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 いきなりだが、これからマルコが向かおうとしている『ローグの地』について少し説明しよう。

 ローグの地はここギルスール王国の辺境、アーニエル領の端に位置する土地だ。まあ、端の土地と言っても広さだけならアーニエル領の3分の2ほど占めているのだが…

 そんな広大な土地を厄介払いのように渡されるのには訳がある。

 というのもこのローグの地は大量のモンスターが跋扈し、現在無人と言われている。

 大昔にご先祖様が開拓してローグと名付けて領有権を主張した。が、開拓に行った者たちは全滅して開拓は失敗。しかし他に領有権を主張する者がいないため、アーニエル領として扱われているだけの土地だからだ。



「本当にお祖父様、様々だな。」


 買い出しのためにマルコは街を歩く。

 そんな土地に行くと言うのにマルコの少ない貯えでは当面の食料費くらいにしかならないところだった。


 さて、自給自足のために開墾の必要があるだろう。鍛冶屋に行って斧や鎌、鍬… モンスター対策に剣、錬金用に釜なんかも欲しいな。


 2人の兄と比べて『才能の出涸らし』と呼ばれるマルコだが剣も魔法も並み以上には使える。

 実は学園時代の成績ではあるが、マルコは全科目で100点満点中90点台の秀才だったりする。ただ比較対象の兄たちが自身の得意分野で100点満点中150点とるような存在であったため、箸にも棒にもかからない扱いを受けているだけだ。


 そんなことはさておき、無事鍛冶屋を見つけたので中に入る。街中もそうだったが今日は店内も平時と比べてかなり賑やかだ。


 成人の儀なんかがある春のお祭りを控えてはいるが… それにしてはいささか気が早いというか、なにかめでたいことでもあったのか?


 ともあれ、賑やかなことに悪いことはない。

 自分がいなくなり、市井の人々の生活を心配に思っていたマルコだったが、活気のある様子に少しホッとする。


「ん?」


 まず目に止まったのは鋼の剣だ。

 安さで言えば鉄製だが、使用頻度を考えるとそれだと強度に不安がある。かといってミスリルなどダンジョン産の希少金属製を買えば他の予算が無くなる。


 だが目に止まったのには別に理由がある。

 おそらくここの鍛冶士の弟子の作品だろうか? 雑に並べられ、1本幾らと安価で売られている剣の中に1本だけ業物が並べられている。

 手にとって見ても銘などはなく、意匠も他とは代わりがないが間違いなく他とは非なる業物だ。


「オヤジさん。これもこの値段で良いのか?」


「ほぉ、よく気づいたな。」


 マルコが訪ねると店主の男はニカッと笑って答えた。


「他は弟子が打ったやつだがな、それだけは手本として俺が打ったやつだ。まっ、気づいたご褒美でその値段で良いぞ。」


「なっ!?」「ずりぃぞっ!!」


 その言葉に店内にいた買い物客の剣士たちが声を荒らげた。


「バカモンっ! 本当はお前らの目を鍛えるサプライズのつもりだったが、お前らと来たらしょっちゅう来とるくせにちぃっとも気づかんかったろうが!!」


「すまねぇ…」「ごめんよ、オヤジさん……」


 しかし剣士たちも店主に一喝されるとすぐにおとなしくなった。


「あと、斧と鎌、鍬と釜が欲しいんだが?」


「お前、農夫になるのかよ!?」「オヤジさんの剣が勿体ねぇ、噂知らねぇのか??」


 注文から農家になるのを悟った剣士たちに詰め寄られる。


「噂?」


「何でも無能の三男坊がようやく追放されたらしいぜ。」「ああ、足を引っ張る穀潰しが居なくなるからこれからはアラン様の時代が来るぜ。」


「…へぇ……」


 『無能の三男坊』『足を引っ張る穀潰し』とはマルコのことだろう。


「どうだ? 俺たちとアラン様の騎士団に入って一旗揚げねぇか?」


「…いや、放棄されて久しいとは言え、先祖伝来の地を父に託されたからな。さすがにご先祖様に顔向けが出来んよ。」


 嘘は言っていないが誤魔化すように、マルコはよくある話を語る。


「なんと孝行な話だ。うちのどら息子にも聞かせてやりたいくらいだぞ。まったくあいつと来たらちっとも仕事を手伝わんと遊んでばかり… 役立たず殿が居なくなってこれから忙しくなると言うのに……」


 ぶつくさ言う店主から商品を受け取り店を去る。


 その後寄った種苗屋でも似たようなことを言われた。こちらはアランではなくロレンソで、息子を学校に通わせている親から、マルコが追放されてこれからは学者、ロレンソの時代といった感じであったが…



 嫌でもわかる。今日、街中が賑やかなのはマルコの追放を祝ってのことだ。


「…ははっ。」


 乾いた笑いがこぼれる。兄たちの予算を増やすことは簡単だった。税を上げれば良い。さいわいアーニエルには伯爵として使って良いが使っていない税の名目はいくつもあった。だがそれを使わなかったのは領民の収入が他の伯爵領と比べてかなり低いので、マルコが使わせなかったからだ。

 領民を思っての行動であったがその思いは届いておらず、むしろ邪魔者と思われていた。


「なんかスッキリした気分だな。」


 無事買い物も終わったこともあって気分は晴れやかだ。これでもうなんの躊躇いもなく見捨てられる。



「私の声を聞くのです。アーニエルの民よ! バルドル様のお言葉を!!」


 うげっ


 気分よく旅立とうとしているところ、広場から嫌な単語が聞こえてきた。


 聖バルドル教。人間至上主義を掲げ、それ以外のエルフやドワーフ、獣人たちを悪とする宗教だ。その教えに則り、他種族の店を襲撃するなど騒動を起こしたため、マルコが布告を出して領内での一切の宗教活動を禁止したほどだ。


「こらっ! 貴様らの布教活動は禁止されているぞ!!」


 当たり前だが、宣教師は目立つ広場で活動しているので衛兵たちがすぐに止めに駆けつけてくる。


「我々の活動を不当に妨害していた悪の手先、マルコは追放されました。聡明なる領主様は目を覚まされたのです。アーニエルの民よ!今度はあなた方が目を覚ます時なのです!! 偉大なるバルドル様のお言葉を受け取りなさい!!」


 取り押さえようとする衛兵たちを無視して宣教師は叫ぶ。


「大丈夫よ、ロレンソ様がすぐに何とかしてくれるわ。」「アラン様に任せておけばあんな奴らすぐに居なくなるぜ。」


 さいわい先導される者はなく、民衆たちは面倒くさそうに遠巻きにそんなことを言っている。


 まあ、家族の誰もが狂信者の相手を嫌がったから自分が布告を出すことになったんだがな…


 それを思い出すと彼らの今後が不安になるがマルコにはもうどうでも良いことだ。


 …それより、ローグが隣接している他国は彼らの総本山、聖バルドル教国だったよな……


「…はぁ……」


 一つ頭痛の種を思い出しつつ、マルコは街から、そしてアーニエル領から旅立つのだった。

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[一言] と思ったら領民も馬鹿だった
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