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「いと心優しき緑の精よ。芽生えの驚きを、育みの嬉しみを、実りの喜びを、我に教え給え。…グリーン・グリーン。」
「「おおーっ!!」」
マルコの魔法に猫人族たちはどよめき驚きの声を上げた。
住人が大幅に増えたのだ。食料の安定供給は必須。
そんなわけでマルコは再び畑造りに精を出していた。
「…ふぅぅー、」
マルコは大きく息を吐き、額に浮かんだ汗を拭う。
今日のところは、畑はこんなものかな?
100名もの大人数となると畑の広さもそれ相応の広さが必要だ。さらに蓄えがあるとはいえ普通に育てたら収穫まで持たない。間に合うように魔法でブーストをかけたため、かなりの魔力を消費してしまった。
一応、マルコは聖獣であるクウガと契約しているため、その膨大な魔力をマルコも利用することは出来る。
しかし当のクウガはタイガやリオたちとダンジョンに向かっている。やっていることは雑魚モンスターの数減らしで魔力を必要とする事態にはならないだろうが、マルコは念のため自身の魔力のみを使い、クウガの魔力は使ってはいない。
さて、次は薬でも作っておくか…
猫人族たちは逃亡生活が終わり安堵している。だがそういう時はたまった疲労と安心感からくる緊張の緩みで体調を崩しやすい。そしてまだテント生活をしなければならない彼らはちょっとした風邪でも重症化のリスクがある。
もちろん重症化する前にマルコたちの家に病人を受け入れるつもりではあるが、十分な治療をするためには薬は必須だ。
となると、必要な材料は薬草にネギに生姜に…
「……様っ…」
今ある材料で作るとなるとそこまで劇的な効果は望めないなぁ…
「…様っ、マルコ様っ!!」
「うおっ!?」
ぐいっと腕を引かれて我に帰る。
「っと… ミャア? なにかあったのか??」
「なにかあったのか??じゃありません! 休憩を!!」
ミャアは少し怒って言う。
しまった、確かに今日はずっと手伝ってもらってばかりで休憩してもらっていなかった。
どうしてもやるべきことに集中してしまい周囲が見えなくなるのがマルコの悪いところだ。アーニエルにいた頃、部下に嫌われていたのはこれも原因だろう。
「ごめんごめん、それじゃあミャアは休憩してて。俺はちょっと錬金術をしてくるから。」
「そうじゃありません!!」
「ん?」
「マルコ様が休憩してください!!」
「でもなぁ…」
時には無理も無茶もしなくてはならない場合がある。
「でも、じゃありません! さっきもぼぉっとしていましたし、今も少しふらふらしてます!!」
「それはほら、軽い魔力切れなだけで…」
アーニエルにいた頃はいつも徹夜で寝不足、食事も仕事の合間に軽食を流し込むだけで栄養失調気味、おかげでふらふらなことは日常茶飯事だった。
「ダーメーですっ!休んでくだ…」
「マルコ様。」
そんな2人にコタロが声をかけた。
「少しお話があるのですが…」
まだマルコを働かせる気なのかとミャアはコタロを警戒する。
コタロはそんなミャアをちらりと見た。
「休憩がてらお茶でもどうですか?」
まるで意図はわかった、後は任せろと言わんばかりにコタロは言うのだった。
「すまんな、こんなものしかなくて。」
「いえ、こちらこそ手土産に茶葉くらいご用意しておくべきでした。」
家へ戻り、ただの水を出したマルコにコタロが答えた。
順調に育っていれば果実水を出せていたが、あいにく果樹はモンスターにやられてしまった。収穫できるのはもう少し先になりそうだ。
「…ところで、話とは?」
しばらく休憩がてらの雑談をした後、マルコは本題を聞く。
「ええ、そうでした。猫人族の皆様は無事バルドルから脱出出来たことですし、私共は一度巫女様へ報告に戻らせていただこうと思いまして…」
確かに、コタロたち狐人族は九尾商会の者であくまで救援に来ただけだ。いつまでも留めておくわけにはいかないな。
「もちろん、皆さま方はあれこれご入り用でしょう。報告後はまたすぐに立ち寄らせていただきます。」
ありがたい、猫人族たちは本当に最低限の生活必需品だけを持っての逃亡であったし、マルコの持ち込んだ道具だけではどう考えたって足らない。
かといって自分たちで用意しようにも、製鉄所など、道具を作る施設を造る資材も道具も足らないというどうしようも無い状態であった。
「っと… それなら買い取ってもらいたいものがあるんだが…」
マルコはこれまでに集めた大量の魔石をコタロに差し出す。
魔石は主に魔導具の燃料として取引される。そして魔導具は高価ではあるが、都市部ではコンロやシャワーなどの家具として利用されている。常に一定の需要があり、さらに都市の発展に比例して需要も増す。元々腐るものでもない魔石は大量に売っても値崩れしにくい良い商品なのだ。
「これは、小型の無属性の魔石… ゴブリン由来のものですか?」
一応、魔石はモンスターごとに属性が異なる。そしてその属性によって効果が異なり、例えば火属性の魔石を使えばコンロなどの火を使う魔導具は燃費が良くなり、水属性の魔石を使えばシャワーなどの水を動かすポンプを使う魔導具は燃費が良くなる。しかし逆に相性を間違えれば燃費は悪くなる。
問題なのはほとんどの市民は魔石の見分けがつかないことだ。
おかげでどんな魔導具でも一定の燃費となる無属性、そして一番安価で手が出しやすい小型の魔石は常に高い需要があるのだ。
「さすがだな。」
「お褒めにあずかり、光栄です。と言いたいところですがこれでも商人ですので…」
属性はわかっても由来のモンスターまではわからないマルコは素直に褒めたつもりであったが、確かにコタロは世界最大級の九尾商会の商人だった。
とはいえ馬鹿にする意図が無かったことはコタロにも伝わっていたようで、とくに気分を害したかのような反応はない。
「…それではこの額でいかがでしょうか?」
「…本当にいいのか?」
コタロの示した額はほぼ相場と言ってもいい額だった。
相場なら当たり前に思うかも知れないが、ローグは辺境の辺鄙な土地だ。こんな場所で相場の買い取りをすれば輸送など様々なコストを引いたら儲けはほとんどでないだろう。
「ええ、マルコ様や皆様とはこれからも末長く良い付き合いをしていきたいと思っておりますので。」
コタロはそういって笑顔を見せた。
これは別の意味でもありがたい。あくまで相場というラインを弁えて法外な高額をつけなかったのは癒着を強いる意思はないという意思表示だろう。
「とはいえ、大変申し訳ありませんが今回は救援目的であったため、買い取るのに十分な額を持ち合わせておりません。買い取りは次回来訪時でもよろしいでしょうか?」
「そうだな… いや、ここはコタロを信用して魔石は預けよう。そしてこちらの必要な物を買ってきてくれると助かるのだが…」
次来てくれる時にはクウガたちがまた魔石を貯めていてくれるだろう。今回はさっさと売って買い付けまで済ませた方が良いとマルコは判断した。
「それではお任せください。
それで何がご入り用ですか?」
「そうだな… そうだっ! ごめんミャア、ちょっとヒューマを呼んできてくれないか?」
「お任せくださいっ!!」
こうしてマルコたちは今後に必要なあれやこれやを調達する手はずを整えるのだった。
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