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「助かったよ、クウガ。」


「いや、なに。このくらい朝飯前だ。」


 マルコはクウガと共に開拓の進む村を歩く。

 クウガたちダンジョン攻略班は穢れを避けるため、3日ダンジョンに入ったら1日お休み。この日は休日であったため、マルコはクウガに魔力を借りていたのだ。


「マルコ様、すごかったね~。」

「ねー。」


 猫人族の子供たちが楽しそうに話している。

 マルコが今日、クウガの力を借りてやったことは聖光木の挿し木兼植え付けだった。

 聖光木は野良モンスター避けにも聖水の原材料にもなる重要な植物なのだが、子供たちは地面に挿した枝が魔法でにょきにょき成長する様が純粋に楽しかったようだ。


「…ちっ……」


 その様子をリオが不満げに遠巻きから見ていた。

 マルコが子供たちから評判を上げているのが気に食わないのだろうか? 違う。リオは人間種が危険だと知っている。だから子供たちをマルコに近付けたくないのだがヒューマたちに釘を刺され、そうすることが出来ず歯がゆいのだ。


「…ふんっ!」


 一瞬、マルコと目があったのだがリオはすぐに反らしてしまった。


 ははっ、嫌われてるなぁ……


 しかし、リオの人間種への敵対心は他の猫人族たちと比べて特に強い。過去に何かあったのだろうか?


 まぁ、聞き出せる関係でもないし、何かしらのトラウマをほじくるようで趣味も悪い。


 マルコは開拓の進む村を見渡した。

 テントは減り、簡素であるが家が増えた。

 家と言っても本当に簡素なものだ。丸太を積んで壁を作り、藁や枝で屋根を作っただけ。中も狭くて藁と毛皮で作った寝床と煮炊きの焚き火くらいしかない。


 とりあえず、丸太の集積所と木挽き場の手配はして今皆で作っているところ。丸太の乾燥が済めば板材はなんとかなるとして… 問題は石材か……


 山の方へ行けば石材は手に入りそうだが、大量に必要なことを考えると森を切り開いて道を作る必要がありそうだ。


「マルコ様、どうしました?」


 頭を悩ませ、厳しい顔になっていたのだろうか? ミャアが少し心配そうにこちらを見ていた。


「いや、何でもないよ。」


 そういってマルコはミャアの柔らかい髪を撫でる。


「? 見てください、マルコ様。あそこでも家を作っていますよ。」


「そうだね。」


「みんなの家ができた頃には果物や野菜も収穫出来るでしょうか?」


「たぶんね。頑張ればその頃にはダンジョンの攻略も終わってるかもね。」


「じゃあまたお祭りやりませんか?」


「?」


 お祭りなんてやったっけ?


「みんなで集まって、焚き火を囲んで、美味しい物を食べて…」


「ああ、」


 そっか、奴隷だったミャアにとってはあれがお祭りなんだ…


「そうだね、やろっか。今度は魚料理も出したいから、その時は大物をたくさん釣ってね。」


「はいっ!任せてくださいっ!!」


 いつか、パレードもあって花火を上げて屋台もたくさん並ぶ、そんなお祭りも見せてあげたい。


 まぁ、だいぶ先になりそうだな…


 領民は平和な今に幸せを感じてくれればそれでいい。未来に頭を悩ませるのは領主の仕事だ。


 …ん?


 マルコの目の先ではコタロとタイガがなにか話し込んでいるようだ。


 コタロは色々と資材や調味料などを買い付けて来てくれたので、またクウガたちが集めてくれた魔石を売り、木挽き場用の鋸などの買い付けを頼んだのだが……


 しばらくするとコタロが首を横に振り、タイガがとぼとぼこちらへ戻ってくる。


「どうした? なにか必要なものでもあったのか?」


「マルコさん!? いえ、たいしたことじゃないっすけど…」


 マルコが声をかけるとタイガは驚いたように答えた。


「必要なものなら予算をつけて用立てるよ?」


「あっ、いえ… ほんとそういうことじゃないっすから。」


「? まぁならいいのか?」


「はい、ほんとそういうことじゃないっすから…」


 どうやら欲しいものがあるというわけではないらしい。

 しかしタイガの様子は明らかにいつもと違う。なにかあったのだろうか?


「っと、その… マルコさん。ちょっと話いいっすか?」


「? ああ。」


 マルコが適当な木陰に座るとタイガも隣に座った。


「…で、話って?」


「えっと、その… ギルスール王国の人たちって俺たち獣人族のことをどう思ってるんすか?」


「……正直に答えていいのか?」


「…それが聞きたいっす。」


「…可哀想な人たち、だよ。」


「っ!そんなっ!!」


 マルコが正直に答えるとタイガはぎりっと拳に爪をたて、声を荒らげる。

 勝手に奴隷化して、勝手に可哀想扱いするのだ。タイガの怒りもわかる。


「…でも、そう… そうっすよね……」


「…ああ。」


 しかしタイガはマルコが何も答えずとも怒りを納めた。


「…それは俺たち獣人族が奴隷だったからっすか?」


「…そうだよ。」


「はぁ、なんで俺たちは奴隷にされるっすかね?」


 どこか少し諦めたかのように、タイガは乾いた笑いでマルコに訪ねた。


「…それは獣人族が国を持たなかったからだろうね。」


「……国?」


 獣人族は部族単位で生活しており、国と呼べる大きな組織は持っていない。


「ああ、だから人間種、エルフ、ドワーフが国を作り、版図を拡大した時代、獣人族は飲み込まれて奴隷化されていった。

 残念だけど、エルフやドワーフが獣人の奴隷を廃止し、人間種でも廃止が進む今でも、獣人族を奴隷種族、可哀想な種族と下に見る風潮は無くなっていない。」


「…やっぱマルコさんもそう思ってるんすか?」


「いや、違うよ。」


「えーでも、異常なくらい良くしてくれてるじゃないっすか?」


「あー、それは税収のためだな。皆の生活が上手く行かないと税をとれないだろ?」


「税収って、なに守銭奴みたいなこと言ってるんすか?」


 冗談だと思ったのだろう。タイガは笑って言った。


「?冗談ではないよ。税収が無いと領として機能しない。領として機能しなければ国の一部と見なされない。国でないのなら……バルドルに飲み込まれる。」


「っ!!」


 もちろん領土を狙った侵略戦争なら大事になる。だが猫人族を狙った人狩りなら、見て見ぬふりで済まされる可能性が高い。


「自衛のための戦力を整えるのにも金が要る。仲間を増やすための外交にも金が要る。それらを賄うための内政にも金が要る。…そういう話だよ。」


「…そう、っすね……」


 マルコは金にがめつい自覚はあるが守銭奴ではない。ただ領という大きな視点で物を見ればそれだけ大きな金が要るだけだ。


「それで、話ってのはいいのか?」


「…いや、いいっす。」


 てっきり本題を切り出せずにふった話題だと思ったのだが、タイガは妙に清々しそうに答えた。


「マルコさんと話して自分がどんだけ世間知らずかわかったっす。よかったらまた話聞かせてもらってもいいっすか?」


「ああ、いいよ。」


 吹っ切れたようにニカッと笑うタイガにマルコはそう答えたのだった。

ブクマ、評価、いいね、ありがとうございます。


本当はとっくにダンジョン攻略してると思ったのに…… ドウシテコウナッタ

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