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1. プロローグ


「やっぱり、不憫な当て馬って最高だわ……!」


 私、クロエ・フォンテーヌは読み終えたばかりのロマンス小説『永遠の約束を君に』をパタンと閉じると、結末の余韻に浸りながら、ふーっと深い溜め息をついた。


 当て馬──ロマンス小説で主人公二人の恋愛を盛り上げるために登場し、ヒロインに好意を寄せるもののヒーローには勝てずに恋破れてしまう可哀想なキャラクターのことだ。


 今読んでいた本には、その当て馬キャラが登場し、それは切ない恋模様を見せてくれた。

 完全に私好みのキャラクターとストーリーで、良質な当て馬の不憫で報われない描写を読むたびに切なさが込み上げ、充足感でいっぱいになった。


 そう、私は当て馬が大好きなのだ。


 主人公二人の恋愛ももちろん素敵だしときめくし楽しいけれど、一番惹かれるのは当て馬だった。


 ヒーローよりずっと早くからヒロインと仲の良かった幼馴染の当て馬に、いつしかヒロインに惹かれるようになってしまった敵役の当て馬、ヒロインに「お前を家族だなんて思ったことはない」などと言い出す義理の兄弟の当て馬……。


 数多あるロマンス小説の中には色々な当て馬がいて、どの当て馬も魅力的だ。

 大抵、ヒーローに引けを取らないほどの地位や容姿に恵まれ、想いの深さだって負けていないのにヒロインには選ばれないという不憫さ。

 愛する人と結ばれないからこそ、引き立つ魅力。


 それが堪らなく私の心を満たすのだ。

 まさに心の必須栄養素。


「小説の中だけじゃなくて、現実にもこんな風に素敵な当て馬がいてくれたらいいのに……」


 私はもう一度溜め息をついて興奮を落ち着け、素晴らしい栄養を供給してくれた当て馬キャラに感謝を捧げながら小説を本棚にしまう。


 すると、ドアをノックする音が聞こえ、返事をすれば妹のマリエットが顔を出した。


「クロエお姉様、これからお庭でダニエル殿下とお茶をするのだけど、お姉様もご一緒しましょ?」


 そうだ、今日は殿下が屋敷にいらっしゃる日だった。

 マリエットとダニエル殿下は最近婚約したばかりで、こうして屋敷や時には王宮で定期的にお茶会をして仲を深めている。


 (はた)から見てもお互いに気が合っていて仲睦まじい様子なのが微笑ましい。

 けれど、いくら実の姉と言えど、二人のデートとも言えるお茶会に同席するなんてお邪魔ではないだろうか。


「お誘いは嬉しいけれど、二人の時間を邪魔したくないわ」


 当て馬は大好きだけれど、馬に蹴られるのは御免だ。そう思って断ろうとしたのだが。


「お姉様、そんなこと言わないで。わたし、お姉様とも一緒にお茶がしたいの。……だめ?」


 甘えるように上目遣いで小首を傾げる妹がとても可愛い。

 こんな風におねだりされてしまっては、妹に甘い自覚のある私が断れるはずもない。


「わかったわ、それじゃあ私もご一緒させていただくわね」

「よかった! お姉様ありがとう! 大好き!」


 私は嬉しそうに抱きついてくるマリエットに腕を引かれながら、屋敷の庭園へと向かうのだった。



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「無愛想な教皇は瑞花の乙女を諦めない」
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