるが、ダンジョン攻略に必要な物資のほとんどはマルコが背負うマジックバックの中に入っている。合流は急いだ方がよさそうだ。


『…わかった。くれぐれも無茶だけはするなよ。』


『わかってるよ。』


 こうしてマルコはクウガとの念話を終える。


「…ねぇ……」


 突然黙ってしまったせいだろうか?リオが先程よりさらに不安げに声をかけた。


「ごめんごめん、クウガと念話で話をしていたんだ。

 ここがなにかはわからないけど、幸い距離はそこまで離れてないらしい。先に進もうか?」


「ええ、わかったわ。」


 マルコの言葉にリオはほっと胸を撫で下ろすかのように返事をしたのだった。




 …なんか、気まずい。


 合流を目指すマルコたち。

 一応マルコも剣に手を掛けて戦闘態勢をとってはいるが、ここは今まで誰も足を踏み入れていないのか、モンスターすら出てこない。


 モンスターが出てこないのはいいことだけど…


 あまり関係の良くないリオと二人きり、会話もなく空気が重い。


「えっと…」

「ねぇ…」


 適当に話題を振ろうとした時、リオと声が被った。


「えっと、どうぞどうぞ。」


「いや、いいわよ。あんたから言いなさい。」


「いや、俺は…好きな食べ物はなにかなぁって聞こうとしただけで……」


「ぷっ…なによそれ。」


 リオは少し笑ってくれたが、すぐにまた沈黙が訪れる。


 …どうしたもんかなぁ~?


「…ねぇ。」


「ん?」


 今度はリオから話しかけてくれた。


「あんたはなんで私を助けてくれたの?」


「なんでって…」


「あんたら人間種は私たち獣人族を虫けらくらいにしか思ってないんでしょ? なのに、どうして…」


 ぽつり、ぽつりではあるが感情こもった声でリオが聞いてくる。


「…俺はリオを仲間だと思ってる。だから助けた、それだけだよ。」


「…仲間……」


 リオはぽつりと溢し、きゅっと唇を噛む。


「昔、幼馴染みと一緒にこっそり里を抜け出したことがあったの。あの子が里の外を見てみたいって言ったから、ほんとは子供は里の外に出ちゃ行けないんだけど…」


 リオはゆっくり語りだす。


「少しだけのつもりだったわ。でもはじめての里の外に興奮して、あとちょっとあとちょっとって進んでいって、気づいた時には私たちは迷子になったの。

 迷って迷って、里に帰ろうとしてたけど帰れなくて… 私たちは奴隷狩りに見つかってしまった。

 怖かった…すごく怖かった。私たちは息を潜めて隠れて、でもあの子は見つかってしまって…

 捕まって、棒で叩かれて… ぐったりしたあの子はそのまま連れてかれてしまったの。」


「……」


 リオが人間種を敵視する理由が垣間見得た。マルコは掛ける言葉が見つからず黙るしかない。


「人間種は危険なの!! あの時私がその事をちゃんとわかっていたら、あの時里を抜け出すのを止めていたら、あの子はあんなことにはならなかった!! なのに、なのにどうして…あんたは私たちに優しくするのよ……」


 感情をぶちまけるように言ったリオは泣き出しそうに言う。


「リオは間違っていないよ。」


「…なによ。」


「間違っていない。でも、正しくもない。」


「…なによそれ。」


「正しくもないってわかっているから、俺になにもしてこなかったんだろ?」


「っ! わかったようなことを…」


 ギリッとリオが歯噛みしたのが聞こえた。リオはそこにずっと葛藤していたのだろう。


「俺が追放されたって話しはしただろ?」


 しかし、構わずマルコも語る。


「俺は間違っていなかった。なにもしなければアーニエルの経済は崩壊していた。でも追放された。だからもうアーニエルの崩壊をどうすることもできない…」


 もっとも、アーニエルの人間は誰もマルコに期待なんてしていなかったんだが…


「間違っていないことは正しいことじゃなかったんだ。だから俺は……」


 見捨てることではすまない。このまま無事ローグの地が成長していけばいずれアーニエルと衝突する。ローグの地を守るために、マルコはその手でアーニエルにひどいことをしなければならない。


「…そう。」


「ああ…」


 そうして再び会話が止まった時、2人の進む先に扉が現れたのだった。

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