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「ふぁわ~… よく寝たっす。」


「おにいっ! …よかったぁ……」


「ほへ?」


 翌朝目覚めたタイガは昨晩のことをまったく覚えていない様子だった。

 なのでマルコは昨晩のことを説明する。


「まったく、心配したんだからね。」


「いやいや、たかがスライムっすよね? リオは心配しすぎっすよ。」


 他の皆はタイガが突然ドサッと倒れたところを見ているが、タイガ本人は疲れていたこともあり眠りこけてしまったくらいでしかない。


「いや、下手したら寝たままスライムに窒息させられて溶かして食われていたかもしれないよ。」


「ちょっ、マルコさん。脅さないでくださいっす!」


 そうは言いつつもタイガは軽く笑い飛ばすのだった。



 昨晩の残りで朝食も取り、マルコたちは探索を再開する。


「…?」


 洞窟の先になにやらうごめく塊が見えた。


「…なんすかね?」


「…ミャアは何か分かる?」


「オークと…おそらくスライムかなと……」


 なるほど。


 マルコはそれに近づいた。

 半分溶かされたオークとそれを取り込んだガススライム。どうやらお食事中のようだ。


「…おえっ……」


 グロテスクなその光景に誰かが嗚咽を漏らす。


「…眠らされてしまえば強い弱いなんて関係ない。タイガも俺たちも、こうなるかも知れなかったんだぞ?」


「そう、っすね… 注意するっす……」


 倒すのに時間のかかるオークが雑魚と侮ったスライムに食われている光景に、タイガも今度は素直に頷いた。


「よしっ。」


 ガススライムの危険性は皆十分伝わったことだろう。

 マルコはついでにガススライムのジェル状の身体を瓶に集める。


「ちょっ! なにやってんすか!?」


「ん? ああ、ガススライムの身体は睡眠薬にも麻酔薬にもなるからね。」


 まあ、溶かしたオークなどの不純物やオークを溶かす消化液なんかも含まれているから、一度精製する必要はあるが…


「へ…へぇ~…… そうっすか……」


 なぜか一同ドン引きの様子でマルコを見ている。


「あ、あの…マルコ様……? 危険ではないのですか?」


「? ガススライムは食事中は気化しないからね。気化しなければ普通のスライムと変わらないよ。」


 きちんとした知識があれば安全で、ちょっとの知識があれば危険を避けられ、知識がなければ知らず知らずに危険なことになる。知識とはそういうものだ。


「お手伝いします。」


「ありがとうミャア。あっ、絶対手では触らないでね。スライムは食べられる食べられないの判断しか出来ないから、食べられない瓶で触れる分には安全だけど、食べられる手とか当たっちゃうと襲って来るから。」


「うっ…気を付けます。」


 そんなこんなでマルコたちはガススライムの粘液を採取したのだった。




 さらに洞窟を奥へと進む。


「そういや、洞窟の中なのに何で明るいんすか? やっぱダンジョンだからっすかね?」


 タイガがふと訪ねてきた。


「うん、これだね。」


 マルコは洞窟の壁に生えているいくつかの苔やキノコを指差す。


「なんすかこれ?」


「ヒカリコケやヒカリタケと呼ばれる植物だよ。この子たちが光の胞子を出しているからこの洞窟の中は明るいんだ。」


「へぇ~、なんで光ってるんすかね?」


 タイガも興味深げにそれらをつつく。


「この子たちのおかげでオークとか暗闇適正のないモンスターも洞窟で生活出来るようになるからね。この子たちは光ることでモンスターに世話をさせているんだよ。」


「世話させてるって、モンスターが栽培してるってことっすか!?」


 タイガは驚き訪ねた。


「いや、普通モンスターにはそこまでの知能はないよ。でも、雑草が生えて光が陰るようになればそれを払うくらいはモンスターでもするよ。」


 つまり光ることで生存競争の敵となる他の植物を、モンスターに取り除かせているというわけだ。


「しかし胞子と言ったが、大丈夫なのか?」


 ガススライムの一件で不安になっているのだろう、戦士の1人がマルコに聞く。


「成分的には夜光草の発光成分と変わらないらしいから大丈夫だと思うよ。」


「マルコ様。それでしたら持って帰って栽培しましょう!」


 今度はミャアだ。

 今のところ照明用には夜光草を栽培している。だが夜光草は発光成分の他に隠密成分も多分に含んでいるため、うっかり傷つけてしまうなど栽培難易度はかなり高い。


「残念だけどそれは無理だよ。」


「どうしてですか?」


「ダンジョン内は俺たちが暮らしている世界と環境が違いすぎるからだよ。一番の違いは魔力の成分と濃度かな? そういった事情でダンジョン内の植物は持って帰ってもうまく育てることが出来ないんだ。」


 そのためダンジョン内の資源はダンジョンからしか入手することができない。


「そうなのですか…」


 ミャアは耳を畳んでしゅんとする。


「大丈夫だよ。ダンジョンは動かないから、必要なら取りにこればいいだけだからね。」


 マルコはミャアを励ますように優しくその頭を撫でた。

 確かにダンジョンの植物は栽培できない。しかし逆に言えばダンジョンがある土地はダンジョンのない土地には絶対入手できない資源があることになる。


 しかし、今日はずいぶんおとなしいな。


 ふと気になったのでマルコはリオを見る。こんなに猫人族の皆に囲まれていたら、普段なら舌打ちの1つくらいしそうなものだ。


「……」


 するとリオは眠たそうに目をしぱしぱさせていた。


 …なるほど。


 たしかリオはタイガを心配して昨晩あまり寝ていなかったはずだ。


 しかし、これは危ないな。


「リオは今日は少し下がって俺たちと一緒に行動してくれ。昨晩はあまり寝ていないんだろ?」


「…っ、はぁ!? なんで私があんたと行動しなきゃいけないのよ。それよりお喋りが済んだのならさっさと行くわよ。」


 マルコの言葉に目を覚ましたリオは怒ったように答え、先に進み出す。


 やれやれ、ちゃんとフォローしてやらないとな。


 カチャリ


 リオの足元から小さな音が鳴った。


「…えっ……」


 それは落とし穴の罠だった。突然開いた地面の穴に眠気から反応の鈍ったリオは飲み込まれていく。


「リオっ!!」


 マルコはとっさに手を伸ばす。


 ガシッ


 しまっ…!!


 マルコはリオの手を掴むことには成功した。だがバランスを崩し、マルコも落とし穴へと吸い込まれる。


「おいっ!!」

「マルコ様っ!!」

「リオっ!!」


 一瞬、クウガにミャア、タイガそれに他の猫人族の戦士たちの声が頭上に聞こえたが、無情にも落とし穴の扉は閉まってしまう。



 マルコとリオは落とし穴を転げ落ち、皆と分断されてしまうのだった。

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