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 夕食も一段落した頃。


「おいーっす、マルコさん。」

「…ふんっ。」


 マルコが声の方を振り向くとタイガとリオが数名の大人を連れて来ていた。


「タイガにリオじゃないか。どうしたんだ?」


「別に私はあんたに用なんてないわよ。」


 マルコの言葉にリオは相変わらずつれない態度だ。


「こらっリオっ!

 っと、マルコさん。夕飯はごっそさんしたっす。」


「ああ、その事か。気にするな、別に3人じゃ食べきれないほどあるからね。なんなら明日も持っていっていいよ。」


「ありがとうございます。ゴチになるっす!」


「んんっ!」


 軽く返事をしたタイガの後ろで壮年の猫人族の男が咳払いをした。


「あっ、そうっした。マルコさん、親父がなんか話がしたいそうなんで連れてきたっす。」


「タイガとリオの父でこの一族の族長をさせてもらっているヒューマだ。同族の保護と此度の援助、一族を代表してお礼申し上げる。」


 壮年の猫人族の男、ヒューマはマルコの前に出るとそう言って深々と頭を下げた。


「あっ頭をあげて下さい。タイガにも言いましたが食料は余っているので気にしないで下さい。

 …それよりも、あなた方に何があったのか、聞いてもいいですか?」


「それは……」


 ヒューマはきゅっと唇を噛み、タイガは哀しそうな表情を浮かべ、リオは忌々しげな眼で遠くバルドルの方角を睨む。


「私からご説明させていただいても宜しいでしょうか?」


 ヒューマの後ろから眼鏡をかけた1人の男が前へ出てきた。

 その男も獣人族だが、猫人族とは種族が違う。頭の上には狐耳、尻尾もふっさり膨らんだ狐の尻尾、狐人族と呼ばれる種族であった。


「はじめまして。私、九尾商会のコタロと申します。」


 九尾商会とは狐人族が運営する、世界最大級の商会だ。もっとも商会といっても店舗は無くキャラバンであるが、金儲けとなれば戦場から王宮までどこへでも現れる神出鬼没で謎の多い存在である。

 わかっていることは、そうして稼いだ金で他の獣人族たちの援助を行っているということくらいだ。


 そんなヒューマたちとは一歩離れた立場だからだろうか、コタロは落ち着いた声で何があったのかを語る。


 元々ヒューマたちは聖バルドル教国内の隠れ里でひっそりと暮らしていた。

 しかしある日、隠れ里は見つかり、バルドルの兵たちによる襲撃を受けることになる。

 田畑は荒らされ、家々は焼かれ、ヒューマたちは逃げ惑うように故郷を追われた……


 コタロが語るたびに、ヒューマたちの顔の陰が濃くなるのが見える。

 無理もない。故郷を奪われるのは単に土地を取られるだけではない。

 大切な人と過ごした思い出の過去を奪われ、疑いようがないほど当たり前で当たり前な今を奪われ、幸あれと願い祈った未来を奪われた。


「というわけで、我々は襲撃とこの地に聖獣様と助けとなってくれる者がいるとの巫女様の予言を受け、彼らの元を訪れていたのです。」


「ん? 巫女とは……」


「おっと、聞かなかったことにしてください。」


 マルコの質問にコタロは少し芝居がかった風に答えた。


 巫女とは狐人族にいるとされる『星詠の巫女』のことだろう。未来を知ることが出来ると言われているが狐人族しか本当に存在しているかも知らず、公然の秘密となっている存在だ。


 …ありがたい。


 マルコは内心でコタロに頭を下げる。

 正直、バルドルの同じ人間種であるマルコはヒューマたちにかける言葉が見つからなかった。それを汲んでか、コタロはわざとコタロは巫女の名を出して話題と空気を変えたのだ。


「そういえば、マルコさんはどうしてこの地に?」


「ああ、実は……」


 マルコは半ば追放気味にこの地の領主として送られてきたことを説明した。


「えっ!? マルコさんが領主なんすか!? えっと……マルコ様って呼べばいいっすか??」


「いやそのままでいいよ。領主って言っても見ての通り俺とミャアとクウガの3人で領って呼べるほどのものでもないから。」


 慌てたタイガにマルコはさらりと答える。


「…てことはあんたを殺せばこの地は私たちのものに出来るってわけね。」


「こっこらっ!!リオっ!!!」


 そんなマルコにボソリと言ったリオにさらに慌ててタイガが叱る。


「うーん… それは難しいかな。アーニエルからこの地を受け取ったのはあくまで俺だし。ギルスール王国は獣人族に寛容とはいえ、獣人族の領主を認められるほどの段階ではない。だからといって独立しようとすればバルドルの矛先がこっちに向くわけで… そうなる前にギルスール王国も君たちを滅ぼさなければならなくなるよ。」


「……ちっ…」


 マルコの言葉をちゃんと理解出来たからだろう、リオは舌打ちするに止まった。


「すまんな、マルコ殿。リオには後できつく言っておく。」


「いえ、いいですよ。」


 頭を下げたヒューマにマルコは平然と答えた。

 あんなことを言われても別にリオを嫌気を覚えることはない。リオは幼く若いのだ。

 幼いから人間種とマルコを分けて考えられない。若いから迫害を受けた自分の憎悪を正しいものとしてそのまま表に出してしまう。


 どうするもこうするも、マルコがこれからの行動でわかってもらうしかない。


「…時に相談なのだが…… どうか我々をこの地に受け入れてもらえないだろうか?」


 ヒューマが神妙な面持ちで切り出してきた。


「もちろん、それが俺とクウガの契約ですから… と言いたいのですが……」


 マルコはダンジョンの問題を彼らに話す。

 現状ではモンスターズナイトが発生すれば彼らを守りきることは不可能と言ってもいい。


「それじゃ俺らがダンジョン攻略手伝うっすよ!」


「いや、それは……」


 確かに戦闘能力の高い彼らが仲間となってくれるのは助かる。だがそれは彼らに危険が伴うし、頼り過ぎではないか?

 一応、マルコもアーニエルと交流深いマールやキナリス、それに学園時代の学友など、これまでのツテを使えば全員1ヶ所は無理でもバラバラにはなるが彼ら全員の受け入れ先を見つけることは可能だ。


「ダンジョン攻略でモンスターと戦えばレベルは上がるっす。…今回の件で逃げることしか出来なくて力不足を痛感してたっすから一石二鳥っす!

 それにコタロさんらのおかげでみんな無事だったっすから出来たらこのまま一緒に暮らしたいっす!!」


 ずいっとタイガが前に出て言う。

 後ろではヒューマも頷き、リオもマルコから顔を背けはしているが否定もしない、彼らも同じ気持ちのようだ。


「…力無い領主ですまない。君たちには苦労をかけるだろう。だがここに、君たちの生活を守ることを誓おう。」


「っ! うっす!任せるっす!!」

「……ふんっ…」

「…ありがとう。」



 こうしてローグはようやく村と呼べるほどに成長していくのだった。

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