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洞窟内はあまり広くはない道が要り組み、確かに迷路の様相を呈していた。
「しっかし、余裕っすね~。」
「はいはい、おにい。また来たわよ。」
「へぇーい。まぁパパッと済ませるっすよ。」
マルコたちの前にゴブリンの集団が現れたが、タイガたち猫人族の戦闘員たちには楽勝ムードが漂っている。
実際、ここまでは楽勝で進んでこれていた。
「……」
そんな軽い空気の中、マルコは警戒を強める。
層が変わり環境が変わったのだ。生態系そのものが違ってもおかしくない。今はまだ、洞窟に入ってそこまで進んでいないこともありゴブリンも混ざっているだろうが、一般にダンジョンは奥へ行くほどモンスターは強くなる。そんな強力なモンスターがいつ現れてもおかしくないのだ。
その事を告げないのはそこまでマルコが猫人族たちに信頼されていないからだ。クウガの契約者なので軽くあしらわれることはないが、芯まできちんと理解はしてもらえない。
だからマルコがそれに一番に反応が取れた。
「ブビヒィィィィィイイっ!!!!」
洞窟を揺らす咆哮のような雄叫び。
「なんだ…こいつは……??」
2mは軽くあるどっしりとした巨体に豚の頭をしたオークと呼ばれるモンスターがそこにはいた。
突然の登場にゴブリンたちは怯えて震え、猫人族たちも唖然と立ち尽くしている。
無理もない。オークとマルコたちに挟まれたゴブリンたちは逃げ場をなくしており、猫人族たちも未知との遭遇なのだ。
普通、野良モンスターとなるのはダンジョンの浅いところで生活する雑魚モンスターであり、ダンジョンでも少し深いところで生活する中堅クラスの強さのモンスターであるオークは、ダンジョン攻略を生業とする冒険者でないとみたこともないものなのだ。
「ブヒィィィっ!!」
ブンと振るわれた丸太のようなオークのこん棒が、怯えて震えるゴブリンをグシャリと潰した。
そして、
バクッ、ゴキバリ… ガブッ、ムシャムシャ…
「くっ…食ってやがる……」
「…おえっ……」
モンスターとはいえ、二足歩行の人型モンスターであるオークが同じく人型のモンスターのゴブリンを食べている姿は、正直ひどい嫌悪感を覚えた。
「なにをやっている! ぼおっと固まったままだとただの的だ! すぐに散開っ!!」
マルコの指示に猫人族たちは跳び跳ねるように動き出す。
「ミャア、周囲の状況は?」
「えっと、こちらには気づいていませんが右の道の奥に3体のモンスターがいますっ!」
「よしっ、ではそこの5人は右の道の警戒。タイガとリオは正面のオークの相手を頼むよ。」
動揺している中にテキパキとした指示が飛んできたせいか、猫人族たちは素直にマルコの指示に従った。
「って! こんなデカブツの相手ってどうすりゃいいっすか!?」
「オークは見た目の通りでかくてパワーがあり、固くてタフだ。でも動きはトロくて頭も悪い。片方が注目を集めて囮になり、もう一人が死角から攻撃すればいいよ。」
「了解っす!!」
そこからの戦いは順調であった。
オークは丸太のようなこん棒をブンブンと振り回すが、俊敏なタイガたちは余裕でかわし、隙を見て攻撃を叩き込む。とはいえオークの固さやタフさに加えて、残念ながら猫人族たちの武器の質はあまりよろしくない。
しかしそこはマルコが的確に指示を出し、標的が移りそうなときは攻めと囮をスイッチさせる、強力な技が来そうな時は溜めを潰させるなどしたため、時間はかかりはしたが結果は封殺であった。
「お疲れ様。」
「びびったっすよ。」
「……ふんっ。」
戦闘を終えた2人が少し息をきらせて戻ってきた。
「なんなんすか? あのオークってモンスター?」
「ダンジョンの中層に生息しているモンスターだね。野良モンスターになることは滅多にないし、かといって深層に生息するオーガとかと比べると強くないからあまり話題にならない。」
「へぇ~。」
「でも悪食で大食漢。実際野良モンスターになると1匹で小さな町の畑を未成熟の物含めて3日で根こそぎ食い尽くしたって逸話があるくらい、脅威度の高いモンスターだよ。」
ローグから流れ着く野良モンスターの被害のあるアーニエル出身のマルコだから、冒険者ではないのに知っていたのだ。
「だからゴブリンを共食いしたんすね。」
思い出したようにタイガが言う。
「いや、それは違うよ。
モンスターってのは仲間じゃない。『モンスター』ってのは『動物』と同じくらいざっくりしたカテゴリーだから。オークがゴブリンを食べたのは狼が鹿を食べるようなものだよ。」
むしろモンスターの方が喰い合いは多い。
「それより皆、ひとついいかな?」
マルコは全員の注目を集める。
「武器の質が良くないからここからは皆の連携が重要になってくる。だから俺が指示を出すから皆はそれに従って欲しいんだよ。いいかな?」
「了解っすよ!」
タイガが即答し、他の猫人族たちも一度顔を見合わせはしたが静かに頷く。
1人を除いて、
「…ふんっ。」
「リ~オ~?」
1人そっぽを向いていたリオにタイガが近づいた。
「さっきの戦い、マルコさんの指示があったら戦いやすかったっすよね?」
「…」
「もしなかったらもっと時間かかってたっすよね?なんなら大怪我してたかもしれないっすよね??」
「あーもう!うっさいバカにぃ!!」
リオは顔を真っ赤にしてマルコを見た。
「わかったわよ!あんたの指示に従うわよ!でもおかしな指示には従わないから!いい!わかった?!!」
「ああ、わかったよ。」
こうしてマルコたちはさらに奥へと進むのだった。
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