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「ミャア、いくらなんでもこれは……」


「ダメです! マルコ様は怪我人なんですから!!」


 無事聖獣の穢れを払い、家へ戻ったマルコたち。

 両手を怪我したマルコはミャアに包帯を巻いてもらったのだが… マルコの両手は過剰と思えるほどぐるぐる巻きにされて指を動かすことすらできない。


「一応ポーションで傷口はほぼ塞がってるようなもんだし、さすがにここまでする必要は…」


「ダーメーです! 無理したらまた傷口が開いちゃいます。」


「しかしこれじゃあなにも出来ないんだが…」


「大丈夫です! お掃除もお洗濯もお料理も、全部ミャアにおまかせください!!」


 ミャアは得意気に小さな胸を張る。


 しかし、なぁ…


「それなりに血を失ったんだ、満足に動ける身体でもあるまい。大人しく任せておけ。」


 テーブルの上から声がした。

 テーブルの上には純白の子猫が1匹。前に見た馬車サイズとは似ても似つかない姿だが聖獣だ。


 …確かに貧血気味で本調子には程遠いし、色々と聖獣から話も聞きたい。


「じゃあお願いしようかな? でも、水汲みとか家から離れる時はちゃんと一言言うこと。いいね?」


「はいっ!」


 ミャアは元気よく返事をするとパタパタ走っていく。


「やれやれ、ずいぶんと心配性だな。獅子の子が小さいからと言って猫と見誤るのはどうかと思うぞ?」


「うるさいな。獅子でも子供は大切に育てたいんだよ。猫なら自由に生きればいい。」


 神の御使いである聖獣とはいえ、なにも知らないぽっと出に口を挟まれてマルコは少しムッとする。


「しかしお前のやり方だといずれ自由を奪いかねんぞ?」


 うぐっ


 それは確かに… 耳が痛い。


「…さて、それでなにか聞きたいことでもあるんじゃないのか?」


 マルコの様子に忠告が刺さったことを見ると聖獣は話題を変える。


「とりあえず、その姿はなんだ?」


 助けた後くらいからしれっと子猫になっており、言っちゃなんだが威厳もへったくれもない。


「省エネモードと言うやつだ。情けない話だがダンジョン内で魔力が尽きてな、その後は知っての通り闇の魔力に飲まれて膨れていただけ。助けてもらったのだが魔力切れでこんな姿、というわけだ。」


「待ってくれ! ダンジョンの場所を知っているのか!?」


 聖獣は自嘲気味にさらりと言ったが、マルコとしては聞き捨てならない。


 ダンジョンは魔力が溜まって発生し内部には広大な空間が広がっているが、巨大ななにかがあるわけではない。溜まった魔力で空間が歪み、別世界に繋がっているのだ。

 そのためこちら側の世界には門しかない。門とは言うがなにか構造物があるわけではない。例えば岩の切れ目や木のウロ、分かりにくいものだと影の重なった部分などたまたま近くにあった境界となり得るものが門となっている。

 当然、自然にそこにあるものの中から境界となった門を見つけ出す作業は困難を極める。おかげで時として、ダンジョン攻略の最初の難関にして最大の難関と呼ばれるほどだ。


「森にあるものなら正確な場所を知っておるよ。

 …その事を気にすると言うことは、お前は本気でこんな土地に定住する気なのか?」


「ああ、実は……」


 マルコは半ば追放されてローグの地の領主となったことを説明した。


「…そういえば命を助けられた礼がまだだったな。」


 説明を聞き、少し考えた後、聖獣はゆっくりそう切り出した。


「? …そうだな。ダンジョン攻略に力を貸してたら……」


「いや、この地に巣くう悪を払うのは我のやるべきことだ。策があるのなら喜んで力を貸すぞ?っと…そうではなくてだな……」


「?」


「やはり命の礼となれば我に出来る最大限の感謝、契約しかないと思うのだが…」


「っ!?」


 聖獣との契約とは伝説やお伽噺の英雄でしか聞かないような特別なものだ。

 契約によって聖獣と繋がった契約者には聖獣の持つ様々なスキルや適正が与えられる。


「いやいやいや、それはさすがに貰いすぎだ。」


「いやいやいや命の礼だ。」


「いやいや礼と言うならミャアにしてくれ。ミャアが気付かなかったら俺はモンスターと勘違いして寝込みを襲っていたところだ。」


「いやいやそれには及ばぬ、あの子は我が眷族だ。穢れが払われたおかげですでに加護が贈られている。」


「加護?」


「ああ、信徒に与えられる祝福だ。獣人族の同系統…我で言えば猫人族にしか与えられぬ恩恵だがな。」


 人間種のマルコには馴染みがなかったが、加護は信徒であればすべからく与えられるものであり、むしろ契約の方がレアケースの例外なんだとか。


「いや、それでも契約は貰いすぎだ。」


「いや、だからその… ええいまどろっこしい!!」


 なんか知らんが歯切れの悪かった聖獣が突然キレた。


「こういった腹の探り会いは得意ではないからストレートに言うぞ! お前には我が眷属たちを保護して貰いたいのだ!」


「っ!?」


 確かに普通であれば大きく難しい問題だ。

 大量の移民を受け入れると言うことは隣国との軋轢を生むし、先住民と移民間でいさかいも起こる。


「願ってもないことだよ。ご覧の通りここにはまだ住民はミャアしかいないし、なにより俺はバルドル教のことが大嫌いだからな。ローグの領主として喜んで歓迎しよう。」


「そうかっ!! いやぁよかった。神と崇められてはいるが実は国や街など人の暮らしはさっぱりだからな。」


 マルコの答えに聖獣ははしゃぎ喜ぶ。


「それでは契約といこうではないか。なぁに遠慮するな、お前に万が一のことがあったら困るからな。

 …っと……我はクウガ、お前は……?」


「マルコだ。」


「そうか。マルコよ、少し頭を貸してくれんか?」


 クウガにそう手招きされ、マルコはテーブルに頭をのせる。


 コツン、とクウガの小さな額がマルコの額に合わせられた。


「我、光嵐の聖獣クウガは汝マルコを契約者とする。我は生ある内も死して後も汝の命のある限り、我の全てを捧げて汝の力となることをここに誓う。」


「あり、…いや、よろしく頼む。クウガ。」


「ああ、よろしくマルコ。」

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