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今回のダンジョンチャレンジははっきり言って大失敗であった。
家に戻ったマルコたちは反省会をしている。
「問題は、モンスターが多すぎたことだな。」
「あのっ、アーニエルから兵を借りたりはできませんか?」
ミャアもマルコが追放されたことは知っており、気を遣っておずおずと発言した。
確かにわかっている範囲ではモンスターは数が多いだけでそこまで強くはない。人手が集まれば解決できるだろう。
「うーん… アランならダンジョンの位置がわかっていればあとは名誉を拾うだけ、とか考えて喜んで兵を出しそうだよな。」
「それなら…」
「ただそうしたら、ローグの地の所有権は奪われるだろうな。」
マルコは間違いなくまた追放されるだろうし、獣人族を受け入れる話も領主たちがバルドルの狂信者の相手をしたがっていないことを考えると難しい。
「ならば無しだな。それより冒険者といったか?人間にはダンジョンでモンスターを狩ることを生業にいている者もいただろう? そちらはどうだ?」
「残念だけど冒険者たちを雇う金が無いし、そもそも大勢の人を一時的でも生活させる拠点としての能力がここにはないよ。」
「むぅ、それは確かに…」
クウガ納得したのか黙ってしまった。
「あのっ、モンスターズナイトの時に魔法を使ってたくさん倒すのはどうでしょうか?」
「いや、それは無理だ。」
ミャアの逆転の発送にクウガが答えた。
「むしろ本来なら我ら聖獣はそうやってモンスターから地上を護るのだが… いかんせん増えすぎたようでな。数の前に押し負けたから逆転を目指してダンジョン攻略をしようとしていたのだ。」
もっとも、それも失敗して穢れてしまったのだがな、とクウガは自嘲する。
解決法が思い付かず、重い空気が部屋に籠る。
「そういえばクウガはダンジョンをどこまで攻略できたんだ?」
空気を変えようとマルコはクウガに軽く聞く。
「一応祠の目前までは行けたのだ。ただ、そこでボスにあと一歩及ばなくてな。」
「祠までだって!?」
「ああ、言っておくがボスに負けたわけではないぞ? あんなやつ普段の我であれば楽勝だ。ただ1月以上ほとんど飲まず食わず、睡眠も無しの戦闘続きでへとへとに疲れておったせいであって…」
「そんなことより、本当に祠を見つけたのか!?」
ゴニョゴニョと言い訳がましくしゃべるクウガにマルコは思わずずいと迫る。
「あ、ああ、見つけたぞ? なんなら案内してやってもよい。あのときは彷徨って1月だったが、真っ直ぐ行ければ半月もかからんだろう。」
興奮気味のマルコに少し引きつつ、クウガが答えた。
「あの…祠って何ですか?」
会話についていけてないミャアが不思議そうに聞く。
「ああ、祠ってのは…」
祠とは、ダンジョン最深部にある謎の構造物だ。
誰がなんのために造ったのかはわからないが、どこのダンジョンにも存在し、ボスと呼ばれる強力なモンスターによって護られている。
「不思議ですね。」
「ああ、別にモンスターたちが祠を礼拝したりもしていない。ただ祠にはダンジョンコアがあるんだ。」
「ダンジョンコア?」
ダンジョンコアとは、祠に安置されている巨大な魔力の結晶だ。ダンジョンコアの魔力はダンジョン内の魔力と密接な関係があるとされている。ダンジョンコアが小さいとダンジョン内で生息できるモンスターは少なく、逆に大きくなればモンスターの個体数も多くなる。
「…このダンジョンコアの破壊か回収がダンジョン攻略の目標なんだ。まあ、大きなダンジョンコアは高値で売れる貴重品だから、出来れば回収が理想なんだけどね。」
「なるほど… あれ? それじゃあダンジョンコアがなくなったらダンジョンはどうなるんですか?」
「ダンジョンコアは無くなってもすぐに復活するよ。もっとも復活したばかりなら本当に小さいのがね。それが時間をかけて大きく成長していくんだ。」
そのため、ダンジョンの管理はモンスターの討伐や魔石の回収の他に、定期的なダンジョンコアの回収が重要なのだ。
「…そろそろ晩御飯の支度を始めようか?」
「…そうだな。我は魚がいいぞ。」
これ以上話をしても良い案は出ないだろう。
話を終わらせたマルコにクウガも少しおどけて答えた。
「はい、じゃあ釣りですね。ミャアがんばります!」
「ははっ、ミャアなら安心だな。大物期待しておるぞ?」
クウガが茶化すように言う。
釣りの腕前はマルコよりミャアの方が圧倒的に上だ。なんせ、獲物を見つける能力も気配を消す能力もチートじみている。
「そんなこと言うのならクウガのは野菜ばかりにしようかな?」
「嘘だ嘘、冗談だ。許してくれ。」
マルコも茶化すとクウガはおどけながら許しを乞う。
ハハハハハッと3人笑いながら海を目指す。
突然、ピタッとミャアが足を止めた。
「…50、60…80……」
「ミャア?」
「マルコ様、敵意はなさそうですが110人ほどの集団がこちらへ向かっています。」
「…人間ってこと?」
「はい。」
夕暮れ迫る穏やかな午後、その来訪は突然だった。
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