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「では、留守の間村のことは任せます。」
「ああ、承知した。」
マルコはヒューマに軽く挨拶を済ませる。
マルコたちはこれから猫人族の精鋭と共にダンジョンの攻略に向かうことになっていた。
ダンジョン攻略と言ってもこれまでやっていた雑魚モンスターの数減らしではない。それはクウガたちのおかげで十分な成果があったと判断し、さらに奥へ、可能ならばダンジョンコアの回収を目的としたダンジョン攻略に向かうつもりだ。
もちろんそれには長い時間、半月、あるいは1ヶ月以上留守にすることとなるだろう。そのため留守の間のことをマルコはヒューマに託したのである。
「それじゃあよろしくお願いするよ。」
「うすっ、よろしくっす!」
「…ちっ……」
マルコは旅の仲間の精鋭たちに挨拶する。
10名ほどの精鋭の中にはタイガとリオの姿があった。
「…ったく、なんであんたもついてくるのよ?」
事前に伝えてはいたが、リオは納得のいかない様子で言う。
「まぁ、箔付けだな。」
マルコはあっさり答えた。
一応父であるアーニエル伯爵から独立許可の書面は貰っているとはいえ、王家に領主として認められるためにダンジョンを攻略したメンバーの1人に居たい。
「はぁ!? そんなのお得意の口先で誤魔化せばいいでしょ??」
「そういうわけにはいかないんだよ。王家には嘘を見破るアーティファクトがあるから。」
アーティファクトとは簡単にいってしまえばとても強力な魔導具のことだ。神が作り授けたとされるほど、貴重で現在では再現不可能な宝具である。
「…ふんっそんなことで足引っ張らないでよね。」
「大丈夫ですよ。マルコ様はお強いですから!」
「そうだぞ。こやつには我の力の一端を預けてある。」
ミャアやクウガがフォローしてくれるが、同族や敬愛する神に人間種の危険性という自身の訴えが届かないことが悔しいのだろうか? リオの機嫌はさらに悪くなる。
「まあまあ、といっても俺の戦闘能力は皆に敵わないからね。大人しく雑用とサポートをさせて貰うよ。」
お世辞でもなんでもない。獣人族は素の身体能力の時点で他種族より高いことが多く、猫人族なら瞬発力などの敏捷性や戦いのセンスがずば抜けて高い。
具体的には猫人族の一般人は他種族の訓練を受けた兵士並み、目の前のリオたちのようなある程度の経験を積んだ者なら他種族の精鋭兵並みの戦闘能力をもっている。
「…ならいいけど…… ホント邪魔だけはしないでね。」
「おいっ!リオっ!! …すみませんマルコさん、後できつく言っとっす。」
「いや、いいよ。それじゃあ出発しようか?」
こうしてマルコたちのダンジョン攻略は始まった。
「おにいっ!」
「あいよっと!」
兄妹の素晴らしい連携でゴブリンの上位種、ゴブリンナイトがあっさり切り伏せられた。
ダンジョン内の森はきちんと管理されたダンジョンと比べればモンスターの数は多いが、前回のようにまともに進めないほどではない。この感じであれば夜営も問題なくできそうだ。
しかし……
マルコは猫人族の戦いに少し思うところが浮かんだ。
見たところ連携が出来ているのはタイガ、リオの兄妹のみ。個々の高い戦闘能力で確かにモンスターを圧倒している。ダンジョン攻略、対モンスターならば問題ないが集団戦のエキスパート、軍隊を相手にすることを考えると…
「どうかしたっすか?」
「いや、さすがだなと思っていただけだよ。」
「へへっ、そんなこと~あるっすよ!」
タイガが得意気にチャラける。
先のことを考えるのはまた後だ。今はダンジョン攻略に集中しよう。
「クウガ、道はあっているか?」
「ああ、先に大きな山が見えるだろ? あそこに洞窟があり、そこが第2層の迷宮ダンジョンになっている。」
前回はあまり遠くを見る余裕もなかったため気が付かなかったが、代わり映えのしない森の景色、鬱蒼と繁る枝葉の向こうに確かに鋭く切り立った大きな山が見えた。
なるほど。このダンジョンの1層目はこの森、2層目があの山内部の迷宮というわけか。
「その先は?」
「ああ、迷宮を登っていくとやがて山頂近くの雪山に出る。そこが第3層の雪山ダンジョンで、山頂にダンジョンコアのある祠がある感じだ。」
聞いただけだと登山で2層目の迷宮ダンジョンをスルー出来そうだが、実際に急傾斜な山を見るだけでそれは不可能だとわかる。
「なあなあマルコさん。迷宮って言うことはやっぱお宝もあるんすかね?」
話を聞いていたタイガが訪ねてきた。
「うーん、どうだろうね。未開のダンジョン攻略にはアーティファクトの宝具の話がわりと付き物なんだけど…」
「マジっすか!? うーっ俺楽しみっす!!」
タイガは子供のようにはしゃぐ。
「そうは言っても番人と呼ばれる強力なモンスターもセットだからね。残念だけど今回の目的はあくまでダンジョンコアの回収だから、スルーできるならスルーするよ。」
「えー、そりゃないっすよ。お宝はロマンっすよ?」
タイガはそういって口を尖らせた。
まったく…
とはいえ変に緊張してガチガチになっていないのはいいことだ。
「はいはい。まぁ余裕があったらな。」
「うしっ! 約束っすよ!!」
タイガはニカッと笑う。
その後、マルコたちは順調に進み、翌日の昼過ぎには第2層の迷宮入り口の洞窟に到着するのだった。
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